2013/11/02

【現場最前線】全国初のコンクリートダム撤去 荒瀬ダム本体等撤去工事

全国初の本格的なコンクリートダム撤去工事として注目を集める熊本県営荒瀬ダム。着工から1年が経過した今、ダム堤体に水位低下設備が設置され、上流部で貯水池に沈んでいた瀬が姿を現すなど以前の川の流れを取り戻しつつある。施工はフジタ・中山建設JVが担当、想定外の課題に対応しながら未知の領域に挑んでいる。


◇球磨川の発電専用ダム

 荒瀬ダムは、熊本県の急流・球磨川に1955年に建設された発電専用ダム。老朽化により、維持修繕や環境対策に多額の費用が見込まれることから撤去が検討され、最終的に2010年3月31日のダム水利権失効に伴い完全撤去が決まった。11年12月にダム除去許可を受け、12年8月に安全祈願祭を開き、本格着工した。
 工事は右岸先行スリット撤去工法で進められる。18年3月20日までの工期を年度ごとに6工程に分け、撤去範囲を設定して進める。施工に際しては、川に生息するアユの生育などに配慮し、堤防内の河川工事が渇水期の11月初旬から3月中旬まで、さらに水域内での工事は2月までの実質3.5カ月という厳しい制約が課せられている。
 桑本卓総合所長は、「工期がタイトな上に当時の詳しい図面や資料がそろっていない。まさに手探り状態からのスタートだった」と振り返る。
 初年度は、まず堤体上部の管理橋を工事用に拡幅し、上下流の仮設工事を実施した上で右岸側の洪水吐ゲートの撤去を進めた。下流側の施工ヤードを確保するために貯水池の水位を下げる必要があり、渇水期を待って水位低下設備工事を実施した。

◇FONドリル工法



具体的には、上流側にゲートを設置し、下流から放流工となる矩形トンネルを掘削する。掘削工事には、堤体構造への影響を抑え、迅速に施工できるフジタの保有技術「FONドリル工法」を採用した。
 ところが、ゲート設置前の調査ボーリングで河床にある岩盤が想定より高い位置にあることが判明した。オールケーシング工法で除去作業を進めたが、堤体のあごの部分から下は機械施工できず、潜水工による人力での除去作業となった。視界50cm程度と厳しい施工環境下での作業にひと月近くを要した。FONドリルによる掘削も、当時のコンクリート骨材が均質でないため、オペレーターが習熟するのに時間を要した。結局、2本の放流工トンネルのうち1本は1.7m分の掘削が残り、予定のことし3月までに完了したゲートは1門だけだった。
 桑本総合所長、宮地利宗所長は「この工事は一つひとつ手順を踏んで進める直列型の施工が特長。複数の工事を並列で進めることができないため、ほかの工程で少しずつ遅れを取り戻していく」と気を引き締める。

◇技術データ少ない

 これまでに、右岸側門柱と洪水吐きゲートの7、6門目の撤去を完了、現在は9本のピアのうち8番目、7番目の上部の撤去工事を進めている。今年度中に右岸側の管理橋3スパンと門柱の下部を撤去する。撤去工法はワイヤーソー工法、クラッカー工法、発破の3工法を試験施工し、安全で環境にやさしいワイヤーソー工法を採用している。今後は、撤去個所の特性や安全性、環境面などを考慮しながら最適な工法を選定し、施工する。
 来年度は、いよいよ河川内の堤体撤去に着手する。桑本総合所長は「技術的データが少なく、どういう性質のものかやってみて初めて分かることが多い。3年目までで一通りの工程を経験すれば、ある程度状況が把握できるのでは」と語り、今後の工事展開に期待を込める。その上で、「造る時もそうだが、まったく同じ現場はないからここでの技術がすべて他の現場に適用できるとは限らない。ただ、ダムのメンテナンスなどに利用できるコアな技術を習得できるいいチャンスになる」と未知の経験を今後の技術に生かす。
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