2015/06/28

【技術裏表】南極の自然と「けんかしない」12角形の観測棟 ミサワホーム47年の挑戦

南極昭和基地に建設される基本観測棟の部材生産を担当するミサワホームでは、部材製作の最終段階を迎えている。「けんかをせず、いかに自然と共存できるか」。商品開発本部技術部耐久技術課長の秋元茂氏は、51次越冬隊員の経験を踏まえ、施設づくりの考え方をそう力説する。南極での建物受注が36棟目を数える同社が導き出した基本観測棟のフォルムは12角形であった。

 まさに同社は南極昭和基地とともに歩んできた。第10居住棟を受注した1968年(10次越冬隊)は会社設立の翌年。日本から部材を運び、現地で組み立てるため、本業である工業化住宅のノウハウを生かせると、社を挙げて南極昭和基地と向き合ってきた。その実績は、今回の基本観測棟を含め36棟総延べ5900㎡に達する。
 南極での施設づくりは、極寒の環境下でも耐えられる高性能な部材供給だけが重要視されるわけではない。結成される南極隊員は夏隊約40人、越冬隊約30人の70人体制。気象観測船「しらせ」は11月に日本を出発し、海洋観測をしながら現地に向かうため、昭和基地に到着するのは12月末。夏隊が帰国する翌年の2月までに、隊員が力を合わせて施設づくりを完了させる。

秋元茂氏
「建設作業の専門家ばかりを連れては行けない。隊員それぞれに役割がある。ただ、現地での施設づくりだけは皆が参加するため、誰にでも組み立てられる作業性が求められる」(秋元氏)。積み荷は約1000tに達し、この荷下ろしも隊員が総出で行う。施設づくりに費やせる時間は「実質3週間ぐらい」しかない。
 同社が初めて木質パネル部材を提供した第10居住棟では、外壁パネル同士を簡単に接合する方法として、上から下に金具を締め付けるだけで強固に接合できる「南極金物」を考案した。営業推進本部法人営業課参事で商品開発本部技術部の南極プロジェクト担当も兼務する手塚啓氏は「常に挑戦の連続」と語る。12角形のフォルムを採用した基本観測棟では「実は96年に手がけた第1居住棟での反省点を生かした」と明かす。

作業工程には1階部の土台、床パネル、柱を組み立てた後に2階の床張りを行い、その後に壁パネルを設置するフレームアンドパネル(F&P)工法を採用した。重要なのは壁パネルを簡単に接合できるか否か。「当時の第1居住棟では専用の締め付け金物を開発したが、複雑になってしまい、作業性を妨げた。今回はビスだけで組み立てられるように改善した」(手塚氏)。
 12角形のフォルムにも意味がある。極寒の環境下でも耐えられるように、風洞実験を繰り返し、この形に行き着いた。「外壁に雪を付きにくくするには、風をうまく切ってくれるようなフォルムが重要だった。本当は球形が理想だが、施工性を考慮した」(秋元氏)。基本観測棟は2階建て延べ416㎡となり、自社で手掛けた中で5番目に大きな規模。ことし12月(57次観測隊)に部材を搬入し、1期工事を16年12月(58次)から、2期工事には17年12月(59次)から着手し、全体完成は18年2月の予定だ。

海岸上空からみた基地主要部
近年、昭和基地の計画施設も色合いが変わりつつある。基本観測棟はオゾン、気象、オーロラなどの観測に関連した複数の機能を担う。将来の研究テーマに応じて自由に間取りが変更できるような設計条件も与えられた。秋元氏は「私が越冬隊員(51次)として参加した際、基地配置計画のあり方を検証する役割も与えられていた。インターネット環境の進展で研究の省力化が進んだことで施設づくりも複合の研究機能を持たせる流れとなり、規模自体も大型化している」と解説する。
 同社グループの山梨工場で製作された基本観測棟の部材は極地研究所に運ばれ、7月中旬から仮組み立てが開始される。
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