2014/11/18

【復興特別版】石巻のバージョンアップ目指す「ISHINOMAKI2.0」 理事・渡邊さんに聞く

震災を契機に地元の若手商店主らと首都圏の建築家やデザイナーなどで立ち上げた「ISHINOMAKI2.0」(宮城県石巻市、松村豪太代表理事)。同市中心部を震災前よりもバージョンアップさせるまちづくりを展開し、人口流出や少子高齢化という社会的課題の解決にも取り組んでいる。理事の1人で中核事業のひとつ「2.0不動産」の代表を務める渡邊享子さん(東工大大学院博士課程、日本学術振興会特別研究員)=写真=は、震災直後から住環境デザインとコミュニケーションを切り口に、市中心部に必要なコンテンツを備えた開かれた場づくりや、移住者のための住環境整備を進める。一昨年に移住し“第2のふるさと”と呼ぶまちの復興に掛ける思いを聞いた。
 現在も同市の復興に携わる東工大大学院社会理工学研究科社会工学専攻真野研究室に所属する渡邊さんが、初めて石巻を訪れたのは2011年5月。学部生では地理学を専攻し、大学院から本格的に都市計画や建築を学び始め、首都圏の木造住宅密集市街地におけるリノベーションや住環境デザインの手法などを研究してきた。これまでの経験を生かし、仲間とともに石巻中心部を丁寧にリサーチ。眠れる資源を掘り起こしつつ、被災した屋内外の空間をうまく活用しながら、コミュニケーションの拠点形成とにぎわい、交流づくりを進めている。

◆家具ブランドを設立、海外にも

 石巻2.0は、震災で失った夜の社交場を復活させた“復興BAR”を皮切りに、被災者のDIY(日曜大工)による復旧を支援するために“石巻工房”を設立。家具ブランドとして会社化し、海外の見本市にも出展している。さらに市内初のシェアオフィスやコミュニティーカフェ、復興民泊ルームなど「街中に必要なコンテンツを備え、初めて石巻を訪れた人が立ち寄りたくなるような開かれた場」を次々と開設。さらに旧北上川の川開きに合わせ毎年7月下旬から開催しているイベント週間「スタンド・アップ・ウィーク」を始め、日常から地域を盛り上げる活動に奔走している。

ベネッセコーポレーションと協働した移動式遊具PLAY BUS
震災以降、石巻には人口の倍以上の28万人がボランティアなどで訪れた。現地にとどまり新たなことを始めようという若者も少なくないが、いまだ応急仮設住宅に暮らす被災者も多い。さらに公費解体制度の影響で、まだ使える建物の撤去が進むなど、同市の住宅事情が厳しい中、「若者のライフスタイルに合う流動性に耐えられる住まいが必要だと考えた」と、2.0不動産を立ち上げた。
2.0不動産では、解体寸前の老朽家屋や店舗の空きスペースなど「一般の不動産会社が手を出さないような物件」を1件ずつ交渉しながら、大家と住まい手をマッチングさせている。また、リノベーションのための設計や施工をサポートする体制を構築。ワークショップの手法を活用し、改修作業には地元の高校生なども参加する。

◆店舗空きスペースで住まいづくり

 店舗の空きスペースを改修する住まいづくりは、商店主の高齢化と空洞化が進む商店街に新たなにぎわいを創出し、持続可能な仕組みとして期待が高まる。移住希望の若者と高齢の商店主との共生は、一見ミスマッチに思えるが「自分たちが間に入り、丁寧にヒアリングして、大家さんの負担軽減につながる仕組みをデザインすれば、無理のない自然な形で共生できる」とコミュニケーション力で課題解決に挑む。

お茶屋の空いていた2階を改修したシェアハウス
これまで手掛けた物件は6件。進行中の物件の中には、改修した店舗の隣人から頼まれたケースもあるという。「個別の案件を積み重ねれば、必然的に連鎖反応が起きる。それぞれの住まい手が自分を表現しつつ、商店街に新たなコミュニケーションを育んでほしい」と手応えとともに先を見据える。
 「本質的なものをリサーチしながら前に進むという原点を忘れないようにしたい」と語る渡邊さん。「震災前は石巻に全く縁がなかった自分を家族のように暖かく受け入れてくれた仲間と同じ目線で前進していく」と“第2のふるさと”の復興に意欲を燃やす。
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