2015/04/07

【国連防災会議】商店街防災展、南三陸の子どもメッセージ 市民目線のシンポジウムも開かれる

第3回国連防災世界会議が3月14日から18日までの5日間、仙台市などで開かれた。国連に加盟する187カ国から約6500人が出席し、パブリック・フォーラムなどの関連行事には延べ15万人以上が参加した。会議は各国が取り組むべき防災や減災対策の指針について話し合う場だが、その具体化には一般市民の意識啓発が不可欠だ。東北地域づくり協会(菅原政一理事長)などが市民目線で企画・開催した「被災地、ともに考える防災展」と「重層的な津波避難対策の展開シンポジウム」の内容を紹介する。写真は中心商店街の防災展の様子。

◆中心商店街の防災展に3万人

 「被災地、ともに考える防災展」は、東北地域づくり協会と東北大学災害科学国際研究所、河北新報社の3者でつくる実行委員会が3月14日から16日までの3日間、仙台市中心部の商店街・ぶらんどーむ一番町アーケードで開いた。東日本大震災を振り返り、未曽有の被害と教訓を市民とともに考えようと企画した。

○海岸線の航空写真も展示


会場となったアーケードには、津波によって甚大な被害を受けた岩手・宮城・福島3県の海岸線106地点の被災前後の航空写真パネルや、人工衛星“だいち”の衛星写真などが展示された。買い物客や世界会議の出席者ら約3万人が立ち寄り、被害の大きさを物語るパネルを興味深く見つめていた。

○経験から未来へ備え語り継ぐ

宮城県南三陸町・ホテル観洋の伊藤俊さん
また、15日には特設ステージで宮城県南三陸町・ホテル観洋の伊藤俊さんによる震災体験談、同町の子どもたちの復興に向けたメッセージ発表が行われた。
 伊藤さんは、ホテルのバスで南三陸町を案内しながら地震・津波から命を守る術(すべ)や、命の大切さを伝える“語り部”として活躍。これまで6万人以上の観光客らが伊藤さんの“語り”を聞いた。
 この日も約100人の聴衆を前に「震災の話は忘れてしまいたいことや、つらいこと、消してしまいたいことも多いが、未来のために伝えている。未来をつくっていくのは子どたちであり、その子たちを導くのは、われわれ大人の役目だ」と、語り続けることの意義を訴えた。
 その上で、震災の風化が進む一方、自身も含めて多くの人々がいまだ仮設住宅での暮らしを余儀なくされている現状を説明しつつ「南三陸町の“いま”を見にきてほしい。町全体ががんばっている姿を見てもらうことで、新しいアイデアや復興の力も生まれるはずだ」と強調した。
 さらに「災害から大切な家族を守るためには、過去の経験から学び、未来へ備えることが大切だ。『家族がいて、ふるさとがある』という当たり前のことを失わないでほしい」と呼び掛けた。

◆南三陸町の子どもたちがメッセージ

復興に向けたメッセージを発表した阿部真知さんは「私たちは震災でたくさんのものを失い、たくさんの人の涙を見た。自分たちが経験したことを二度と繰り返さないために子どもたちに伝える必要がある。未来の子どもたちは、つらい顔をせず、笑顔で頑張っていてほしい」と話した。
 阿部大夢君は「未来に残したいものは、南三陸町の海だ。地震が起きても大きな防波堤をつくればいい。震災でなくなってしまった、お店も必要だ」と訴えた。
 阿部璃加子さんは「震災は避難訓練を徹底していた南三陸町に大きな被害を与えた。過去の震災だけでなく、未来の震災を考えて訓練することが大切だ。震災の記憶を未来に伝え続けていきたい」と語った。

◆重層的な津波避難対策の展開シンポジウム

3月16日に仙台市青葉区のアエルで東北地域づくり協会と仙台市、「カケアガレ!日本」企画委員会が開催した重層的な津波避難対策の展開シンポジウムには、市民ら約120人が参加した。
 冒頭、東北大学災害科学国際研究所の今村文彦所長がビデオメッセージで「震災で多くの経験と教訓を得たわれわれは、これらを後世に伝えていく必要がある。特に課題が残った津波からの避難行動について、情報提供や避難訓練などの検討が必要だ」と語り、津波防災の取り組みを発信するシンポジウムの開催意義を強調した。

○緊急情報システムを高度化、事例発表

堀宗朗東大地震研究所教授
続いて、堀宗朗東大地震研究所教授が「緊急津波避難情報システム」、仙台市は「仙台市における津波防災の取り組み」、河北新報社は「津波避難訓練モデルの実践と検証(カケアガレ!日本)」についてそれぞれ事例発表した。
 このうち、堀教授は東北地域づくり協会や今村教授らと共同で開発した同システムの概要や名取、仙台両市で実施した社会実験の結果などを報告した。
 同システムは緊急地震速報と連動し、電子メールアドレスの事前登録者に適切な避難場所を配信。避難場所到着後、ワンクリックで返信すると管理者や家族などに避難・安否状況が配信される。社会実験の参加者からも、好評を博している。
 堀教授は今後、位置情報取得の簡素化や津波以外の自然災害の情報提供、より高度な災害・被害の推定などに取り組む考えを示した。
 仙台市は多重防御の考え方に基づき、防波堤・防災林やかさ上げ道路、津波避難タワーなどのハード整備を急ぐとともに、地域ごとの避難計画づくりを支援していく方針を示した。
 河北新報社は、“避難行動の習慣化”を目標として、▽地域独自の避難ルールづくり▽持続的・習慣的に実施される津波訓練プログラムの開発▽今後巨大津波が想定される国内外へ津波避難訓練プログラムの普及・拡大--の3つのミッションに取り組んでいることを紹介した。

平川新宮城学院女子大学長・東北大名誉教授
事例発表に続いて、「教訓をどう生かし、伝えていくか」と題して講演した平川新宮城学院女子大学長・東北大名誉教授は「震災前にBCP(事業継続計画)の策定に取り組んでいた企業は、非常に回復が早かった。より大きな取り組みにするため、SCP(社会継続計画)の策定を提唱したい」と強調した。
 その上で「災害が発生した時に、どう行動するかを個人で考え、家庭で相談しておくことは、災害対策だけでなく、自分や家庭の継続計画にもなる。町内会や職場、行政が事前に対応を検討することもすべて命を守り、社会を継続するのに役立つ。SCPの普及こそが、災害に強い社会にしていくために重要だ」と述べた。
 一方、震災の教訓を後世に伝えるための一例として震災遺構を挙げ「遺構は災害の現場に残された情報として、次の災害への心構えをつくり、鎮魂の場にもなる。メッセージを発信し続ける災害遺構は、われわれの将来に大いに役立つ」と遺構保存の必要性に言及した。
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