2016/10/16

【奏楽堂】保ち・守り・使う! 歴史を紡ぐ日本最古の洋式音楽ホール保存活用工事



 当時は愛知県の野外博物館明治村に移転する予定となっていたが、日本建築学会などから現地保存を訴える声が高まった。このため、台東区が東京芸大から校舎を譲り受け、約300m離れた上野公園内の一部の土地を東京都から借り、87年に移築した。音楽教育の記念碑的な存在であり、音響・遮音効果に対する技術的な工夫が見られる建物として、88年には国の重要文化財に指定された。写真は保存活用工事前の奏楽堂
 移築以降は音楽ホールや公開展示施設として活用されてきたが、耐震基礎診断の結果、大地震時に倒壊の可能性があることが判明したため台東区は2015年12月、建物の耐震補強、内外部の補修・塗装、各設備の更新などを統合した保存活用工事に着手した。
 保存活用工事について台東区は「奏楽堂は音楽史的にも建築的にも貴重なもの。単純に保存するだけではなく、生きた文化財として公開・活用し、価値を後世に継承するのが事業の意義」(文化振興課担当者)と説明している。

壁内部に詰められたわら

 建物は壁面や床を二重構造とし、その内部にわらやおがくずを入れて遮音効果を上げるなど、技術上の工夫が施されているのも特徴だ。今回の壁面補強工事では、外壁解体後に、壁内部のわらを取り除き、枠受材を取り付け、わらを戻し、構造用合板を入れる。その後、外壁材を取り付け、塗装する。わらは移築後から入っていたもので、一部劣化したものは取り除き、そのまま入れ直した。

取り外した外壁材の一つひとつに木札で番号をつけた

 壁面補強工事の様子は9月9、10の両日、台東区が現場見学会で公開した。重要文化財の内部構造を見学できる機会とあって、2日間各4回で合計161人が参加した。
 重要文化財のため、「外観を変えず、一度外した外壁材をまったく同じ位置に復旧しなければならない」(文化振興課担当者)のもポイントとなる。建具や外壁材など1万弱のパーツ一つひとつに木札で番号をつけ、細心の注意を払っている。

9月に行われた現場見学会。中央奥のパイプオルガンは修復のため撤去されている

 このほか、徳川頼貞侯が1928年に東京音楽学校へ寄贈したコンサート用では日本最古のパイプオルガンを修復する。音楽ホール・展示施設として再び公開するため、整備活用工事として出演者用仮設トイレや玄関自動ドアの新設、客席用いすの取り替えなども行う。内装材に開ける穴は極力減らす計画だ。
 旧東京音楽学校奏楽堂の規模は地下1階地上2階建て延べ1910㎡。構造は地下がRC造、地上が木造となっている。総事業費は約7億8000万円を見込む。設計・監理は文化財建造物保存技術協会、施工は建築工事が松井建設、電気設備は日本電設工業、機械設備は當木工事・松尾工業JV。
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