2013/03/31

【伊東豊雄】プリツカー賞受賞の伊東氏にインタビュー

伊東豊雄氏が、“建築界のノーベル賞"と称される国際的な建築賞「プリツカー賞」を受賞した。伊東氏は日本建築学会賞作品賞(シルバーハット、せんだいメディアテーク)、毎日芸術賞(八代市立博物館)、芸術選奨文部大臣賞(大館樹海ドーム)、日本芸術院賞(同)、高松宮殿下記念世界文化賞、王立英国建築家協会(RIBA)ロイヤルゴールドメダル、ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展金獅子賞(日本館)など、国内外から高い評価を得ているわが国を代表する建築家の一人。米国建築家協会(AIA)とRIBAの名誉会員でもある。東日本大震災後には精力的に被災地に入り、復旧・復興活動や「みんなの家」プロジェクトなどを通し、「建築とは」「建築家とは」を問う。


◇正確な評価が嬉しい

 「今回、詳細な講評・コメントが発表された。それを読むと、一つは建築の可能性を広げたという革新性に対する評価であり、もう一つは、革新的であるにもかかわらず成熟度の高い、利用者も安心できる施設をつくってきたことが評価された。これまで自分自身がやろうとしてきたことをかなり正確に評価してもらい、うれしく思っている」

◇場所性、歴史を建築の中に

 「東日本大震災前から、公共の建築を通して近代主義が行きすぎているのではないかと感じていた。つまり、評価の対象が、機能を的確に組み合わせることや性能の良さにあまりにも偏りすぎている。そこでは地域独特の個性、地域あるいは人々が継承してきた歴史性などを排除せざるを得ない」
 「それを何とかしたい、もっと自然に開くことによって歴史や場所性を建築の中に取り込まなければならないと思っていた。その場所だからこそつくれる建築をつくりたいと言ってきた、と考えている」
 「また、大学のスタジオに関わったりすると、若い人たちは建築のリアリティーを失っている感じをものすごく感じるようになった。それを何とかしたい、若い人と一緒に問題を考えなければならないと考えてきた」
 「そこに東日本大震災が起こり、ちょうど私塾(伊東建築塾)を立ち上げた矢先でもあったので、すぐに塾生と被災地を訪れた。被災地では、人と人、人と自然の関係を大事にしており、この人たちのために何かを考えることが、問題を解決することになるとも思った」
 「発災から2年になるが、行けば行くほど、良いコミュニケーションができているし、私自身も学生も元気づけられたり、教えられたりしている」

◇一人の人間として考える

 「建築とは本来、いろいろな人、多くの人と一緒に考えながらともにつくっていくものだと思う。ところが、被災地を離れると、こういう当たり前のことが当たり前でなく、被災と被災地以外の地域の間にはさまざまなレベルでギャップがある」
 「しかし、だから『みんなの家』をつくる意味がない、ということではないと考えている。近代建築のシステムの中でつくられてしまった建築家像を一度全部捨て、建築家というより一人の人間として一緒にものを考えてつくるとどうなるか。建築家と一人の人間を区別せず、“建築家で何ができるか"という 鎧 (よろい)を捨てると、もっと違ったものが見えてくるはずだと思った」
 「普段、建築家としてやっていることと一人の人間としてやっていることの間にあるギャップをどう認識するかで、近代の建築家像を批判的に見る目が養われるに違いない。そこから建築家像を捉え直す、修正していくということをやってみたい、というのが現在の気持ちだ」

◇新しい方法の一つ

 「どんな方法で建築をつくろうが、最終的にそこに形、表現が存在することは否定できない。しかし、その表現を目的とするか、結果として表現になるかではずいぶん違うと思う」
 「東日本大震災と直接関係はないが、多くの、いろいろな人とものをつくっていくことに興味があった。自分のイメージはあるが、話し合いながらつくることで自分が想像していたことからもう一歩進んでいく。それをもっと強くしたいと考えている」
 「言い換えると、建築家のエゴイズムを弱めることができるか、どれだけ自我を捨てることができるかだと思う。それはすごくおもしろいことであり、新しい建築を生み出す一つの方法だと思っている。そして、このこともまた、近代という枠からはみ出すことができるかという問題でもある」
 「また、中沢新一さんとの対談の中で、『建築家はネゴシエーターでいい』と言われたことがある。まさしくそうだろうと思う。いろいろな人と話し合いながらつくっていく。そのつくられるプロセスをデザインすることが、建築家にとって重要な仕事になると思う。それは現実肯定ということではなく、建築家としての思想をはっきり持っていなければならないし、その思想の基で柔軟に対応していかなければならないと思う」
 「『みんなの家』で学んだことをいかに日々の仕事に組み込んでいけるかを考えている。ただ、その答えが見つかるまでもう少し時間がほしい」
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年3月28日

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