2013/10/13

【素材NOW】LNGタンク向けニッケル鋼ついに7%へ 半世紀ぶりの技術革新!!

「まさに技術の結晶」と豪語するのは新日鉄住金の田中睦人厚板商品技術室長。大阪ガス泉北第一工場で建設中のLNG(液化天然ガス)タンクには、同社が1980年代から研究を進めてきた「7%ニッケル鋼板」が初適用された。タンク内槽部ではマイナス162度の極低温貯蔵に耐える素材として、ニッケルを9%含ませた鋼板が半世紀にわたって使われてきただけに、7%の実用化は鉄鋼業界内にも大きなインパクトを与えている。


◇これまでの常識は9%

 LNGタンク用鋼材は、安全性の追求とともに進歩してきた。そもそもニッケル含有量は3.5%に定められていたが、44年に米国オハイオ州で起きたタンク爆発事故がきっかけとなり、52年に米国で9%ニッケル鋼板が初採用され、それが現在のスタンダードになった。7%の実用化は、まさに半世紀ぶりの技術革新だ。
 鉄は温度が下がると、ガラスのように割れやすくなるぜい性破壊を引き起こす。LNGの貯蔵にはマイナス162度の極低温状態でも破壊安全性の強度を保てるニッケルを含ませた鋼材が採用されてきた。「実は7%ニッケル鋼板の研究は、アルミニウム合金に勝つための議論がきっかけになった」と、厚板商品技術室の安藤隆一主幹は振り返る。

 
内槽に3800㌧のニッケル綱が使われている
◇製造法にカギ

 LNGタンカーに搭載する貯蔵タンクの素材が、9%ニッケル鋼ではコスト高になるとの理由から、アルミ合金が選ばれた。コストを抑えるにはニッケル量を減らす必要があり、旧新日本製鉄でニッケル量削減の研究がスタートしたのは80年代。当時は5.8%ニッケル鋼の技術開発に一定のめどをつけたが、革新的過ぎるとの意見から幻に終わった経緯がある。
 7%ニッケル鋼の実用化に道筋をつけたのは、製造方法の進歩だった。熱加工制御のTMCP技術は圧延後すぐに水で冷却する仕組みで、金属組織の制御範囲を大きく広げ、金属の結晶粒の微細化を実現する。「粒径は平均22ミクロンから8ミクロンに、3分の1まで細かくなり、極低温状態でもぜい性破壊を起こしにくい強度を持たせることができる」(安藤主幹)。
 TMCPは、寒冷地用の天然ガスパイプライン技術として80年代に開発された。量産を実現する製造方法であったため、より高い強度性能が要求される分野への導入を段階的に進めてきた。この30年の間に技術、設備、管理手法が着実に進歩し、造船、建築に対象を広げ、そしてもっともグレードの高いLNGタンクへの適用につながった。

 
熱加工制御のTMCP技術
◇7%綱を8割使用

 12年9月に始まった泉北第1工場の5号タンク工事は本体の土木部分を大林組、内槽の機械部分をトーヨーカネツが担当。高さ60m、直径87mのタンクは容量が23万立mで世界最大の規模を誇る。内槽用鋼材量4800tのうち、7%ニッケル鋼は約8割を占める。すべてを出荷済みで、現場では曲げ加工された鋼板の溶接が急ピッチで進められている。
 新日鉄住金には、この3カ月間でガス・電力事業者、ファブリケーター、エンジニアリング会社など国内外から十数件の引き合いが舞い込んでいる。国内のLNGタンクに2件目の適用も決まった。希少で高価なニッケルを9%から7%に引き下げる効果は絶大だ。ニッケル使用量を2割削減でき、製造コストでは1割の削減効果を生む。しかも9%ニッケルと同等の性能を維持できる。

◇ニッケルも節約

 単に建設コストの低減効果だけではない。四十数年で枯渇すると言われる希少なニッケルの省資源化に加え、価格変動リスクにも対応できる。世界のLNG基地建設市場は鋼材使用量換算で年間8万t。シェールガスに代表されるクリーンエネルギーとして天然ガスの生産需要も期待できるだけに、LNG貯蔵や輸送拠点の建設は今後さらに増加が見込まれる。
 新日鉄住金のマーケットシェアは約4割。数年後には、7%ニッケル鋼板の出荷量を年2万tまで引き上げる目標を掲げる。田中室長は「製品自体のコスト競争力に加え、TMCPという真似のできない差別化技術も強み」と自信をみせる。泉北5号タンクは、15年11月に完成する予定だ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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