2012/08/13

ヴェネチア・ビエンナーレに陸前高田の「みんなの家」を出展

陸前高田で建設中の「みんなの家」
29日に始まる第13回ヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展の日本館展示に、乾久美子、藤本壮介、平田晃久の若手建築家3氏と写真家の畠山直哉氏が参加する。現在、岩手県陸前高田市で建設中の「みんなの家」と同時並行で進め、この家のプロセスを展示する計画だ。

◇「これからの世代を担う若手を起用」伊東氏

 同建築展の準備が佳境を迎える中、日本館展示のコミッショナーを務める伊東豊雄氏は、東京都港区に設立した伊東建築塾の講座として、5日に参加作家を招いて事前報告会を開いた。日本館の展示テーマは「ここに、建築は、可能か」。仮設住宅に住む人びとが希望を持てる場づくりに建築がどのようにかかわれるのか、実際に建設するまでのプロセスを通じて考えることが、テーマに込められた思いだ。
 第一線で活躍する若手建築家3人のコラボレーションについて伊東氏は「優秀な建築家が、建築に対して少し異なる視点を持って臨むことができれば、世の中にもっと溶け込んでいけるのではないか」と期待を込める。
 参加建築家は、2011年末から週に1回のペースで集まって案を出し合った。伊東氏は「それぞれがものすごいエネルギーを持って、模型をたくさん出してきた。どうすればいいのか分からず、不安だった」と振り返る。
 一方、3人も「空回りでフラストレーションがたまっていた」(乾氏)、「当初の案は外向きではなかった」(藤本氏)、「これまでやってきたことを、どうやって一から新たに組み立てればいいのか」(平田氏)など、とまどいやためらいを抱えていた。


伊東塾で話す伊東氏
◇あらたな敷地が転機もたらす

 転機は、新しい敷地によってもたらされた。仮設住宅の住民で、げん氣ハウスみんなの家代表の菅原みき子さんから、広く平野を見渡すことができる場所を紹介された。「まちを見渡すことができ、特別な場所だということが分かるような敷地だった」(平田氏)、「これから起こる復興を見続けられる場所」(乾氏)、「敷地が持つ力が大きく、陸前高田の要衝であることが分かった」(藤本氏)。
 これを機に、3人の感覚が一つのベースの上で共有されるようになった。その象徴が、津波をかぶって立ち枯れした杉材を柱に使ったことだ。立ち枯れた杉が柱に生まれ変わり、人が集まる空間を構成することになる。
 藤本氏は「いろいろな思いが、自分たちの中に染みこんできた。その場所に自然にわき上がるように設計ができていった」と振り返る。
 平田氏も「3人ともそれぞれに悩みを持っていたが、ある時から自分たちの話をしなくなった。立ち枯れた杉材を使うなど、家のかたちができていくにつれて、最初の悩みは消えていった」と、“解脱"していった様子を説明する。


「みんなの家」の模型
◇みんなの家は10月に完成へ

 陸前高田市出身の畠山氏は、「もともと、陸前高田にみんなの家が建つ予定はなかった。10カ月経って、物事がこのように動いたことに感動している」と、建築展でのパノラマ写真展示に意欲を示すとともに、プロジェクトの実現に期待を寄せる。
 伊東氏は「3・11の後で、少なくとも被災地では従来のような仕事はできない。仙台市宮城野区につくったみんなの家は、いったん、いままでの建築を捨てて取り組んだ。新しい発見があり、建築のすばらしさを感じる感動があった」と思い起こす。
 作品性を取り払い、そこにいる人のための建築を追求した結果、本来の建築が持つべき姿が浮かび上がってきた。ゲスト参加した演出家・アーティストの多木陽介氏は「“作品"が抜け落ちた透明性がある。これまでは軽やかさや透明さは物理的なものだったが、みんなの家の透明性は、創造行為そのものの透明性だと思う」と締めくくった。
 陸前高田市に建設中のみんなの家は、木造2階建ての仮設建築。10月中の完成を目指す。ヴェネチア・ビエンナーレ建築展の会期は8月29日から11月25日まで。ジャルディーニ地区の日本パビリオンに、陸前高田のパノラマ写真と10分の1スケールの模型などを展示する。






0 コメント :

コメントを投稿