2012/08/24

港の風景と調和する「丘のような庁舎」 長崎県庁舎の設計

九州地区の県庁舎としては、1996年に竣工した鹿児島県以来となる全面的な本庁舎移転建て替え計画が長崎県で進められている。公募型設計プロポーザルに入選した日建設計・松林建築設計事務所・池田設計JVが提案したのは、低層化によるコンパクトで風景に溶け込む「丘のような庁舎」だ。新庁舎が建つ長崎港は、1571年にポルトガル船が入港し、交易を求めたのを機に開港、江戸時代には唯一世界に向けて開かれた港として西洋文化を受け入れ、日本に新しい風を吹き込んだ。その長崎港を望む地に、これまでにない新しい県庁舎のイメージが具現化される。

◇あえて低層化してコスト削減

 長年の懸案となっていた長崎県庁舎整備事業は、2011年1月に県議会が早期着工を求める「新たな県庁舎の建設に関する意見書」を採択したのを受けて、県が同年2月に長崎魚市跡地に新庁舎を建設することを表明、同時に基本構想を公表した。その後、東日本大震災が発生したため、地震や津波、液状化などについて、安全性を再確認した上で事業化に着手した。
 基本構想は、「県民とともに新しい時代を切り拓く庁舎づくり」を基本理念に、県民生活の安全・安心を支える庁舎、県民サービス向上のための機能的で新時代環境共生型庁舎、県民に優しく親しみを感じる庁舎--の3つの基本方針を設定した。施設は、行政、議会、警察の3棟を配置し、行政棟は地下1階で地上16-18階建てと高層棟を想定していた。
 この基本構想を基に11年12月、行政棟・議会棟の基本・実施設計と駐車場棟の基本設計を対象とする公募型プロポーザルを公告、12年3月の公開審査で日建設計JVを最優秀者に選定した。
 日建設計JVは、行政棟を基本構想で示された高層棟ではなく、あえて低層化することで建設コストの低減や環境との共生、時代の変化に応じたフレキシビリティーの高さなど未来志向を感じさせる提案を行った。
 また、ランドスケープ空間を建物上部まで広げ、広場と一体化することで県民や観光客が憩える場としての可能性も期待されるなどの点が高く評価された。
 この提案を受け、県は7月に基本設計方針をまとめた。周辺のまちづくりとの連携、長崎駅の新駅舎からの眺望確保などに配慮し、敷地西側に行政棟と議会棟、東側に警察棟、中央部に駐車場棟を独立して配置する。駐車場棟は高さを新駅舎ホーム以下に抑え、屋上は広場として活用する。


◇集い、憩える空間

 全体のイメージは、県民に優しく、県民が親しみを感じ「港」の風景と調和した「丘のような庁舎」とし、庁舎の敷地は、通常公園として使用される防災緑地と一体となって集い、憩える公園的な空間とする。稲佐山など観光地からの景観にも配慮し、長崎の新しい景観づくりをリードするデザイン計画とする。
 建物のデザインは、水平性を強調し、陰影と深みがある外観とするほか、風景に溶け込む建物ボリューム、緑が立体的につながるおおらかさを心掛ける。
 行政棟は8階建てで最上階に展望施設を設け、隣接する議会棟は6階建てとする。行政棟の執務室はオープンフロアとし、低層階には交流・協働の機能を設ける。また、外部負荷の低減、消費エネルギー、ライフサイクルコストの削減など環境に配慮するとともに、防災拠点としての機能も持たせる。
 県は、7月31日には警察本部庁舎の設計プロポーザルを公告した。10月下旬に公開審査を開き、設計者を選定する予定だ。全体デザイン計画では、行政棟・議会棟と似たデザインとする協調的な調和、異なる傾向のデザインとする対比的な調和など、さまざまなパターンが考えられるとしており、「丘のような庁舎」のコンセプトに対し、どのような提案が出されるのか興味は尽きない。

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