2014/03/14

【都市を守る】目指せインフラの高度化・高規格化 災害時対応も綿密に

バリアフリー化の要望から設置した寛永寺陸橋エレベーター
東京都建設局が事業展開の柱に据えるキーワードは、「高度防災都市づくり」「戦略的メンテナンス」「インフラの多機能利用」。地域住民に一番近いところで汗をかく現場ではさまざまな工夫を凝らしながら、この3つのキーワードの実現を目指す。北区、荒川区、足立区、台東区、文京区の計5区を所管する第六建設事務所は--。補修課の取り組みを追った。

 取り組みの根底にあるのは、道路空間を始めとするインフラの高度化・高規格化だ。そこには更新期を的確にとらえつつ、既存のインフラに積極的に手を加え、利便性や防災性を高めていく発想がある。
 それはさながら維持管理・補修の分野が生み出す既存の構造物をフィールドにした新たなプロジェクト。既存施設に積極的に手を加えていくことは、多岐にわたるユーザーの声を形にしていく新しい公共事業のスタイルとなる。
 その一例が、2013年10月に寛永寺陸橋(台東区根岸)に設置したエレベーターだ。
 寛永寺陸橋は、JR山手線などを跨(また)ぐ寛永寺橋から鶯谷方面につながる橋梁。近隣にあるJR鶯谷駅や上野公園、徳川将軍家の菩提寺である寛永寺などに向かうため、線路を横断するには、同橋に併設した階段が唯一の手段となっていた。ただ、この階段は約60段ある。第六建設事務所(六建)の上本竜太郎補修課長が「地域の方々からバリアフリー化の強い要望があった」と話すように、エレベーターの設置は地元住民にとっての念願にもなっていたという。
 通常、既存の橋梁にエレベーターを設置するには、構造物の脇にあるスペースを利用するケースがほとんど。しかし「この橋の場合にはそのスペースがなかった」
 検討を重ねた結果、六建は陸橋上部の車道と歩道を分離するわずかな空間を活用。「橋梁の構造物そのものをくり抜く形で、下部構造を改築してエレベーターを設置した。非常に狭あいな作業環境で施工管理に工夫を求められる現場になったが、無事故で完了することができた」
 構造物をくり抜くという、ある意味“荒療治”とも言える珍しい取り組みは、バリアフリー化の実現に向けた現場サイドの工夫そのもの。地域住民からの期待に応える「インフラの高度化・高規格化」を実現した好事例だ。
 また、エレベーターには、六建で初めて4カ国語(日本語、英語、韓国語、中国語)の案内板を設置するなど、利用者サービスの視点を重視したという。
 都市景観の面だけでなく、防災面での効果も高い無電柱化事業や自転車走行空間整備事業、道路緑化の推進、15年度末の完了を目指す緊急輸送道路に架かる橋梁の耐震補強、震災復興橋梁の長寿命化など、「インフラの高度化・高規格化」を実現する取り組みは枚挙にいとまがない。
 高度防災都市の実現、戦略的なメンテナンス、そして造り上げてきたインフラの多機能利用。現場の最先端でキーワードの実現を目指す知恵と労苦が、東京のインフラの価値を高めている。
2月8日の大雪対応

 六建では、「高度防災都市づくり」の一翼となる災害対応の面でも新プロジェクトが進行している。その一つがTwitter(ツイッター)やLINE(ライン)といったソーシャルネットワークサービスを活用した情報連絡の検討だ。
 災害時にタッグを組む建設企業(災害協定締結事業者)との連絡会議で「(企業側から)ラインやツイッターが有効な通信手段になる」という意見を受け、入都4年目までの若手職員の職場研修の一環として、日常、使い慣れているスマートフォンのアプリを使った災害時の情報連絡手法を独自に検討し始めたという。
 「建設企業との通信手段は日常的に使い慣れているものを活用した方がいい。二重三重の備えとして、複数の通信手段を確保しようという試みになる」と、その狙いを説明する。
 行政にとって、道路啓開など災害対応の場面で、まず必要になるのが被害状況の把握だ。
 建設局では、災害時の情報通信手段として、MCA無線機やGPS(全地球測位システム)機能付き携帯電話を用いた連絡体制を構築。六建は、これらの通信機器を活用して、建設局の訓練時以外にも独自に月2回の定期訓練を重ねている。
 しかし、被災時には、通常の通信手段が不通になる場合が多い。災害対応の現場では、建設企業も含めて、日々使い慣れ親しんでいるツールを活用することも重要になるとの認識がそこにはある。
災害協定会社を示した安全ベスト

 このほか、地震発生時の対応や点検、六建災害対策本部への報告内容などを分かりやすくまとめた携帯用パンフレットの作成、災害協定会社を示した安全ベストの製作、災害協定会社が地元区の行政防災無線ファクスを使用して情報連絡する方策など、独自に建設企業との密接な連携体制を構築する取り組みも進む。
 「災害対応は決してボランティアではない。昔に比べれば、地元企業も資機材や人員の面で課題を抱えていることは否定できないだろう。災害対応の場面でも企業側の状況を踏まえながら、計画を練り上げていかなければ、絵に描いた餅になってしまう危険性がある。首都直下地震など大規模地震への切迫性を抱える中で、真に実効性の高い計画を作る段階にきているのではないか」(上本補修課長)とみる。
 建設局内では、第三建設事務所が都道路整備保全公社と連携して災害対応専用の資機材置き場「道路防災ステーション」を設置、道路啓開などに用いるホイールローダを日常的に配備する取り組みがスタートしている。
 六建は、所管区域の地形的にも、都心から見れば、荒川や隅田川の外側になるため、「災害時には、ともすれば(都心と)分断あるいは孤立する可能性もある。そのことを考えれば、三建での道路防災ステーションの効果検証を重ねながら、他の事務所にも横断的な展開を進めていくことも含めて、実効性を高めていくことを考えていかなくてはならない」(上本補修課長)と見通す。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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