2014/05/08

【建築】新たな人間関係・建築空間 「SHARE yaraicho」篠原氏、内村氏に聞く

半透明のテントが1階から3階までをすっぽりと包む(撮影:平野太呂)
シェアハウス「SHARE yaraicho」は、東京メトロ東西線神楽坂駅から徒歩数分の閑静な住宅街にある。目を引くのは道路に面した巨大な半透明のテント膜だ。1階から3階までをすっぽりと包み込みながら、内部と外部とを緩やかに結び付ける。そのテント膜入り口のファスナーを開けた先には、7人の住人による共同生活がある。家族ではなく他人でもない、「同居人」という新たな人間関係のあり方。そこで建築が果たす役割について、設計した篠原聡子氏(空間研究所)、内村綾乃氏(A studio)に聞いた。
 「単身者向けの賃貸住宅を考える時、狭小敷地で個別の部屋に風呂・台所があるのは不合理。新しい建築空間として『シェア』という考え方を提案した」と篠原氏は語る。クライアントからは入居者ニーズがあるのかを不安視する声もあったが、「単身者の調査や最近の動向からニーズを確信していた」という。
 その一方で、入居後の運営については「どうなるのか分からない面もあった」とも。居住者によって住まい方が大きく変わるため、設計に当たっては「ゆるく使える」ことを重視した。「いまの住宅は『現在』の状況や機能に合わせ過ぎている。本来、住宅は人間よりも寿命があるはずで、住みながら住民がカスタマイズしていけば良い」と強調する。

内村綾乃氏(左)と篠原聡子氏
内村氏は「SHARE yaraicho」で暮らし始めて2年目を迎えた。定期的なミーティングを開き、より良い暮らしを実現するための話し合いを続ける。家具などもミーティングを経て住民たちが製作した。「シェアハウスはどう運営するかが重要。建築だけでなく、住民の影響が非常に大きい。住民の入れ替わりがあればまた新しいことも起こる可能性があり、完成した後も変化し続けている」と実感する。
 こうした住民同士のコミュニケーションの重要性が高いだけに、建築の側面からも積極的な対話を生み出す工夫が求められた。篠原氏は「人間関係のあり方と建築のあり方は不可分」と語り、各々の部屋が内部に閉じない空間で、外部の入り込む余地があるよう設計したという。

1階のワーキングスペース。入り口のファスナーを開放することで外部に開かれた空間となる
1階には3階部分まで貫く吹き抜けとワーキングスペースを配置し家具製作などに活用できるようにしたほか、2階には共用の本棚、3階には広間とキッチンを設けた。各階に個人の部屋と共用部分を設けることで住民同士が顔を合わせる機会を増やした。「あいさつするだけでも、毎日誰かに会うことが重要ではないか」と内村氏。
 こうした住民同士の開かれた関係は、「SHARE yaraicho」と外部との関係にも呼応する。篠原氏は「住宅とは本来、社会的な空間を内包するもの」とした上で「いまのように、住宅が外部から閉じこもってしまった都市は楽しくない。住宅が農家の土間のように社会に対し半ば開かれた空間を持ち、場合によってはふと立ち寄れる空間が欲しいと思っていた」と語る。入り口のファスナーを開放し、1階のワーキングスペースを利用したパーティーなどを開催することも多い。
 現在、単身者を中心にシェアハウスのニーズが高まっている。その理由は「情報」「コミュニケーション」「経済性」とさまざまだ。篠原氏は「いま、都市に住むことが新しいフェーズに入ってきた」とした上で「これまで『家族』か『施設』しかなかったが、『シェア』というコンセプトが第3の選択肢として成熟した日本社会の中でニーズを持っているのだと思う」と分析。内村氏も「シェアハウスに住むと、通常の友人とも他人とも違う距離感になる。個を重視する時代が続いた結果、ひとりではなく、家族とも違う住まい方が求められていると感じる」と語った。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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