2014/11/17

【山下PMC】建設投資-日本社会における適正規模と適正なリソース配分について 2020以降の建設学

建設業界は活況にもかかわらず、世の中は景気が低迷しているとのことだ。本当にそうなのだろうか? それは消費のことだろうか? それとも投資のことだろうか? 消費のことならば分かる。よく言われる消費税アップ後の消費落ち込みの影響が出ているのだろう。それでも、こと投資、それも設備投資に関して言えば、どの業種からの引き合いも旺盛であることを考えると、それほど景気が低迷しているとも考えにくい。

 景気の回復が話題になるたびに、「大企業はともかく、中小企業は……」といったようなネガティブな意見が飛び出してくる。代案のない批判で国民を戸惑わせたところで、景気の底上げには何の役にも立たない。かえって上向くマインドを下げることにしかつながらない。今は短期の変動に一喜一憂することなく、中長期をしっかり見据えていくべき時なのではないだろうか。なかなか効果を見せないといわれるアベノミクス3本目の矢である成長戦略だが、水面下では着々と進行している。一例を挙げれば、日本型の企業統治指針「コーポレートガバナンス・コード」と機関投資家行動指針「スチュワードシップ・コード」を設定して、新事業進出への設備投資をさらに促進していこうとする政策である。日本は、上場企業の内部留保が過大だといわれている。従って単純に法人税減税を実行しただけでは投資に回す企業は増えないので、投資としてのおカネを吐き出さざるを得なくなるようなハサミ打ち作戦を取ろうとしているのである。
 これなどは、わたしたち建設業界に従事する者にとって、かなり注視すべき政策だと思われる。思い切った設備投資はもとより、CRE(企業不動産)戦略をさらに高度化しようとする動きが進み、CREの流動性も活発になることで多様なビジネスチャンスも出てこようというものである。これが医療福祉関連法人や学校法人、ひいては公共団体にまで波及していけば大きな社会的うねりとなって影響が及んでくるはずである。確かに、もう1つ待望されている経済特区のほうが、わたしたちの業界にとっても即効性のある分かりやすい政策には違いないが、効果の範囲は前者に比べ限定的ではないかと感じている。

 現在、日本の実質GDP(国内総生産)は年間530兆円くらいになる。押しも押されぬ経済大国であり成熟先進国家である。失われた20年というが、バブルのころから比べれば、実質GDPは100兆円以上も増えている。途中の変動はあったにしても、大きな見地ではしっかりと成長しているのである。
 一方、国内建設投資は1992年の84兆円を頂点に減少の一途をたどり、直近では年間50兆円内外で推移している。つい3年前までは40兆円近くと最高時の半分以下にまで落ち込んだ。実質GDP比率で言えば、3年前で8%、現在で10%弱といったところだ。一見、大変な事態のように感じられるが、他の欧米先進諸国の一般的水準が7-9%であることを考えると、むしろ最近のほうが正常で、90年代までは異常だったのだ。土建国家と揶揄(やゆ)されていたのも今は昔、名実ともに成熟先進国になっただけのことである。直近の10%弱という数値など、むしろ高いくらいである。

 それでは今後、建設投資はどうなっていくのだろうか? 2020年までは大丈夫として、それ以降は心配だ、という声が大勢を占めている。でも、わたしは日本が現在のGDPを堅持していく限り(すなわち成熟先進国である限り)、それほど減らないのではないかと思っている。GDP比で判断しても、少なくとも40兆円以上は維持していくのではないか。というのも、1960年代から70年代にかけての高度成長時代に集中投資してきたインフラや建築物が、これから20年代にかけて一斉に償却年数を迎えることになる。ということは、次の償却に向けて再投資しなければならない機会が用意されているということである。ただ、また繰り返し同じように造っていいわけがない。よりよい未来を切り拓くことのできる“国造り”というより“国創り”が重要なのである。それも建設分野だけではない多くの業種を統合するようなマクロ的視野を持って。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

0 コメント :

コメントを投稿