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建設工事の動きDigital

建設専門紙が本気でつくった工事データベース

2011/11/30

連載・BIMはIMへ/#5 番外編・オランダの建築

アムステルダム中央駅
 ベントレー社の「Be-Inspired」イベントが開かれたオランダ・アムステルダムには、多くの先進的な建築が存在する。オランダ自体が建築に力を入れている国であり、建築家の登録数は8000人を超え、建築の生産額はGNP(国民総生産)の1・5%にも達する。
 まずアムステルダムの中心に位置するセントラルステーションは、アムステルダム国立博物館を設計した建築家、カイペルスによって設計され1889年に完成した。オランダの“陸の玄関”として中心的な存在で、駅には時計と風向計を備えた2本の塔がある。赤レンガ造りで、外見が東京駅と非常に似ていることなどから、2006年4月に姉妹駅の締結をした。
 アムステルダム中央駅の北側にある人工島、KNSM島は、1876年に当時のロイヤルダッチ・スチームボート・カンパニー(KNSM)の客船ターミナルとして構築され、1990年代に再開発が始まった。この島には伝統的なレンガ造りの住宅とは異なり、大規模で洗練されたモダン建築が数多く建築されている。
EmeraldEmpire
 この島の一番東側に立地しているのは「Emerald Empire」という円形集合住宅。この島のマスタープランを手掛けたヨー・クーネンが設計し、1995年に竣工した。
 アムステルダムを代表する現代建築家集団としてMVRDVがある。ヴィニー・マース、ヤコブ・ファン・ライス、ナタリー・デ・フリイスの3人の頭文字をとった建築ユニットで、アムステルダムでは高齢者向けの集合住宅「オクラホマ」などが有名だ。彼らは2007年、東京の表参道に「GYRE」を建築し、各層を回転しながら積み上げ、はみ出した部分にテラスなどを配した特徴的な建築を実現している。
 アムステルダムの建築を知ろうとする際、非常に有益な場所として「ARCAM(アムステルダム・センター・フォー・アーキテクチャー)」がある。中央駅の東側、レンゾ・ピアノ設計の「NEMO科学センター」へと渡る桟橋の付け根に、小さなガラス張り3階建てのユニークなビルがアーカムだ。
ARCAM
 アーカムは1986年に組織され、ことしで25年目となった。
 ここではアムステルダムの建築にかかわる時事ニュースを始め、街にある建築マップ、詳細なデータ、書籍、雑誌なども自由に閲覧できる。アムステルダムの都市計画や建築の歴史についても展示されており、800年代からこれまでの建築の変遷も理解できる。組織として建築関連の各種イベントも主催し、エキシビジョン、公開講座、出版、教育にも貢献している。
 アーカムの建物は2003年に完成したもので、若手建築家レネ・ファン・ズークが設計し、大胆なカーブとアルミニウム外板が目を引く。
 古くからの街並みと近代・現代建築が調和するアムステルダムには、都市計画や建築に対する探求心が広く息づいている。建築デザインを広く理解することに役立つ都市の一つである。
(おわり)

AIA JAPANデザイン大賞を受賞/佐々木設計事務所

 佐々木設計事務所の佐々木龍一代表と西村和哉氏が、米国建築家協会(AIA)北西部・太平洋地域日本支部が主催する「AIA JAPANデザイン大賞」を受賞した。
 受賞作品は、BASE南青山(東京都港区)。佐々木氏は、2007年に続いて2度目の同賞受賞となった。
 受賞作品は、18タイプのユニットで構成する小規模商業複合施設。筒状の構造体がずれながら並び、隙間から光が内部に差し込む。レイヤー状のラインプリントとガラスが重なり合い、特殊な奥行き感と内外の関係を構築する。

けんちくのチカラ演ずるプロが語る・ピアニスト/仲道 郁代さん

 ピアニストの仲道郁代さんは、音(音楽)が「媒体」としての強い可能性を秘めていると言う。従来のクラシックコンサートのほか、幼児のための読み聞かせを交えたコンサート、演劇とのコラボレーション、大学と共同研究など自身の活動を通してその可能性を広げている。「音を感じるのは耳からだけではなく五感を使っています。音は空気の振動。その振動が『空気感』で、建築は空気感に重要な役割を持っていると思います」。五感への音のアプローチが閉じられたホールは多いが、仲道さんが至福の環境を持つと言う「八ヶ岳高原音楽堂」(長野県)は、舞台後方が大型のガラス窓で、外に開かれた空間だ。ここに広がる立体的な自然は別次元の喜びを与えてくれるという。

 大屋根と六角形の外観が美しい八ヶ岳高原音楽堂は、標高1500mの高原に佇む。ピアニストのスヴャトスラフ・リヒテルと作曲家の武満徹のアドバイスを受けて、日本の伝統とモダニズムの融合で知られる吉村順三が設計した。
 「音はものすごく可能性のある『媒体』だと思うんです。音を通してお客さまが、自分を見つめることができる。五感を使って、外的な環境を感じることができる。その2つの側面を持っているのではないでしょうか」
 「演奏するのは建物の中ですが、外と断絶されずに内外のボーダーなしに、さまざまな自然を感じて音に浸れる喜びはとても大きいですね。お客さまも、演奏する側も別次元の世界に行ったような感覚になります」
 残響1・6秒という小ホールとしては申し分ない音響空間も確保している。「人間というのは不思議で、数値を超えた五感が快適さを決めるようです。八ヶ岳高原音楽堂の自然は何ものにも勝るという感じですね。その自然環境と建物に木をふんだんに使っていることで、音はとても温もりのある自然な響きだと思います」
 閉じたコンサートホールでの音のアプローチでも、物の持つ質感から受ける影響は大きく、建築の空間は大切だという。
 「より一層音楽の本質を考えていきたいですね。現在やっていることのほかに、五感を駆使して人と向き合うということを提案したいと思っています」
 (なかみち・いくよ)桐朋学園大学1年在学中に第51回日本音楽コンクール第1位を受賞。国内外での受賞を経て1987年ヨーロッパと日本で本格的にデビュー。温かい音色と叙情性、卓越した音楽性が高く評価され、人気、実力ともに日本を代表するピアニストとして注目を集めている。

2011/11/29

連載・BIMはIMへ/#4 クラウド

クラウドサービスについて話す
ブーピンダーベントレー社上席役員
・マイクロソフトとOSで提携
 11月初旬、ベントレー・システムズは、立て続けに企業提携についてのニュースリリースを発表した。アドビシステムズ社、ブルービームソフトウエア社との3D-PDFを使った「i-model」に加え、マイクロソフト社のクラウドサーバー技術「Azure(アズール)」を使ったクラウド関連技術の提携もその一つだ。
 マイクロソフト社のアズールは、別名「クラウドOS」とも呼ばれる。これまでマイクロソフト社が発売していたサーバー向けOSは、あくまで企業内のサーバーにインストールして使うものだったが、アズールはマイクロソフト社が立ち上げたデータセンター内のサーバーの使用を前提にしている。ハードウエアもデータベースもストレージもマイクロソフト社のデータセンターに置かれることになる。
 クラウドの分かりやすい例としては、グーグルが現在提供しているGmailやグーグルドキュメントのようなもので、基本的にはインターネットブラウザーでサーバーにアクセスして、個々のパソコンに依存しない環境を構築できる。
 ベントレー社はこのクラウドを活用して、AECO(設計、エンジニアリング、建設、運用)の全段階で、世界のどこにいてもデータ共有できるサービスを目指す。
 同社のブーピンダー・シン上席役員は「当社ユーザーの大半が、設計図書の受け渡しや各種書類の管理に膨大な手間とコストをかけている。ベントレーのクラウドを利用した転送サービスでは、このプロセスを合理化・自動化できる」と話す。
 ベントレー社は、「プロジェクトワイズ(同社の協業プラットフォーム)」「アセットワイズ(同じく運用情報モデリングプラットフォーム)」というシステムを開発しているが、書類自体にセキュリティーとモバイラビリティーを与える「i-model」と、その転送手段となるクラウドサービスを使って、AECO全般を通した情報の一元化が実現できると考えている。

・多様組織の情報共有解決

ベントレー社のポータルサイト
 クラウドを活用した転送サービスでは、CADから直接図面などのパッケージを出力して、受け取る人にメール通知できるほか、図面パッケージに対する意志決定、注釈、対応状況を厳密に管理できる。また受取人が最新の更新情報を持っているか、期限が経過していないかも把握してメールで通知する。
 大規模なプロジェクトになるほど、設計、構造設計、ゼネラルコントラクター、サブコントラクター、ファブリケーター、監督官庁、発注者、運営管理者など、そのワークフローに関わる組織や人の数は増える。さらにそれぞれの人たちの間で、日々状況が変化する情報を共有することは非常に難しく、現在でも多くの手戻りが発生している。
 クラウドは、多くの組織が参加する建設事業において、このような責任の切り分けや更新情報の厳格な管理という難題を解決できる可能性を持っている。

昭和基地に「膜分離活性汚泥法」使った汚水処理装置/三機工業が開発

 南極昭和基地に「膜分離活性汚泥法」を使った汚水処理装置が整備される。これは三機工業が納入するもので、国立極地研究所が発注した。南極昭和基地の既設設備が老朽化したため、更新と同時に処理水質と維持管理性能を高める。国内の排水基準に照らしてもそん色のない高度な処理水質を確保するため、膜分離活性汚泥法を採用しているという。
 装置は、処理水と汚泥を膜で分離するため、従来の装置より高度処理できる。反応タンクを小型化できる上、最終沈殿池が不要になるため、設備が小さくなる。
 また、プレハブ方式なので、現地の施工、設置が簡単で、設備の維持管理も容易だ。
 設置環境下が零下30度という凍結対策として、設置室を断熱パネル、コンテナで造り、ユニットヒーターで暖めるとともに、処理タンク本体を保温材、ヒーターケーブルで巻き、設置室内は10度、タンク内の水温は15度程度に保つことができるという。

東京スカイツリーの都市型水族館の名前が「すみだ水族館」に

 オリックス不動産は、東京スカイツリータウン内に開設する都市型水族館の名称を「すみだ水族館」に決めた。併せて、ロゴマークも作成した=写真。西街区の5-6階にオープンする水族館は、エンターテインメントと教育的要素を併せ持つ施設となる。
 延べ床面積は7,140㎡、総水量は約700t。設計は大成建設、施工は大成建設・東武谷内田建設JVが担当している。オープン予定は2012年5月22日。

2011/11/28

連載・BIMはIMへ/#3 コンピューターのメリット

  
UNスタジオのタックスオフィス
 ベントレー社の「Be Inspired」では、コンピューティショナル・デザインに関する実事例が多く公開された。UNスタジオの「EEA&Tax Offices」やArupの「ArtScience Museum」などだ。
 UNスタジオがオランダに設計したオフィスビル「EEA&Tax Offices」は25階建ての高層ビルだが、ファサードに取り付けられたルーバーに特徴がある。各階のファサードには、帽子のつばような大きなルーバーが連続して取り付けられているが、建物の東西南北でその断面が変化する。
 季節ごとの太陽軌跡を計算し、夏は日差しが室内に入らず、冬は最大限日照を取り込む形が厳密に計算されている。そのため三角形をしている断面は、方向によってとがったり正三角形に近い形へと連続して変化する。
 さらに建物の平面も、ビル周辺の風を使って建物を自然に冷却する構造を採用した。飛行機の翼のように風を整流し、夏季には建物の冷房を最小限にする。自然の要素をできるだけ取り入れて、CO2発生量を最小にすることがこの建築の狙いだという。

 一方、Arupがシンガポールのマリーナ・ベイ・サンズでデザインした「ArtScience Museum」は、構造の可能性への挑戦のような建築だ。手のひらを上向きに開いたような構造物が、10本の柱で支えられ空中に浮かび上がっている。内部は膨大な量の鉄骨が組み合わされ、手のひらからは10本の「Finger(指)」と呼ばれる構造物が天空に伸び上がる。

 驚くべきはその設計期間の短さだ。入札時に16週間でワイヤーフレーム構造解析と当初設計、入札書類作成などを終えている。さらに建設フェーズでは12週間で、最終設計、誤差15mm以内での表面調整、工事書類作成、鉄骨製作業者向けのモデル作成まで完了した。

Arupの美術館

 設計は、ライノセラスによる設計、ベントレー社のGC(ジェネレーティブ・コンポーネンツ)によるパラメトリック・デザイン、ベントレー・ストラクチュラルによるモデル化、マイクロステーションによる図面化、テクラ・ストラクチャーによる鉄骨詳細加工図面製作を、データ連携させながら行ったという。  
 重量4900t、延べ4400人の鉄骨製作者、83に及ぶ構造図面という巨大な建築でも、コンピューティショナル・デザインとBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)によるデータ連係が、短期間でも複雑な設計が可能なことを証明した。
 ベントレー社のブーピンダー・シン上席役員は「IM(インフォメーション・モデリング・アンド・モビリティ)は、建築、構造、エンジニアリング、コントラクター、ファブリケーターなどインダストリーが複雑化している中で、いかに1つのモデルに情報を集約することができるかが重要だ。われわれが提唱するモデリングとモビリティーは、たくさんの情報をつなぐための概念だ」と話す。




伝統の技をアピール/日左連関東が伝統工法研修会

 左官の技を広めよう--。日本左官業組合連合会関東ブロック会(長谷川哲義会長)は、埼玉県鴻巣市の埼玉県左官業協会で「伝統工法及び現代工法継承研修会」を開き、約110人の参加者が熱心に受講した。冒頭、長谷川会長は「今回の研修内容を地元に持ち帰り、仲間や設計者などに報告してほしい」とあいさつした。
 研修会では同協会の篠崎幸男、野本藤男の両氏が講師となり、それぞれ「地元の伝統工法・埋もれてしまった工法等」「地元建築の設計要因(設計アプローチの手法)」をテーマに講演。篠崎氏は土物壁、洗い出し、磨き出しなどを説明した上で、「丈夫な壁をつくるには左官の方から良いものを提案することも大事。左官の良さをアピールしてほしい」と参加者に求めた。野本氏は東日本大震災などの教訓を踏まえ、住まいづくりのポイントを説明した。
 この後、エバーウォールジェーピートレーディングのスタンレー・D・ジョンソン代表による「メーカー工法説明」、日本左官業組合連合会の鈴木光理事による「左官に関わる法的要因」と題した講演も行われた。
 実技研修では、埼玉県左官業協会の担当者が若い世代の参加者に「真壁」「なまこ壁」「洗い出し」などの伝統工法を伝授した=写真。受講者に修了証書が授与された。

『前へ!東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録』麻生幾著

 高度情報社会と言われる今日、情報通信手段が途絶することでもたらされる混乱はどの時代よりも大きい。わが国観測史上最大の激震は、この現代社会の命綱を一瞬にして断ち切った。その時、問われたのは「人」の力である。
 本書は、誰も経験したことのない未曾有の広域複合災害に強固な使命感を持って立ち向かった無数のプロフェッショナルたちの姿を活写したものだ。
 全容はおろか、「今、どこで何が起こっているのか」すら分からない状況にあって、タイトルのとおり、ただ「前へ」ひたすらに突っ込んでいく。その背中を押したのは、その先に「救えるはずの命」があることを誰もが知っていたからにほかならない。
 発災当夜から救援のための道路啓開に奮迅し、暴走する原子力発電所に決死の覚悟で赴く。その筆致にはわが国の最大の資源は「人」だという思いが込められている。それは人を得ないこの国の「政治主導」の危うさもまた浮き彫りにしている。
(新潮社・1575円)
amazonへのリンクです。 前へ!―東日本大震災と戦った無名戦士たちの記録

2011/11/25

連載・BIMはIMへ/#2 コンピューティショナル・デザイン

algodeに展示されたシェルターの製作
  「ジェネレーティブ」「アルゴリズミック」「コンピューティショナル」「インタラクティブ」「ジオメトリック」。建築デザインの世界で、急速にこれらの言葉が使われるようになってきた。発達したコンピューターの能力を生かして、幾何的な概念やアルゴリズムで構造や意匠を生成する手法は、世界の建築に浸透し始めている。
 今月13、14の両日、東京・芝の建築会館で、アルゴリズミック・デザインの国際エキシビジョン「ALGODE TOKYO2011(アルゴデ)」が開かれた。米プリンストン大で教べんをとる建築家のジェシー・ライザー氏が、無数に穴が空いたコンクリート製の波打つファサードで覆われたドバイのビル「O14」を題材に基調講演したほか、つくばエクスプレスの柏の葉キャンパス駅(千葉県柏市)などをアルゴリズミックデザインで設計した渡辺誠氏らも登壇、学生を始めとする多くの聴衆にデザインの目的をアピールした。

ビルバオ・グッゲンハイム博物館

 ビルバオ・グッゲンハイム美術館の設計で有名な米国の建築家、フランク・ゲーリー氏は、同美術館の設計に航空力学向けのソフトウエア「CATIA」を適用、構造や部材の設計にコンピューターを活用した。コンピューティショナル・デザインは、このころから建築の世界に進出し始めた。
 構造や部材の数量決定に使われたコンピューターは、最近になってデザインそのものを決定するツールとしても使われている。イラク出身のザハ・ハディッド、スイス出身の建築家ユニット、ヘルツォーク&ド・ムーロン各氏らも積極的にコンピューターを活用している。
 従来の概念にとらわれない設計が可能になってきたのは、手計算では不可能な複雑な要素を、パラメーター、スクリプト、アルゴリズムで解析できるからだ。人間は建築に求められる機能を定義し、解析はコンピューターにやらせるという分担が可能になった。
 例えば、地球上の各地で異なる太陽の軌跡に合わせて、一番熱負荷の小さなルーバーを建物に取り付ける設計もできれば、逆に最も効率のよい太陽電池パネルの置き方も計算できる。
 アルゴデ2011では、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)や東京理科大学などの学生がアルゴリズミック・デザインで設計した、被災地向けのシェルターが展示された。3次元CADとモデリングツールを使って設計した図面から、部材のデータを取り出して、レーザーカッターでベニヤ板を成型、組み合わせて作り出した。
 こうした取り組みは、海外では多くの大学院なども行っているが、日本で本格的に開かれたのは今回が初めて。このエキシビジョンは、日本建築学会の情報システム技術委員会(委員長・加賀有津子阪大大学院教授)と、アルゴリズミック・デザイン小委員会(主査・池田靖史慶大教授)が開いたものだ。
 アムステルダムで開かれたベントレー社の「Be Inspired」アワードでも、オランダの建築家ユニット、UNスタジオや、英国の組織事務所、フォスターアンドパートナーズ、技術コンサルのArupなどがコンピューティショナル・デザインについてのプレゼンテーションを行っている。

談合坂のエクスパーサがグランドオープン/中日本高速道路

 中日本高速道路会社と中日本エクシスが、中央自動車道談合坂サービスエリア(SA)下り線で進めてきた商業施設改良工事が終わり、複合商業施設『エクスパーサ』が25日グランドオープンした。中央道でのエクスパーサの展開は初めてとなる。
 木や石、黒い鉄製フレーム、ガラスカーテンウオールなどで造り上げたアースカラーの建物は「ナチュラル・ヒーリング・リゾート」がテーマ。山梨県という地域特性を考慮し、ワイナリーのような空間を随所で演出した。飲食店を中心に全19店舗が出店する。
 施設規模はS一部軽量鉄骨ブレース造平屋建て5369㎡。今回の改良工事で、施設全体のイメージを刷新するとともに、1616㎡を増築した。投資額は約9億5000万円。4月に工事着手し、駐車場部分を含めて12月には全工程が完了する予定だ。設計施工は清水建設が担当している。
 フードコートには従前の30%増となる384席を確保。キッズスペースのほか、ホテルロビーのようなリラックススペースを設けた。大画面ディスプレイで観光情報などを発信する情報コーナーや、中日本高速管内で最大規模のドッグランも整備。女性・若手社員の企画提案をもとに、トイレ空間にもこだわった。

記者座談会・地方整備局などの移譲を国会へ法案提出か

会見する野田首相
A 全国ゼネコントップや地方業界でいま、地方整備局など国の出先機関を廃止し、事務・権限をブロック単位に移譲する「出先機関の丸ごと移譲」が話題になっているね。
B その話は昨年12月に閣議決定されていて、2012年通常国会に法案を提出し、準備期間を経て14年度中に事務・権限の移譲が行われることを目指すと明記されている。それが今になってなぜ話題になっているかと言うと、関西広域連合、九州地方知事会を筆頭に、国の税源や権限移譲に対し首長が前向きなことと、これまで地域主権改革への言及がほとんどなかった野田首相が、来年通常国会への法案提出に言及したことが理由だ。
C でも法案提出へ中間整理をする目的で、10月に開いた政府のアクション・プラン推進委員会は冒頭、内閣府担当室による「広域的実施体制の基本的枠組みに係る検討課題」を提示した。席上、委員の上田清司埼玉県知事が「議論が戻っていることに不快感がある」としたほか、橋下徹大阪府知事(当時)が「(出先機関廃止が)いやならはっきり止めたと言えばいい」などと反発が相次ぎ、予定されていた議題も先送りせざるを得ないほど紛糾した。
B だから、議論を進めようとしない役所への不満が、10月下旬に野田首相が議長を務める「地域主権戦略会議」で噴出したんだ。首相はこの時、「この会議を機に、尻をたたいて進めたい」と前置きし、「来年の通常国会に法案を提出したい」と発言した。つまり出先機関の丸ごと移譲へ向けた動きの潮目が10月の主権戦略会議でがらりと変わったと思う。
D 確かに。会議では野田首相の発言を裏付けるように、政務官が、年内に広域連合への移譲へ向けた議論の集約を図って、来年春にはブロック単位での移譲についての全体像を固めたいと断言した。
A でも建設業界内には出先機関改革は、道州制移行とのセットで、だから時間がかかるとの見方も多い。
C 道州制をイメージするのは、昨年12月の閣議決定の文言にある「出先機関の事務・権限をブロック単位で移譲することを推進」が理由だと思う。内閣府担当室が、10月のアクション・プラン推進委員会に猛反発を承知で、広域連合の組織安定性・永続性や監査・透明性などのガバナンスのほか、出先機関の管轄区域と広域連合の区域が一致しない場合の対応など16項目にわたる検討課題を提示したのも、出先機関移譲の、受け皿(自治体)への不安が本音としてあるんだと思う。
D 特に、できることから先行してやればいいと主張する関西広域連合の加盟府県には、四国地整管轄で徳島県、中国地整管轄では鳥取県しか参加していない一方で、関西地整管轄の奈良県と、河川で一部管轄する福井県が参加していない。
B 10月下旬の地域主権戦略会議が出先機関丸ごと移譲の潮目と言ったけど、もう一つの注目は27日の大阪府知事選と大阪市長選だ。元々、府と市の二重行政が問題になっていたけど、選挙結果次第ではさらに出先機関廃止と丸ごと移譲論が一気に加速する。
A でも建設業界から出先機関廃止への不安の声は余り出ていないけど。なぜだろう。
B 遠い将来の話で現実的には難しいと思っていることが大きな理由だと思う。もう一つの理由は、地方業界の一部に出先機関の丸ごと移譲で、国の工事が丸ごと地方建設業の仕事になるのではないかという期待感もある。
C でもブロック単位なら、これまで県単位で県内企業の育成優先をする県単位モンロー主義がブロック単位に広域化して逆に崩れる可能性だってあると思うけど。

2011/11/24

連載・BIMはIMへ/#1 ハンド・オフからオンへ

 BIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)という言葉が、日本でも一般的になってきた。BIMは、手書き図面の昔とは違い、プロジェクトの計画から設計、施工、維持管理まで、一貫した情報の受け渡しをデジタルベースで行う。しかし、ビルディングに限らず、インフラ全般にわたる情報共有が進む現在では、単に「IM(インフォメーション・モデリング)」と呼ばれ始めている。情報とコンピューターは、どこまで建築やインフラに生かされるのか。海外の先端事例を中心に、IMの現在と未来を検証する。
 CAD大手の米国・ベントレー・システムズは、今月8日からオランダのアムステルダムで、同社のシステムを使った優れたインフラ事例を表彰する「Be Inspired」というイベントを開き、20部門にわたり最優秀者を選定した=写真。イベントでは、審査に当たって「ファイナリスト」と呼ばれる事前審査通過者57チームが、会場でプレゼンテーションを展開した。
 プレゼンテーションは、構造計画から幾何学的設計、橋梁、道路、鉄道、プラントなど多岐にわたり、いずれも計画から施工、維持管理まで情報をスムーズに流すことの重要性を訴えた。
 イベントの冒頭、ベントレー社のグレゴリー・S・ベントレーCEO(最高経営責任者)は「これまで設計から施工、運営に“ハンド・オフ”されていた情報は、今後段階ごとの壁をぬぐい去り、“ハンド・オン”されるべきだ」と演説した。
 計画・設計段階においてCADで設計されたデータは、発注者や設計者から施工者に塊として手渡されていた。さらに施工後は、施工者の手から物件の管理者にデータの塊として手渡され、微妙なニュアンスやかかわった人々の足跡が取りさられたデータになってしまっている。
 物件管理者や施工者らは、多くの人たちが話し合い、収まるべくして収まったという経過が分からないまま、施工や維持管理フェーズに突入する。
 グレゴリーCEOは、こうしたフェーズの間の情報の欠落を「ウオール(壁)」と表現する。
 ベントレーが提唱する「ハンド・オン」とは、すべてのフェーズで統合されたデータを流していくことだ。クラウド・コンピューティングをベースに、設計、施工、維持管理にかかわる人々が、同じデータを共有する。これがIMの考え方だ。
 ベントレー社はこの日、PDF形式ファイルで3次元モデル図面を扱うため、アドビシステムズ社、そしてブルービームソフトウエア社(本社・米国カリフォルニア州、リチャード・リー社長)と業務提携したと発表した。
 3次元図面をPDFで、プラットフォームに依存せずに受け渡す技術をブルービーム社が担当、図面作成や変更する権利関係(ライト・マネジメント)の技術をアドビが担当し、さまざまなフェーズの人々の間で、円滑なデータ受け渡しを実現する。
 ベントレーはこれを「i-model」と名付けて設計データの受け渡し標準にしたい考えだ。設計(Architecture)、エンジ(Engineering)、施工(Construction)、維持管理(Operations)の「AECO」ワークフローを通したハンド・オンが、これからのIMの姿となる。

書籍・国交省標準詳細図をBIM部品化して添付した『建築工事標準詳細図 平成22年度版』

 建築設計・生産にBIMが使われ始め、国土交通省でも試行が始まっている。一方、BIMベースの設計を会得するには時間がかかるのが現状だ。
 本書は、国土交通省官庁営繕部整備課監修、公共建築協会発行の『建築工事標準詳細図 平成22年度版』に掲載された図面を、3次元CADでモデル化したデータを収録。これらを“部品工場”のように活用すれば、一から線を引かなくても、モデルを組み合わせ加工することで、BIMデータの作成を始められる。また、本書を手本に3次元の作図方法を学ぶ、または、単にさまざまな角度から眺めて納まりを理解する、といった使い方も想定している。
 収録データの形式は、BIMソフト『ArchiCAD』用の「PLN」、多くのソフトで利用できる国際標準の「IFC」、無償の『Adobe Reader』で閲覧できる「3DPDF」の3形式。2次元CAD用に、「JWW」「DWG」「DXF」の3形式でも収録している。
 作者は、建築現場やBIM・FMの支援を展開するシェルパ(高松稔一社長)。多くの人が使えるように、難しい形状でも拡張機能を使わずに作図し、各種ソフトで読み込み状況を確認した労作。
 よりBIMが活用しやすくなる、BIMソフトユーザー必読の書。
(エクスナレッジ・8400円) amazonへのリンクです  CADデータ付き 国土交通省建築工事標準詳細図 平成22年版

JR東海がリニア中間駅を全額負担/建設費を大幅圧縮して設計

 リニア中央新幹線東京~大阪間の沿線各県に1駅ずつ設置する中間駅の費用負担問題が決着した。建設・営業主体の東海旅客鉄道(JR東海)は、地元自治体に全額負担を求めていた従来方針を撤回し、土地代も含めて同社が全額負担する意向を表明した。
 中間駅の建設事業費は地下式(神奈川、奈良)が約2200億円、地上式(山梨、長野、岐阜、三重)が約350億円と試算されている。総額約5900億円もの新たな負担を軽減するため、同社は徹底した建設費の圧縮を行い「コンパクトな駅」にする考えだ。
 関係6県の代表と21日、都内で会談し、JR東海の山田佳臣社長が全額負担への方針転換を伝えた。県側の反発を踏まえた譲歩措置で、これにより事業の迅速化を図る。山田社長は「互いに喉に刺さった骨が取れて、いろいろなことが円滑に回る」と関係改善に期待感を示した。
 地元自治体には、取得用地や発生土処理場のあっせんなど工事促進への協力を要請。交通広場や自由通路、周辺道路といった県全体の発展につながる公共施設の整備を求めた。
 同社の対応について県側は、「早期実現のため思い切った決断をされた」(古田肇岐阜県知事)などと一様に評価の声を上げた。また、前田武志国土交通相も22日の閣議後会見で、「劇的に(全額負担へと)踏み切られた。歓迎すべきことだ。とにかく早くリニアを実現することが、JR東海にとっても経営上重要であり、さすがは経営体だ」と評価した。
 中間駅は2面4線を有する島式ホームを備え、ホームと出入口を階段、エレベーター、エスカレーターで連絡する。建設費圧縮の観点から、設備仕様の詳細は今後詰める。
 同社が必要と判断する設備以外で、地元が併設したいと考える設備については、建設費と維持管理費の地元負担を前提に工事計画に盛り込む。さらに費用がかさむことになる既存駅の改修や連絡施設の整備は当面実施せず、リニアの全線開通に注力する。
 リニア新幹線は、先行整備する東京~名古屋間が2014年度の着工、27年度の開通を目指している。45年までに大阪まで延伸し、3大都市圏を1時間程度で結ぶ計画だ。大深度地下を活用して建設する東京、名古屋、大阪の各ターミナル駅はJR東海が自己資金で建設する。中間駅を除くターミナル駅と路線の建設費は8兆4400億円に達する見通し。

2011/11/22

「復興のリーディングプロジェクト」三陸沿岸道・宮城、岩手で相次ぎ着工

 東日本大震災からの早期復興のリーディングプロジェクトに位置付けられている三陸沿岸道路の着工式が19、20の両日、宮城、岩手両県内で相次いで開かれた。震災直後から救援・救急活動や緊急物資の搬送などに大きな役割を果たした“命の道”の1日も早い全線開通と、東北全体の早期復興に向けて、関係者が気勢を上げた。
 今回着工したのは宮城側が三陸縦貫自動車道登米志津川道路の志津川トンネル、岩手側は三陸北縦貫自動車道尾肝要トンネル。
 19日に宮城県南三陸町志津川字入谷地内の志津川トンネル南三陸町坑口付近で開かれた式典には、約100人が出席した。
 尾肝要トンネルは、久慈市と宮古市を結ぶ三陸北縦貫道の一環となる尾肝要道路(4・5㌔)の主要構造物として築造される。長さ2736m、内空断面積62・7㎡。
 両式典では、震災6日前に完成した釜石山田道路によって津波から奇跡的に生還を果たした釜石市内の小・中学生が当日の体験を紹介したビデオレターの上映のほか、沿線市町村が高規格道路の重要性を全国に訴えようと作成した「命の道バッジ」が地元の児童から来賓に贈呈された。

街並みを白い模型で復元//TOTOギャラリー・間で「311 失われた街展」

 「TOTOギャラリー・間」は、東京・南青山の同ギャラリーで「311 失われた街展」を開いている=写真。サブタイトルは「何が起こったのか。『正しく知る』ことから復興への道のりを考える」。東日本大震災の地震と津波で失われた14地域の街並みを500分の1スケールの白い模型で復元した。このほかに震度、津波の高さ、放射線量、使用電力量をビジュアル化したデータ「311 スケール」も展示している。展覧会は同ギャラリー運営委員で建築家の内藤廣氏とデザイナーの原研哉氏が監修。模型は全国14大学の学生が制作し、建築家の槻橋修氏が監修した。展覧会と合わせて、日本を代表する建築家によるシンポジウムも開かれた。
 企画趣旨によると、展覧会とシンポジウムという場を通して、震災の「ゼロ地点」に今一度立ち返ることで、これからの復興への道筋の一つとしてメッセージを届けたいとしている。模型は、釜石(岩手県釜石市)、鹿折(宮城県気仙沼市)、相馬港(福島県相馬市)など。
 シンポジウムは、東京・本郷の東京大学安田講堂で開かれた。テーマは「ゼロ地点から考える」。建築家の原広司氏が「建築に何が可能か」として基調講演した後、展覧会の説明があり、続いて建築家による復興支援ネットワーク「アーキ・エイド」の参加者として、小野田泰明東北大教授、建築家の中田千彦、青木淳、小嶋一浩、藤村龍至の各氏が活動などを語った。
 最後に、建築家5人で結成した「帰心の会」メンバーである伊東豊雄、内藤廣、隈研吾、妹島和世、山本理顕の各氏が「再生・建築にできること」を議論した。
 「失われた街展」は、入場無料。会期は12月24日まで。時間は午前11時から午後6時。

関東整備局が八ッ場ダム「継続」対応方針打ち出す

 国土交通省関東地方整備局は21日、八ッ場ダム建設事業の関係地方公共団体からなる検討の場(第10回幹事会)を開き=写真、同ダム建設事業の検証結果として、「継続」が妥当とする対応方針(原案)案を報告した。出席した都県代表者らは、2012年度予算案への本体工事費の確実な計上や、15年度完成に向けて事業速度を早めることなどを強く要望した。今後、自治体の首長や関係利水者から意見聴取し、事業評価監視委員会を経て対応方針案を作成し、国交省に報告する。
 対応方針(原案)案は、今回まとめた「八ッ場ダム建設事業の検証に係る検討報告書(原案)案」に盛り込まれた。複数の代替案を総合評価した結果、「ダム建設が優位性が高い」とした同検討報告書(素案)に対し、パブリックコメント、学識経験者や関係住民から意見を求めた上で作成した。
 幹事会に出席した1都5県の出席者からは「継続は当然の結果。検証に費やした2年を取り戻すため、予算を集中投下して15年度の完成に間に合わせてほしい」(埼玉県)、「ダムが完成しなければ利根川の沿線市町村は洪水に対する不安を払拭できない。ただ、整備の際はさらなるコスト縮減が必要」(千葉県)、「資料では入札から契約まで9カ月必要とある。事業化へさらにスピードアップしてほしい」(東京都)と発言し、早期事業化や予算の重点配分、コスト削減などを要望した。
 今後、対応方針(原案)案をもとに対応方針原案を作成し、事業評価監視委員会が検討した上で、関東整備局が結論となる対応方針案をまとめ、本省に報告する。本省でも有識者会議を開催し、意見を求めた上で、前田武志国交相が同ダム建設の是非を最終判断する見通しだ。前田国交相は、判断結果を12年度の予算に反映させる意向を示している。

2011/11/21

羽田空港第1旅客ターミナルがリニューアル完了

 東京国際空港(羽田空港)第1旅客ターミナルビルのリニューアル工事が今月完了した。空港を管理する日本空港ビルデングがことし2月から進めていたもので、16日に一連の工事が終わった。空港ビルの鷹城勲社長は「昨年供用開始した新国際線旅客ターミナルビルを含む3つの旅客ターミナルビル間のサービスレベル平準化と、経年劣化対策、省エネ対策の3つを重視した」と話す。
 設計を担当した梓設計は「日本らしさ、おもてなし精神の具現化」をテーマにしたといい、今回のリニューアルでは、出発ロビーやコンコース・ゲートラウンジ、商業施設エリアや屋上展望デッキが改修された。
 施工は、大成建設、竹中工務店、清水建設が担当、秀島民也JV所長(大成建設)によると「羽田空港における工事の絶対条件は、旅客の安全を最優先することと、空港の機能に障害を発生させないこと」という。今回の工事はJV3社がそれぞれ環境の違う工区を受け持ち、それに対応した安全対策を実施しながら工事を進めたのが特徴となった。
 大成建設が担当したゲートラウンジ工区は、旅客ターミナルの中枢で最高レベルのセキュリティーゾーンである保安エリアに位置し、ほとんどが夜間工事となった。
 竹中工務店の担当エリアは、出発ロビーの改修。既存屋根へのトップライト増設、床・壁の仕上げ一新を提案して、ロビー中央のマーケットプレイス壁もカーブサイド壁と調和のとれたデザインに変更、重厚さと統一感を醸し出すことに成功した。
 清水建設は6階ギャラクシーホールでのガラス工事などを担当、2枚のサッシュを一体化してガラス部分を大きくする。ガラスは1枚3m四方の大きさ。重量は200㌔。これを運ぶだけでも10人がかりだった。

処遇改善へ関西圧接業組合加盟社が鉄筋工業組合に加入

濱野理事長(左)と岩田理事長(右)
 関西鉄筋工業協同組合(岩田正吾理事長)と関西圧接業協同組合(濱野功理事長)は17日、大阪市中央区の大阪建団連会館で会見を開き、関西圧接業協同組合の全加盟社が関西鉄筋工業協同組合に加入することを発表した。今後、情報共有を密にし、処遇改善などについて共同で関係官庁に訴えるほか、共同事業などを実施する。
 関西圧接業協同組合の加盟社のうち、3者はすでに関西鉄筋事業協同組合に加入しているため、残る11社が新組合員として加わる。
 岩田理事長は「鉄筋に圧接は付きものであり、一緒になることは自然な流れ。出前講座の共同開催のほか、さまざまな情報共有などで強力に手を組み、荒波に立ち向かっていきたい」と述べた。また、濱野理事長は「厳しい状況下で生き残るためにしっかり手を結ぶことが重要。コラボレートすることで、鉄筋・圧接がどれだけ重要職であるかを世間にアピールし、職人として誇りを持つことができる業界にしていきたい」と抱負を語った。
 今後は、関西鉄筋協組の理事会や定例会、専門部会などに関西圧接協組加盟社が参加し情報を共有・発信するほか、出前講座などの共同事業も積極的に実施していく。また、共同受注なども視野に入れている。

復興本格化で軟弱地盤改良・土壌浄化技術に熱い視線

SWP工法の概要(工法協会のHPより)
 東日本大震災の復旧・復興事業が本格化する中、地下水位低下や軟弱地盤の改良、土壌浄化技術を持つ企業に引き合いが急増している。真空ポンプで地下水をくみ上げる「スーパーウェルポイント(SWP)工法」と、その原理を応用した土壌浄化技術「すっからか~ん(SKK)工法」などに引き合いが増えている。
 SWP工法は、地下水面下に水面より低い水圧を負圧伝播させて地下水を揚水する地下水位低下工法。SKK工法は、海岸近くでもシートパイルを設置することなく所定エリアの水位だけを下げることができ、津波をかぶった水田や畑などの除塩も一般的な対策工事より格段に低コストで行える。SWP協会会長でもある高橋氏は「SKK工法は軟弱地盤でもドライワーク(乾燥状態での作業)が可能」と利点を強調する。
 また、岩手県の支援で考案した真空低温殺菌システムをベースにしたヘドロ処理システム「PANシステム」も注目技術だ。菌類が熱に弱いことに着目。真空気化によりヘドロや地盤に含まれる水分の沸点温度が低下し、地中の常温でも水蒸気として容易に気化するため、減菌と土の乾燥ができる。気化する際に菌が熱で体積膨張して「パンと破裂する」擬態をもじって名付けた。
 SWP、SKK工法は、アサヒテクノ(本社・岩手県北上市、高橋茂吉社長)が開発している。

2011/11/18

日本初のアルゴリズミック・デザイン・シンポ/ALGODE TOKYO2011が建築会館で開催

展示されていたシェルター
 アルゴリズミック・デザインの理論説明や実践的な成果を紹介、議論する国際シンポジウム「ALGODE TOKYO2011」が13、14の2日間、東京都港区の建築会館で開かれた。
 国内外でアルゴリズミック・デザインを使った先進的な建築・都市に取り組む建築家、専門家が講演したほか、デジタルファブリケーション技術を使って学生が製作した被災地用シェルターを展示した。現実の建築につながる事例が増えるなど、アルゴリズミック・デザインは新しいデザイン手法として世界に浸透している。主催は日本建築学会。
 アルゴリズミック・デザインは、物事を進める上での手順に基づき、柔軟な適応力を得るデザイン手法。コンピューターの操作だけでなく、実際の建築のつくられ方、使われ方などにまで関係し始めている。
 米国プリンストン大で教鞭をとる建築家のジェシー・ライザー氏は、無数の穴が空いたコンクリート製の波打つファサードで覆われたドバイのビル「O14」を紹介した。
 渡辺誠氏はアルゴリズミック・デザインについて「アートとサイエンスのコンビネーション」とした上で、その目的を特定のものに限定されず、より良いものを目指す多様性を求めることとした。
 ALGODE2011組織委員会委員長を務める池田靖史慶大大学院教授は「ライザーさんはコンピューターを使ったデザインを武器にして、実際に建築をつくっている。実験的な取り組みが本当の仕事につながることを感じることが重要。シンポジウムは、建築のプロや学識者、学生が一緒になって考えるところに新しい価値がある。海外との接点を生かし、日本発のアルゴリズミック・デザインをこのシンポからスタートさせたい」と継続して取り組む意気込みをみせた。
 同シンポジウムは3月に開催を予定していたが、東日本大震災が発生したため延期していた。

福島のマルグリット・ブールジョワ・センターが解体/建築学会は保存要望

 日本建築学会(和田章会長)は、コングレガシオン・ド・ノートルダム修道会の日本管区本部(管区長・寺島京子シスター)に「マルグリット・ブールジョワ・センター(旧ノートルダム修道院)の保存に関する要望書」を提出した。
 東北地方太平洋沖地震で被災した同センター(福島市)の取り壊しが決まったことに対し、建築的価値とともに東日本大震災を乗り越えた被災遺産として復興のシンボルともなる建物とし、取り壊しの撤回を要請するとともに保存についての協力を申し添えている。
 同センターは、チェコ系建築家、ヤン・ヨゼフ・スワガーの設計、関工務店の施工で1935年に福島市花園町3-6に建設された。文化財として指定・登録こそされていないが、スワガーの現存作品であるとともに同学会の「日本近代建築総覧」と「歴史的建築総目録データベース」、福島県教育委員会の「福島県の近代化遺産」に盛り込まれるなど、福島県の近代化を物語る上で欠かせない歴史的建造物、地域の身近な文化遺産として長年市民に親しまれている。
 同修道会が、被災した同センターの取り壊し、撤去を決めたことに対し建築学会は、文化庁の委託で実施した東日本大震災文化財被災建造物復旧支援事業(文化財ドクター派遣事業)で現状を診断した限りでは「総じて損傷はわずかであり、保存できる余地は大いにある」と判断。その上で、「都市の近代化の過程や戦前の建築文化を伝える建築的価値」とともに「震災を乗り越えた被災遺産として、復興のシンボルともなるべき建物」として保存を要請している。

記者座談会・地域維持型JVは効果の判断いまだつかず

A 国土交通省が「地域維持型JV」を創設するためJV準則を改正した。建設産業戦略の目玉の一つだったけど、業界はどう見ているのかな。
B 地方建設業者からは期待の声が高い。特に積雪地帯を抱え、毎年除雪体制の確保が問題となっている地域では、地方自治体も含めて早期の導入を訴える声が上がっている。ただ、事業協同組合に一括委託している地域はどうするか。加えて、各都道府県が災害協定を締結しているため、地域維持型契約方式に災害応急対応はなじまないのではないかとの声も出ている。
C 国交省側からすればそうした意見も含めて、理解がまだ深まってないな、という見方だ。事業協同組合に委託している地域まですべて地域維持型JVで発注しなさいと言っているわけではないのに。
D 新しい制度だから、どんな問題が出るか掴み切れていない部分もある。災害協定の指摘も、災害対応業務でどう地域維持型JVを活用するかを国交省も整理しきっているわけではない。ただ、地域維持型契約は建設業が地域にいなくて、地域維持に不都合が発生している地域での特例的な活用を想定しているということだ。例えば、ある地域で災害協定を結ぶ相手がいないとする。だったら、建設業者がいる隣の地域の道路修繕と業者のいない地域の災害時の対応を包括的に地域維持型JVに委託しておくと……。
B 地域維持事業はいままでボランティア的に地域の建設業者が行っていた。そもそも、本業の部分で地方建設業者がしっかり仕事を受注し、利益を得ていることが前提になる。
D そうなれば、地域維持型契約が必要なくなるかもしれない。逆に自治体による柔軟な工夫で活用方法は広がるという期待もある。いずれにしても、現時点では、地域建設業者がいなくなるかもしれない地域での活用を想定している。

2011/11/17

interview・オートデスクのシニアディレクター ニコラス・マンゴンさん

 BIMソフト『Revit』のユーザー会開催に合わせて来日したオートデスクのシニアディレクター、ニコラス・マンゴンさんにインタビューした。
 「日本のユーザーは熱意があり、緊密に連携して要求をまとめ、BIMの普及に取り組んでいる」と感謝する。
 ただ、日本の業界全体では、米国で6、7割の企業がBIMを活用しているのに比べると動きが遅い。従来の作図を変えることに抵抗もあるが、「そこを変えれば図面の外の世界が一変する」と説く。中堅層への普及に努めるとともに、中小企業向けに簡易版ツールを提供していく考えだ。
 海外では、政府が普及を後押ししている。シンガポールは建築確認の自動化でBIMデータを受け付けており、「2、3年後には義務化もあり得る」と予想する。公共工事でも「英国や中国がBIMベースの成果品を求める予定で、フランスも検討を始めた。BIMなしの入札参加は厳しくなっていく」という。
 一方、国内の震災復興にも貢献できるという。地形をモデル化し、津波・洪水のシミュレーションや掘削土砂の把握が可能な『Civil 3D』と『Revit』を組み合わせ、「構造物や橋梁を周辺への影響を見ながら設計でき、意思決定を早める」と話す。
 今後は、「施工、維持管理段階のBIM活用が焦点になる」。Revitと部材製造の連携も強化する。「オーナー、エンジニア、メーカーが必要に駆られてBIMの設計を求めるだろう」と見通す。

interview・『Build Live Kobe』連覇を達成した芝浦工大大学院チーム「TMT」

竹下さん(右)と畑瀬さん(左)
 BIMの腕前をインターネット上で競う設計イベント『Build Live Kobe』(主催・IAI日本)で、2連覇を達成した芝浦工大大学院チーム「TMT」。大手ゼネコンなども参加する強豪16チームを制し、見事に最優秀賞に導いた同大大学院工学研究科建設工学専攻2年の竹下悦子さんと畑瀬紋子さんに大会を振り返ってもらった。
 TMTは芝浦工大大学院生を中心に同大システム理工学部4年生を合わせた計9人で構成するチームで、衣袋洋一教授の研究室に所属している。同研究室のチームは2年連続の出場で、今回の課題はデザイン都市・神戸のポートアイランドにある京コンピュータ前駅に、研究機能やデータセンターなどで構成する複合施設「国際交流センター」をモデリングする計画だった。
 競技に入る前に、リーダーの竹下さんと設計担当の畑瀬さんは、何を軸に考えを進めるべきか考えるため、神戸に足を運び、課題の土地、周辺の街並みや環境をつぶさに観察し、建築の可能性を探ってきた。

TNTのパース

 畑瀬さんは設計に当たり「敷地の形状から丘にある意味について考えた」という。メンバーと設計を検討する中で、なだらかな形状の建物外壁の内側に、通風口を設け、その中にデータセンターのラックを収納する考えに至った。通風口内を吹き抜ける風で熱を帯びるラックを冷却し、余熱を温浴施設などで再利用する地球環境に優しい計画を考案した。
 競技では、まとめ役の竹下さんは「それぞれ独自に作業を進めるため、進行状況を把握するのが難しかった」という。次第に作業が行き詰まり、「にっちもさっちも行かない状況もあった」とも。しかし、コミュニケーションやコラボレーションを重視するシステム理工学部で学んだ成果を発揮し、メンバー全員で難局を乗り切った。
 表彰式では審査委員の山梨知彦日建設計執行役員設計部門代表から「経済的側面からBIMを導入することは多いが、デザインを中心にBIMを活用したことに将来性の豊かさを感じた」と選ばれた理由を明かされた。
 来年は3連覇がかかる大会となる。竹下さんと畑瀬さんは、「次の世代の能力は高い。プレッシャーを感じずに頑張ってもらいたい」と後輩にエールを送り、来年度に期待を込めた。



大分の新駅ビル、13年春に着工/22階建て延べ11万㎡

完成予想
 九州旅客鉄道(JR九州)が、日豊本線大分駅高架化事業にあわせて計画している大分駅ビルの概要を明らかにした。
 規模は、地下1階地上22階建て延べ約11万3600㎡で、ホテルや専門店街、温浴施設などが入る大分県内で最大規模の複合商業施設となる。設計は日本設計が担当している。2013年春の着工、15年春の開業を目指す。
 計画では、鉄道高架化事業の完成後に撤去される在来線跡地約2万㎡を建設地とする。地下1階から地上4階までをシネマコンプレックス(複合映画館)を含む商業施設とし、店舗面積約3万1000㎡を確保する。5-9階は駐車場(920台収容程度)、7-9階部分には屋上庭園を設ける。東側に高層のタワー棟を設け、9階から19階を200室規模のホテル、20-22階を温浴施設とする。屋上には露天風呂も備える。
 大分のランドマークとなるシンボリックな建物として、大分都心部の新たなにぎわいの創出を図る。屋上庭園や温浴施設などで市民の憩いの場を提供するとともに、アジアを見据えた大分の観光振興に貢献する施設とする考えだ。事業費は150億-200億円を想定している。
 現在、日本設計で基本設計の詰めの作業を進めており、引き続き、実施設計に着手する。
 高架事業は11年度末完成予定で、12年4月から既存の駅施設の解体、撤去工事に着手する。13年春の新ビル着工を目指す。大分駅の所在地は大分市要町。

2011/11/16

南極観測隊の越冬隊に参加する関電工千葉支店の志賀淳也さん

 国立極地研究所の機械隊員として、11月から2013年3月まで南極観測隊越冬隊に参加する。「オーロラや氷山など、日本では見られない景色を楽しみたい」と、観測隊初参加に胸を躍らせる。
 南極では、昭和基地にある大型大気レーダーの専用発電機設置や風力発電のケーブル敷設、新設する汚水処理棟の電気工事、無線LAN中継装置への電源供給などさまざまな機械設営の仕事が待っている。「作業量が多く、きちんとこなせるか、持って行く材料が足りているか心配。観測隊に参加したことのある先輩方からアドバイスはいただいているが、聞けば聞くほど不安になる」
 南極の夏は白夜が続くが、冬になると外での作業はまったくできない。「冬は気温がマイナス40度にもなる。冬が来る前に自分たちの判断で作業を進め、終わらせなければならない」と気を引き締める。
 ほかのメンバーとともに冬山で厳しい訓練を積み本番に備えてきたが、実際の南極はさらに厳しい環境が予想される。「何度も南極に行った人にメールや電話で状況を聞くことができる」と、先輩の力を借りながら職務完遂を目指す。
 極寒の地に1年半近く滞在することになる。厳しい仕事のため敬遠されるケースが多いが、自ら志願した。「観測隊に複数回参加した先輩がたくさんいる。本当に辛かったら何度も行こうと思わないはず。また行きたいと思う何かを、経験して確かめたい。それに、子どもに誇れる仕事なので」と、3人の子どもに熱い思いを伝えるつもりだ。
 11月25日に日本を出発。オーストラリアで、11日に日本を発った南極観測船「しらせ」に乗り込み、年末に南極に到着する。

「超臨界CO2」で有機用フィルターを洗浄・再生/ダイダンが開発

国内最大級の大型装置を製作
 ダイダンは、エアフィルター再生技術を実用化した。ナノ(1ナノは10億分の1)サイズのすき間に入り込んで汚れを溶解する超臨界状態の二酸化炭素を使うため、いままで捨てざるを得なかった使用済みの有機用フィルターを回収、洗剤などを使わずに汚れを落とす。新品の約70%の価格で再生できるという。有機用フィルターの再生・再利用は世界でも初めて。今後、対象を拡大し、500億-600億円と言われる新品のフィルター、活性炭市場のうち、洗浄できるもののシェア10%、事業開始5年後の売上高は2億5000万円を目標にしている。
 超臨界CO2は、セ氏31度以上、圧力73気圧以上のCO2で、気体並みの高い流動性・浸透性と、液体並みの強い溶解力を持っている。コーヒー豆の中のカフェイン抽出や、香水の成分といった植物中の有効成分抽出など、有機物の抽出分野で実用化されている。
 コスト面が課題だったが、同社はこの間、国内最大級の大型装置を製作し、一度に複数の有機用フィルターを洗浄できるようにするとともに、装置の運転方法を研究し、洗浄時間の短縮やエネルギー使用量を削減することで再生コストを抑えることに成功した。
 すでに、複数の電子デバイス製造ラインに工程の有機ガス汚染対策として使っている有機用フィルターとして採用されている。
 電子デバイス製造工場などの厳密な洗浄環境が要求される建物は、空気中の有機物を除去するために有機用フィルターが使われるが、洗浄する方法がなく、寿命を迎えた後は廃棄されていた。

中部電力・浜岡原発の防波壁本体に着手/施工は鹿島JVとハザマJV

着工式の様子
 中部電力は、津波対策として浜岡原子力発電所(静岡県御前崎市)に設置する防波壁本体工事に着手した。11日に現地で安全祈願祭と本体工事着工式を開いた。
 防波壁は、高さ18m、延長1・6㌔で、東西2工区に分けて建設する。施工は鹿島・佐藤工業JV、ハザマ・大林組・前田建設工業JVが担当。2012年12月末の完工を目指す。概算工事費は約1000億円を見込んでいる。
 防波壁は、敷地南側の海沿いに設置する。4月から着工に向けた地盤調査や測量などを開始。9月22日から鋼矢板打設、支障物撤去、地盤改良工事といった本体準備工事を進めてきた。準備工事が完了した区画から基礎工事、壁工事(床版)、同(たて壁)などの本体工事を実施する。
 本体工事では、地上から岩盤中まで長方形の穴を掘削し、かご状に組んだ鉄筋を穴の中に入れた後、コンクリートを投入して基礎部を構築。基礎部の上部に鋼材と鉄骨・鉄筋を組み立てた後、コンクリートを投入し床版部分を構築、床版の上部に鋼板を箱形状にした鋼殻を立ち上げ、コンクリートを投入してたて壁を構築する。
 中電は、9月1日に工事の進捗状況を一元管理し、安全で確実な施工を実施するため、発電所所長を総括責任者とする津波対策工事推進チームを設置する。

けんちくのチカラ・「音楽物書き」加藤浩子さん/びわ湖ホールを語る

 オペラ評論などで活躍する「音楽物書き」の加藤浩子さんは仕事柄、国内外のオペラハウスによく足を運ぶ。加藤さんが「とても好きで、たくさんの人に来てもらいたい」と言うのが大津市の「びわ湖ホール(滋賀県立芸術劇場)」だ。このホールの初代芸術監督だった指揮者・故若杉弘さんの考え方として、日本で上演されない作品を積極的に扱うことや、日本人キャストの育成に加藤さんは強く共感した。そうしたソフトの充実に加えて琵琶湖というすばらしいロケーションと音響に恵まれたハードを合わせ持つ点が特筆されるという。
 「琵琶湖の湖畔に建っているので、ロケーションがすごくよくて、中に入ってもホワイエやロビーがガラス張りですので湖が一望できるんです。非日常のリゾート気分を味わえます。こういうホールは世界的にも珍しい。皆さん、遠いという感じを持たれるかもしれませんが、京都から大津まで2駅10分くらいです。私は日帰りで行くこともありますから、そんなに遠くないんです」
 立派なホールを造って『ハコモノ』と言われるのは、中身が伴っていない場合だ。「びわ湖ホールは『器』もすばらしいけれど、中身も充実している。いまの芸術監督は指揮者の沼尻竜典氏ですが、主催公演でやはり、ポリシーのあるオペラ公演を続けている。これはとても大事なことです」
びわ湖ホール(滋賀県立芸術劇場)
 音響について改めて資料を開いて調べたらおもしろいことがわかったという。
 「たとえばいすですが、人が座っていない時でも吸音するためにぴったりとは閉じないということです。天井の反射板は専門にその調整をする人がいます。どの場所でもよく見えて、よく響きます。楽器みたいなホールですね。ステージに立った人も気持ちが良いといいます。PA(拡声装置)なしで生音をうまく響かせるのは、建築空間の仕事でしょうね」
 建築家にはこんな要望を持っている。「使い勝手を考えていないのは困ります。土地などの制約もあるのでしょうが、一般的にホワイエやロビーが狭くて休憩時間に人であふれてしまうとか、通路が狭いのもよくないですね。クラシックファンでなくてもそうしたことを幅広く知っていていただけるとありがたいですね」

2011/11/15

新菱冷熱が特別賞/ベントレー・システムズの「Be Inspired」アワード

 米国のCAD大手、ベントレー・システムズはオランダのアムステルダムで、インフラの設計全般で優れたリーダーシップを発揮した組織を表彰する「Be Inspired」アワードを開いた=写真。今回は42カ国から270を超える組織が応募し、11月8、9日の2日間で57チームのファイナリストがプレゼンテーションしてカテゴリーごとの受賞者を決めた。
 日本からも特別賞として、新菱冷熱工業の「新菱冷熱自社ビル 省エネECO化プロジェクト」が受賞、最小で最大のエネルギーを得られる設備機器などの取り組みが評価されて受賞した。
 また道路部門では、国際航業がファイナリストとして「東日本大震災における国際航業の取り組みについて」をプレゼンテーションした。受賞は逃したものの、会場からは液状化についての質問などが相次いだ。
 今回の表彰を受けてベントレー・システムズの日本法人は、12月6日に東京都文京区の椿山荘で、今回のアワードについての報告セミナーを開く。
 今回アムステルダムに遠征したメンバーのほか、アワードに応募したアジア航測の「レーザーによる3次元計測」、竹中工務店の「BIMを適用したバーチャル竣工への取り組み」についてもレクチャーする予定だ。参加は無料で、同社に事前登録する。

日当引き上げ求め下請・職人が大阪で街頭デモ

 建設下請業者・職人の処遇改善実行委員会(森本大輔委員長)が、大阪市内で処遇改善を求めるデモ行進を行った=写真。専門工事業の1次、2次業者や職人ら約200人が参加し、思い思いのプラカードを手に、職人の日当引き上げを始めとする処遇改善を求めるシュプレヒコールを繰り返した。
 一行は、大阪市中央区にある大阪城公園・教育塔前に集結。森本委員長ら幹部が「われわれの生活は困窮し、職人のなり手もない。この現状を変えなければならない」「これは次世代につないでいくための戦いであり、団結・協力して建設業界を変えよう」「堂々と自らの権利を主張し、正当な立場を確立しよう」と呼び掛けた。
 近畿建設専門工事業教育情報センター主宰の川口末夫氏は「関西の下請単価は全国で最も低いと言われており、そのうえ社会保障を受けられていない職人が多い。このままでは職人も下請業者ももたない。この活動は専門工事業者と職人が参加していることに意義がある。まずは元請けに、社会保険料を下請けや職人におろさせるように求めよう」と激励した。

経験で知る“ちょうどいい”融合 『世界一のトイレ ウォシュレット開発物語』

 便器は陶器である。金型に流し込めば簡単にできあがるわけではなく、原料となる泥を型に流し込み、乾燥させ、焼成する工程を経なければ完成しない。しかも、焼成後は元の大きさより10%以上も小さくなるため、縮小幅を見込んで作り始めなければならない。均一な大きさの便器を作るには、経験を重ねて“ちょうどいい加減”を知ること、つまりアナログ技術の結集が不可欠だ。
 一方、ウォシュレットは、ハイテク、デジタル技術を進化させながら現在の使いやすさにこぎ着けた。
 「ローテクを極めて、ハイテクを生み出す。または、ハイテクを使って、究極のローテクを実現する。これがトイレづくりの面白さ」と著者は述べている。
 ローテクとハイテク、アナログとデジタルの“ちょうどいい”融合が、ものづくりを物語に昇華させるポイントといえるのではないだろうか。海外からみれば、日本のトイレは「ロボットトイレ」らしい。限りなくハイテク化して快適になっても、物語のベースには便器の手作り感がある。
(朝日新聞出版・756円) amazonへのリンクです。 世界一のトイレ ウォシュレット開発物語 (朝日新書)

2011/11/14

シッピングコンテナで3階建て仮設住宅

 「紙の建築」や世界各地の被災地での仮設建築などで知られる坂茂氏(坂茂建築設計)が、東日本大震災の被災地である宮城県女川町で設計した仮設住宅が完成した。仮設住宅としては全国初の3階建てで、海上輸送用のコンテナを重ねるという新たな試みは、広く国内外の耳目を集めている。
 同事務所では震災直後の3月から被災地などの避難所でのプライバシーを確保するため、紙管による間仕切りシステムを提供。女川町でも間仕切りに蚊帳を吊すなどの工夫を加えた。これがきっかけとなって3階建て仮設住宅の提案が実現した。
 高台にある町民野球場のグラウンドに完成した3階建て住宅は、6棟144戸。2階建て住宅も3棟45戸完成している。今後、膜構造の商業施設や紙管による児童図書館などの建築も予定されているという。
 仮設住宅は7月中旬に中国からコンテナの運搬準備に入り、8月8日に着工した。コンテナは2.5×6.0m、高さ2.5mのいわゆる「20フィート」と呼ばれるタイプ。4年ほど前、ニューヨーク、サンタモニカ、東京を移動した仮設美術館プロジェクトで採用した経験がある。この時と同様、構造設計のオーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッド、施工のTSP太陽とチームを組んだ。
 コンテナは1つひとつは強度があるが、建築基準法上は認められていないため、2年間の仮設であることを条件に構造認定を得た。コンテナ同士の接合部には海上輸送と同じ金物を使っている。垂直方向に2層、3層と重ねるとともに、水平方向には1つおきにフレームだけのコンテナを配置してつなげた。
 標準タイプとして2つつなげた9坪(約30㎡)2DKタイプ72戸のほか、3つつないだ12坪3DK43戸、6坪のワンルーム74戸を設けている。
 現場に常駐した坂茂建築設計の渡部玲士氏は「コンテナにも相性があって2つ並べると微妙に床面の高さが違う。キッチンなど水回り部分での施工の難しさがあった。壁は鉄板なので配管などの穴は事前に開けているが、現場での取り付け段階で開け直すこともあった」と振り返る。
 壁面収納工事は坂氏が中心となって活動しているボランタリー建築家機構(VAN)が当たり、「夏休みは全国から大勢の学生が集まり大部屋に寝泊まりしながら取り付けてくれた」(渡部氏)とも。
 3階建て仮設住宅は6日から入居を開始。これで宮城県内では当初計画の仮設住宅約2万2,000戸がすべて完成したことになる。

多摩平の森O街区賃借事業者はイオンモールに

 都市再生機構東日本賃貸住宅本部が計画している、東京・日野の「多摩平の森の商業施設街区(O街区)」の土地賃貸事業者がイオンモールに決まった。応募は11者から寄せられていた。
 イオンではS造一部耐火木造地下1階地上5階建てなどの2棟、総延べ約7万2000㎡の施設建設を計画しており、14年2月の完成を目指す。
 同施設は「つなぐ 育てる 根づく My Living Room」をコンセプトに、自然と人とが手を取り合ってきた多摩平の歴史を継承し、次世代へとつなぐくつろぎの場を目指す。総合スーパー、物販店舗、飲食専門店のほか、スポーツクラブやコンベンションホール、カルチャースクールなどが入居する予定だ。
 森のステージゲート、湧き水の広場、木漏れ日の広場の3つの外部空間を整備し、駅と住宅地をつなぐ「森風のプロムナード」、屋上ガーデンも設ける。
 同団地は、JR中央線豊田駅北側の日野市多摩平2丁目ほかの敷地約29・6ha。機構は11年度中に団地内のG、J、Nの3街区、12年度以降にはA、K街区の2街区の事業者公募を行う方針で、整備敷地ごとの募集条件を検討していく。

神奈川県立相模湖交流センターで11月19日からダムマニア展

 ダムが好きで、わざわざ鑑賞に出掛けたり、魅力を発信したりするダムマニア。最近は“ダムガール”まで現れてダムの硬軟イベントに引っ張りだこだ。そんなダムマニアの文化祭「相模湖ダムフェスタ-第1回ダムマニア展-」が19日から25日まで、相模原市の神奈川県立相模湖交流センターで開かれる。同センターは首都圏で最も駅から近い多目的ダム・相模ダムのほとりに位置する。
 ダムマニアならではの写真や絵画、貴重なグッズ展示、トークライブなどが行われる。プロデュースは、ダムライターで写真家の萩原雅紀氏。

2011/11/11

7地区に分け方針/東部は高台移転推進/石巻市の復興計画素案

 宮城県石巻市は、震災復興計画素案をまとめた。計画対象期間は2011年度から20年度までの10年間。中心市街地と総合支所エリアなど7地区ごとに整備方針をまとめており、「まちなか再生」など7項目の重点プロジェクトを推進するとしている。23日まで市民意見の聴取を行い、12月中の成案化を目指す。
 地区別整備方針は旧市町と被害状況に応じて、▽東部市街地▽西部市街地▽牡鹿▽雄勝▽北上▽河北▽河南・桃生――の7エリアに分けて復興への考え方を示している。
 このうち、水産業の拠点となっている東部市街地では、萩浜地区の高台移転を促進。稲井地区には防災拠点となる総合運動公園、渡波地区には約20ha(500戸程度)の新市街地などを整備する。
 旧北上川右岸の西部市街地は、臨港地区や中心市街地の蛇田地区に約50ha(2000戸程度)の新市街地を形成。南浜地区は鎮魂の森公園として整備する。
 半島部にある牡鹿エリアは、住宅地の高台移転のほか、おしかホエールランドなどの復旧整備を推進。マリンバイオマス研究機関の誘致にも取り組む。
 津波が逆流した北上川周辺の河北エリアは、被災した大川小学校を始めとする公共施設の整備などを推進。被災した農地には再生可能エネルギーの導入や新産業の創出などによる有効活用を図る。
 リアス式海岸に面した雄勝エリアは、シンボルとなる雄勝硯伝統産業会館の復旧を含むメモリアルゾーン整備や住宅地、総合支所、学校などの高台移転を盛り込んでいる。
 北上川河口に面した北上エリアも宅地や総合支所の高台移転を計画。公共施設や高齢者福祉施設の再整備など、地域の状況に応じて暮らしの再生を図る。
 また、相乗効果が高く優先的に取り組む重点プロジェクトには、▽安心安全再生▽住宅再建復興▽まちなか再生▽海と大地との共生▽絆づくり▽石巻さきがけ▽未来への伝承――の7項目を挙げた。
 このうち、安全安心再生では防波堤や防潮堤、高盛土道路、避難路や避難場所などのインフラ整備に取り組む。住宅再建復興は防災集団移転促進(雄勝、北上、牡鹿など)や土地区画整理(門脇、湊、新渡波など)などによる住環境の整備を図る。
 「まちなか再生」では、被災した市街地の再開発事業や中心市街地活性化基本計画の見直しなどを行う。経済産業の拠点となる石巻港を再生させる「海と大地の共生」は工業港や漁港、石巻と牡鹿両水産物地方卸売市場の建設などを盛り込んだ。
 「絆づくり」は、石巻復興協働プロジェクト協議会の設置や集会所などの復旧事業、「石巻さきがけ」では、先進的なエネルギー利用・管理の仕組みを構築するスマートコミュニティー推進やICT(情報通信技術)を活用した植物工場など、環境に配慮した災害に強いまちづくりに取り組む。

本紙記者座談会・都住設計1円落札

A 東京都の都営住宅建替基本設計で低価格受注が続いているけど、ついに「1円」まで出てきたね。まさに来るところまで来てしまったという感じだけど。
B 都側も発注者としての責任を感じているし、プロポーザルや総合評価方式での選定が最善であるとの認識は持っている。ただ、すべての案件でプロポーザルとなるとマンパワーなど問題も多い。
C 所管局は6月ぐらいから本腰を入れて対策の検討を進めていたけど、結果的に後手後手になっている感はある。それでも参加要件を厳しくしたり、基本設計と実施設計を一括で発注するなど、いまできる手立ては講じている。来年度には大規模案件を対象に総合評価やプロポーザルなど、価格だけに頼らない選定方式を試行するみたいだ。
A 設計界の対応はどうなの。
D 関係団体はこれまでも設計入札に代わる設計者選定方法を共同提案したり、熱心に取り組んできた。でも今回は、どこからもコメントが出ていない。
B 関係団体は間違いなく対応に苦慮しているよ。ただ、立場が違うと捉え方が違うから、会員によって意見が違ってくる。本音では、設計入札は経費がかからないから歓迎という設計者もいるし、都営住宅にプロポーザルを持ち込まれたら参加要件を満たせなくなるという声もあるようだ。
D 1円、10円ということは、そもそも市場として成立していない。いっそのこと、インハウスで設計すればいい。
B 入札に参加する以上は、取りにいかない方が逆におかしい。発注者から出される設計者批判は、議論のすり替えにしか聞こえない。
D 結局は、金額の多寡で設計者を選ぶ限り、何をしても実効は上がらない。上限があるなら下限があってしかるべきだ。