2014/04/24

【建築3団体】新国立競技場コンペで浮上した課題 3会の会長が語る(下)

Architect at his drawing board(1893)
都市の複雑さが増すにつれ、建築士、市民、行政、他分野の専門家の連携は優れた都市・建築のために必須の要素となった。しかし、異業種との相互交流が増えるにつれ、その知識の非対称性から生じたお互いの認識のずれや誤解はより強く認識されるようになっている。そんな状況の中で、日本建築士会連合会、日本建築士事務所協会連合会、日本建築家協会が合同で取りまとめたのが、設計3会の共同提案による建築士法改正だった。その内容は「一括再委託の禁止」「書面による業務契約の締結の義務化」「契約当事者の責務の明確化」など、建築主が果たす責務を明確化する内容となっており、発注者と受注者という関係そのものを更新する試みでもある。士法改正に賭ける思い、その意義について、藤本昌也日本建築士会連合会名誉会長、三井所清典日本建築士会連合会会長、三栖邦博日本建築士事務所協会連合会会長、芦原太郎日本建築家協会会長に改めて語ってもらった。
 三栖 士法改正の目的は、一言で言えば、設計・工事監理を業として確立させることにあり、業の規律と契約に集約されます。一定規模の建物の設計は建築士の資格がなければできません。
 一方、業については、建築士または建築士を使用する者が設計業を営む場合は建築士事務所登録をしなければならないとなっているので、建築士がいなければ事務所登録をしないで設計業を営むことができるとの解釈も成り立ちます。
 実際、建築士のいない、事務所登録のない多様な事業者が、建築士事務所であれば順守しなくてはならない建築士法の規定に全く拘束されずに、業を行っている実態があり、業の規律が十分に機能しない状況にあります。
 設計にかかわる紛争が多いのも、このことと無関係ではありません。設計業を営むすべての事業者が建築士事務所登録を行うということは基本中の基本で、建築主の利益保護や設計業界への信頼確保のためにも不可欠なことです。
 設計・工事監理を業として確立させ、建設産業を担う大きな柱にしていかなくてはなりません。この士法改正はその第一歩です。
 芦原 建築家や設計者は技術的な機能を満たすだけでなく、建築を社会的な資産としてその価値をコントロールするというのも大事な役割ですよね。
 特に、今回の新国立競技場で問題になっているのは、ああいうものが外苑の環境に建つということの意味が問われているのかなと思うのです。建築の社会性というものを一般の人たちにどう分かってもらえるのか。それを設計する人たちが一生懸命、建築の社会性を担保しようとして頑張っていることも分かっていただきたいものですね。
 三井所 設計といってもいろいろな設計があるから、市民の間では普通の建物でいいよというような理解があって、その普通の建物とごく一部のいろいろな設計が入り交じっている結果として、日本の街がすごくみすぼらしい貧弱な街になってしまっている。それをまずいと思う人たちを多くしていかなくてはいけないと思うのです。
 建築の機能とか安全性とか工事費とかだけじゃなくて、「東京の再生」「東京のシンボル」として、あれが存在し得るのかとか、そういう役割を普段から考えないといけない。
 例えばこの間、何十年ぶりかに香港へ行ったら成田空港よりも立派な空港になっていて、また来たくなるような感じがありました。そういう都市間競争にもどうやって勝っていくかということもテーマですよね。建築の設計というのは、社会の課題を解決する上ですごく重要な役割を果たすのだということを強く認識してほしいのです。
 三栖 設計の仕事の意味とその重要性、そして建築主と建築士事務所の役割を国民がしっかりと認識する必要があります。今や、法的最低基準を満たせばよいという時代でなく、建物の質が問われる時代にあって、建築主と建築士事務所の双方に果たすべき役割と責任があり、共同して建築をつくることが今まで以上に強く求められています。そのことから、双方の対等な立場での合意に基づき、双方の責務を明確にする設計契約が大変重要な意味を持つことになります。
 しかし、現行士法では、情報の非対称性と消費者保護を理由に、受注者である建築士事務所に一方的に責任を負わせる仕組みになっていることに加えて、業の規律が未整備で誰でも設計を受託できるという状況もあり、無登録の元請事業者から設計を丸投げされた建築士事務所が、建築主との直接の契約関係にないまま設計をやっている実態が少なからずあります。
 この場合、建築主と元請事業者の間にも明確な設計契約がなされないことが多く、設計責任が宙に浮いたまま、設計者不在の建物がつくられていくことになります。
 設計という仕事や設計者の存在が国民に認識され、国民と設計者が協力して建物やまちをつくっていくための新しい枠組みが必要とされる所以です。
 藤本 今回設計3会がまとまったことについては、その第一歩として非常に画期的なことだと思っています。
 しかし、法改正にまで持っていくにはさらなる試練が待っていると思います。設計3会の合意といっても、国民全体から見ればやはり内輪の話に見えてしまう。
 法律を変えるということは、社会的に一応認知されていた既得権の配分を変えることにつながります。
 当然、設計3会の外側にいる多くの利害関係者と対峙し、それを乗り越える利害調整の論理がわたしたちに求められるでしょう。
 そして、最終的にはわたしたち3会の論理が第三者の立場に立つ多くの国民が納得できる“公益性・公平性”の観点からしっかりと議論されたものかどうか、わたしたちの想像力が問われるのではないでしょうか。3会の戦略的議論を期待しています。
 三井所 自民党設計議連の会長さんが、業法についてはちゃんとやりますと、ただし設計3会関連団体がまとまらないといけないよと、そういうことを常にあいさつなんかでおっしゃっていました。実際に3会がまとまったことに対して、皆さん非常にびっくりされていましたね。
 内容の面から言っても、一般国民意識として建築の設計とユーザーの関係のあるべき姿を求めるためにまとまろうと思いました。
 法律ができるプロセスにかかわるというのは初めてなものですし、わたしも素人なのですからね。だから素人としては、じっくり検討してほしいと思うのです。
 検討してほしいというのは、質問を受けたいし、それに答えたい。法律をつくるプロの人たちはさっさとまとめてしまおうというふうに思われている感じもありますが、やはりユーザー、市民、専門家も含めて十分検討して、あなたたちは一体何を思っているのかということもちゃんと聞いてくれて、反論もしていただきながら、まとまるところにまとっていくようにしたい。
 それでまとめ切れなかったものは、継続的に検討していくとよいと思うのです。1回まとめてしまうと、当分この問題はもうやめようという感じになってしまう可能性も高いので、決まらなかった部分についてはさらに継続して検討しながら決めていくという気持ちで、本当に審議したり協議したりするような場面がほしいと思います。
 芦原 今後も3会による、世のため人のためという意味での結束は固いですし、さらに4会、5会と手を組みながら、個々の団体の利益ではなくて日本の建築生産をより良くするべく、盛り上がってきていますよね。ぜひ具体的なものに一つひとつ落とし込んで、成果を上げていきたいなと思っています。
 三栖 設計3会がまとまる、ということがどれほど重要なことか、身をもって実感しました。法制化を目指す内容は同じでも、日事連単独で運動してきた時に比べて、外から見る目が全く違ってきたのには驚きました。法改正の実現までには、超えなくてはならないハードルもまだまだ多いですが、設計3会がまとまったからこそ、ここまでこれたこと、また、まとめる上で見送ったものも少なくないですが、まとまらなくては何もできなかったことを思えば、大きな成果であり、確固たる前進があったと思っています。
 芦原 3会がまとまって、これだけ世の中というか、議員さんが考えてくれるとすれば、さらにまとまってもっと声を上げていきたい。
 三井所 今回はよく設計3会で協議しましたが、僕は事務所協会が話を進めるようにしてくれたのだと思っています。もしそうでなかったらここまでまとまらなかった。
 業法ができて過度に事務所が強くなると、相対的に個人の資格と責任が弱くなるという士会の懸念を事務所協会が理解してくれたと思います。
 建築士法の中で業のあり方も一緒に検討して改善されていけばいいと設計3会が合意し、内容の検討を丁寧にして今回の共同提案ができたと思っています。
 三栖 業法制定と業の確立は、連合会設立以来の最重要課題のひとつでした。過去に、業法制定に何度か挑戦してきましたが、他団体に反対され実現されませんでした。
 今回は、建築士会とJIAとともに設計3会の共同提案にすることで、業法制定で目指した項目について一つひとつ議論を重ね、結果として、法改正に収まりました。議論に時間はかかりましたが、根本での対立はなく、ほとんどの項目で合意形成ができたのは大変良かったと思っています。
 先ほども言いましたが、設計と工事監理の業務は、建築主と建築士事務所・建築士がいて成り立つものだから、発注者と受注者がそれぞれ責任を果たし、一緒につくっていくものだと思います。
 そのためには、それぞれが役割と責任を自覚し書面による契約をきちっと結ぶことが必要で、そのルールが国民にしっかりと理解されることも同様に大事と思います。
 芦原 発注者の責任もきちんと法に位置付けたいという事務所協会の思いというのは、いわゆるわたしたちの考える建築基本法の骨子でもある。
 また、専門家の役割と責任を明確化し、建築を社会的資産として位置付ける基本法の骨子は5会の「建築・まちづくり宣言」の中にしっかりとうたわれています。その5会で声を上げて宣言していることを、次の時代の法資格制度に結びつけたいなと考えています。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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