2016/03/20

【建築学会・公開討論】“人の暮らし”からまちづくりを 災害復興を「想定外」にしない建築家の役割とは


 巨大災害リスクにいかに立ち向かうのか--。東日本大震災から5年が経過し、復興の課題と成果が少しずつ明らかになっている。大規模災害が発生した時に、建築の専門家は土地利用や住まいの再生にどのような役割を果たすことができるのか。これまで多くの議論が費やされてきたが、そこから得られる示唆は多い。日本建築学会が12日に開いた東日本大震災5周年シンポジウム「専門的知見はどこまで生かすことが出来たか」では、建築の専門家から復興に十分貢献できなかったことへの反省の声が相次いだ。復興に際して、どのような役割があり、それを果たすために何をすべきだったのかを追ってみる。

 東日本大震災で建築の専門的知見が果たした役割について、建築家の内藤廣氏は「建築家にやれた仕事は100点満点中50点くらいだった」と振り返る。復興に関連した数多くの委員会に参加しながらも、建築的な発想が生かせなかった歯がゆい思いがあるという。「災害を忘れてはいけないが、忘れないと生きていけないのが人間だ。次の災害に向けて、今回の教訓をどう今後に生かすのか見直す必要がある」と語った。
 シンポジウムでは、内藤廣氏と東工大の中井検裕教授が建築・土木・都市計画の視点から専門家の貢献と課題について講演した。
 このほか、具体的な取り組みとして、小島一浩氏が建築家による復興支援「ArchiAid(アーキエイド)」の取り組み、宮城県土木部次長の三浦俊徳氏が宮城県の現状を紹介した。これから求められる活動について立命館大の塩崎賢明氏、北大の森傑氏、東北工業大の石井敏氏を交えてディスカッションした。
 内藤氏は今回の震災復興の特徴を「防潮堤、高台移転、区画整理の“三種の神器”」と総括。防潮堤からまちづくりを検討したことによって住民の心が地元が離れてしまったと問題点を指摘し、「未来が見えないために被災地の人口は減少している。建築は人の暮らしにかかわるものだ。もっと初めから建築の専門家が連携していれば、人の暮らしからまちづくりを考えられた可能性はあった 」とした。「 現在までの復興予算は24兆円を超えたが、今回の10倍以上の被害が想定される南海トラフ地震が発生した時に10倍の復興予算を使えば国家は破たんする。復興のやり方を変える必要がある」と警鐘を鳴らした。

◆ 建築家による復興支援「ArchiAid(アーキエイド)」の取り組み
 「アーキエイド」の活動に取り組んできた小嶋氏は、これまでの成果を報告するとともに、住民とのワークショップを何度も開きながら必ずしもその知見が復興に生かせなかった背景として、「建築家の持つ土木・都市計画・補助金制度に対するリテラシー不足」を挙げ、建築家自身が他分野について学んでおく必要があったと述べた。
 復興支援を通じ、土木分野の技術者について「建築家は(専門的な知識の乏しい)住民とのコミュニケーションに長けている。これに対し、普段から行政とのコミュニケーションを中心にする土木コンサルは住民から理解を得る力が不足している」との問題点を感じていたとした上で、それぞれ得意とするスキルが異なるだけに、建築と土木という専門性の枠組みを越えて連携する重要性を痛感したという。
 震災後の5年間をめどに、「アーキエイド」の活動は5月に終了する予定だが、今後は「プロの建築家として、仕事を通じて人びとの暮らしに貢献していきたい」と語った。
 岩手県陸前高田市の復興計画策定に携わった中井教授は、専門家の被災地へのかかわり方について言及し、「技術的助言は国や県の職員でおおむね十分であり、専門家の強みである高度な先端知識はほとんど必要ない 」とした。
 一方で専門家に求められる役割は、「当事者にとって言い出しにくい動き始めた取り組みの軌道修正だ」という。この点を踏まえ、「被災地に客観的中立的な助言はほとんど求められていない。必要なのは批評家のような発言ではなく、現地に軸足を置いた上で立場を越えて全体を俯瞰し、主体間の調整に協力することだ」と強調した。

◆「総合的なまちづくり」には日常的なかかわりが必要
 被災自治体を代表して参加した三浦次長は、宮城県の被害状況と災害公営住宅整備の経過を紹介した上で「総合的なまちづくりという意味で連携が重要だと感じた」と5年間を振り返った。震災前から沿岸部は人口減少が進んでいた地域であり、「住宅だけではなく、さまざまな分野がかかわった総合的なまちづくりが求められている。被災してから対応策を考えるのではなく、日常的な課題解決の仕組みづくりから始める必要があった」という。
 これを受けて内藤氏は、今回の震災を「建築家が日ごろから復興に携わるための仕組みづくりをやってこなかった」ために、建築の専門家にとって「想定外」の出来事になってしまったと指摘し、専門家の役割として日常的な地域貢献が不可欠だとの考えを示した。
 「それぞれの地域に建築家はいるが、今回の震災復興にそうした建築の専門家が参加することは少なかった。災害が発生してから専門家が地域貢献することは難しい。普段からどれだけ地域や住民にかかわることが可能か問われている」と語った。
 シンポジウムを総括した建築家の古谷誠章氏は「どんな復興をしたいのかという発想は地元住民から出てくるものだ」と述べた上で「地域の建築家が住民と日常的に接点を持っていれば、その発想を生かすこともできただろう。しかし、今回はそうした建築家が少なかった。地域で頼れる建築家を増やし、そのための制度を整え、まちづくりに普段から建築家がかかわる必要がある」と締めくくった。
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