2013/10/12

【復興版】「石が人をつなぐ」 石巻が特産の雄勝石を核に産業再生

雄勝硯伝統産業会館など
雄勝地区中心部の被災後の状況(12年8月撮影)
宮城県石巻市の半島部にある雄勝地区。震災で大きな被害を受け人口が震災前の4200人から約1200人に激減するなど、復興の遅れが目立つ。地域再生の要となる特産品の雄勝石と、その関連産業の早期復活を核に、生産と暮らしを再生させる「おがついしのわプロジェクト」を主導する菊地良覺東北工大ライフデザイン学部安全安心生活デザイン学科長に、地区の現状や課題、今後の展望を聞いた。

 菊地教授は、日本を代表する工業デザイナーの秋岡芳夫氏が「地域再生・復権のための実践的研究」をテーマに、1977年に設立した工業意匠学科第三生産技術研究室に所属。長年にわたり東北や北海道を中心にコミュニティー生産方式による地域デザインの研究・開発に取り組んできた。その一環として雄勝地区とも石巻市との合併前の旧雄勝町時代から約30年にわたり製品デザインや関連業務で付き合いがある。
 今回のプロジェクトでは、地元の雄勝硯生産販売協同組合との産学連携体制を構築し、三井物産環境基金の助成を受けて、3カ年で地域の再生に取り組むことにしている。

◇地域デザインは“自作自用"


 地域デザインの概念を“自作自用"と定義する菊地教授は、「地元の人が地域に伝わる知恵や技、素材を使って、地域全体を豊かにするため、自らの手で地域を守り、育てていく考えが大切だ」と語る。この概念に基づく同プロジェクトは、「石と人、暮らしと産業を“いし"がつなぐ、新しい雄勝の形をイメージしている」という。
 雄勝地区から産出される雄勝石は、国産の9割を占める硯などの伝統工芸品や、昨年復原された東京駅の屋根材に使われるなど建材としても高く評価されている。「雄勝石という固有の地域資源と漁業などの他産業とが連携し、伝統と調和する魅力あるまちに、生涯現役でいられる自立型の地域社会を形成し、持続可能な地域を再構築したい」と力を込める。
 具体的には、同組合が地域再生の拠点として自主建設する“雄勝生産と暮らしの工房"の構想段階から施工までの総合的なマネジメントの支援や地域資源の調査に取り組んでいる。東北大学と協働する地域資源の調査は、雄勝地区にある15浜すべてで、スレート瓦を使った建物などの有形資源の残存状況を確認。雄勝法印神楽や各浜に伝わる料理などの無形資源は高齢者から聞き取りを行う。

 

地域まちづくり構想
◇若い人材も育てたい

 「有形・無形を問わず調査を通じて見えてくる地域資源に、われわれ外部の人間が文化的に再評価し、全国に発信していくことが必要だ」と、調査活動の重要性を強調する。
 また、雄勝石を使った工芸品などの新商品の開発に取り組む一方、「技能者の高齢化に加えて、人口の流出もあり、震災前からの後継者不足という課題が深刻化している。伝統の技術を継承しつつ、地域再生の担い手となる活力ある若い人材を育てたい」と生産体制の再構築にも取り組む。
 石巻市がまとめた雄勝地域拠点まちづくり基本構想によると、住まいの高台移転を軸に、総合支所や公民館などの公共公益施設、硯伝統産業館や商業施設などの観光施設を伊勢畑地区に集約する計画だ。
 東北工大と石巻市は、雄勝地区の再生に向けた協力・連携協定を8月に締結した。「市の協力を得たことで、雄勝地区再生への取り組みを加速させられる。さらに市全域で、大学が持つさまざまな資源を生かして、広範な分野で効果的な復興の取り組みを支援していきたい」と見据える。
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