2015/04/05

【佐藤直良のぐるり現場探訪】新潟-東京の大動脈守る「地域の防人」 理解の低さに悩む 国道17号除雪現場

首都圏が冷たくどんよりとした、今にも泣き出しそうな雲に覆われた日、上越新幹線で越後湯沢を目指す。トンネルを抜けるとまさに『雪国』。空は青く、町を覆う雪は白く輝いていた。このシリーズ2回目の除雪現場訪問である。今回訪ねたのは国土交通省北陸地方整備局長岡国道事務所湯沢維持出張所管内で、東京と新潟を結ぶ大動脈である一般国道17号の冬期除雪に携わる人々だ。

 湯沢維持出張所は新潟県湯沢町湯沢~川口町間の総延長46.2㎞を直轄管理区間とし、区間内を塩沢、湯沢、二居の3つの工区に区切り、各工区ごとに除雪基地が設置されている。この除雪基地を拠点に地元の建設業者の方々が除雪事業と雪崩パトロールを行うことで、沿線住民の生活のみならず、広域物流などを支えている。
 今冬の降雪は例年より多く、過去10年比で降雪量ならびに積雪深は約1.5倍、1日の最大降雪量は110cm、最低気温はマイナス15度に達した。都市部に住んでいる人間からすると、にわかに信じられない環境である。

【除雪と雪崩パトロール】

グレーダーの運転席で説明を聞く筆者(右)
国道17号の除雪は、(1)新雪除雪(2)歩道除雪(3)拡幅除雪(4)運搬除雪(5)薬剤散布--の5つの工程から成る。まず新雪除雪では除雪用トラック、ドーザー、グレーダーにより車道の雪を、歩道除雪ではロータリー除雪車で歩道の雪を路肩に積み上げる。次に拡幅除雪で、路肩に積み上げた雪はロータリー除雪車で通路を確保しつつ歩道部に積み上げる。ここまでの工程で車歩道幅員が確保される。この工程を繰り返して歩道に積み上げた雪が一定の高さに達したら、除雪車でダンプトラックに雪を積み込み、雪捨て場に運搬するのが運搬除雪である。最後に車道に残った雪を溶かすため、散布車で薬剤を撒いていく。
 雪崩パトロールは、法面点検車とヘリコプターによって道路沿線法面の雪庇(せっぴ)・斜面クラックを確認することで雪崩の発生を予見し、災害を防ぐための仕事である。法面点検は観測台を搭載した車で、観測台は最大12mまでジャッキアップし、そこから点検者が目視で山の稜線(りょうせん)の雪庇や斜面クラックを点検するのが基本だ。ヘリコプターではより広範囲のパトロールが可能で、時期を決め安全を確認するために行われている。
 具体的な雪崩対策としては、雪庇処理と雪崩防止堤・雪崩誘導堤の設置がある。雪庇処理はパトロールで確認された稜線にできた雪庇を人力で谷側に落とす仕事のことだ。雪崩防止堤と雪崩誘導堤は雪崩への対策で、車道に雪崩が入り込まないように雪崩の流れを変えるための施策である。これらの他にも擁壁の天端やトンネルの坑口といったさまざまな個所で雪庇処理は行われているが、ほとんどが車両の入りづらい個所で、その除雪はすべて人力で行われている。
 国交省職員と各工区で除雪事業に従事している地元建設業者の人たちに、除雪のやりがいと苦労を聞いた。

【現場の声】

◆湯沢維持出張所

飛騨事務所長(奥)と関根出張所長(手前右)、筆者
管内の除雪の概要について、国交省北陸整備局長岡国道事務所の飛田潤一所長、関根伸幸出張所長が説明してくれた。出張所では管理区間の除雪のすべてを管理しており、除雪事業者のみならず、関係者と24時間態勢で連絡が取れるようになっている。気象台だけではなく独自の降雪予測で除雪の必要性を判断している。この地域では国道17号が住民の生活道路として最後の生命線の役割を果たす存在である。そのため出張所ではこの国道を正常に機能させることを至上命令としており、インタビューからも業務に対する強い責任感が伝わってきた。
 業務での一番の苦労は、国道17号の渋滞により除雪が滞ることだ。渋滞の主な原因は、軽装備の車両による交通事故や並行する高速道路の通行止めの際、国道17号に迂回(うかい)してきたトラックが雪の備えが十分でなくスタックすることである。それにより除雪車両が入り込めなくなってしまうからだ。飛田所長は「渋滞回避のためには地域住民の皆さまの安全意識の向上と運送業界を巻き込んでの対策検討が必要」と強調する。

◆R17号湯沢町貝掛地先(待避所)

松井取締役工務課長(右)
地元の町田建設の行っている雪崩パトロールの現場で、最前線に立つベテランの松井富栄取締役工務課長に雪崩の危険や仕事の話を伺った。遠方から目視で地山に雪崩の危険性が確認された場合、前述した人力の雪庇処理を指示するとのこと。
 一歩間違えば自身が転落する危険な雪庇処理とそれを判断する苦労は、道路を通行する一般の人にはあまり知られていない。命懸けで道路の安全を守るその姿には、まさに「地域の防人」といった感を強く受けた。

◆神立除雪ステーション

左から峠所長、筆者、若井専務取締役
森下組の若井正弘専務取締役、峠義輝所長に会った。峠所長によると、「除雪を行うかどうかの判断は国交省へ相談のうえ決めているが、当社で天候を予測し、場合によっては自主待機を行うこともある。特に12月ごろの天候予測は非常に難しい」という。若井専務取締役からも若手の人材不足の問題を聞いた。「会社としても給料アップや学校への訪問を通じて人材確保に努めているが、そもそも業界の魅力度が低いため入社する人数は少ない」とのことだ。そのため地元からの就職人数を増やすべく、森下組では地元商工会と連携して奨学金制度をつくったり、ソーラー事業の会社を設立して地元雇用の拡大と業界問題の解決に尽力している。業界の将来を見据えた素晴らしい取り組みである。
 さらに、地域住民の除雪への理解の低さも悩みどころだという。現在、住民には道路を除雪してもらって当然という風潮があり、大雪で除雪が追いつかなければ苦情を言われたりすることもあるそうだ。地域のために粉骨砕身している地元業者の苦労をよそに容赦なく不満をぶつける風潮には大変憤りを感じるが、それでもなお、わが社がやらねば除雪は進まないと語る若井専務取締役の強い言葉が印象的だった。

◆二居除雪基地

左から曽根氏、筆者、久川氏、大野社長、阿部大悦氏
文明屋の大野芳秀社長、曽根康博氏、久川英紀氏の話を伺った。大野社長は1966年当時の長岡国道開通時から除雪に従事している「除雪のスペシャリスト」で、現在のトンネルや国道が整備されていなかった時代からの除雪を知る生き字引のような存在だ。大野社長曰く、若手の人材確保ができないことが一番の悩みとのこと。「除雪作業は10年やらないと一人前になれないため、自社の若手社員が少ないことは非常に辛い。さらに最近ではコマツが除雪用の2人乗り大型グレーダーの製造を中止したため、1人乗り用の重機では運転の指導ができず、人材育成も難しくなった。しかし国道を絶対に止めてはならないという使命感は不変」との言葉に、大事な仕事に従事しながらも、抱える問題の深刻さを再認識した。
 社員である曽根氏と久川氏に仕事のやりがいを聞いてみた。親の影響でこの仕事に就いた両氏は、入社当時は予想以上の辛さに苦労したものの、現在では地域を支えているという使命感がやりがいであると語ってくれた。「地元住民ならではの強い絆が社員間の仲間意識をつくり、楽しく仕事ができている」と語る大野社長だが、そうした気概が曽根氏と久川氏の顔にも表れていた。
 グレーダーの運転席に初めて座った。操作レバーが多くあり運転には神技的な技量が不可欠と実感した。レバー操作を目の前で見せてくれた久川氏は「社長の指導は、厳しく、難しいと感じることもあるが、日々前向きに仕事の技量をより高めたいと頑張っている」頼もしい若手建設人だ。

◆塩沢除雪ステーション

左から筆者、高村現場代理人、笛田社長、長谷川氏
笛田組の笛田俊彦社長、高村明夫現場代理人、長谷川政一氏から話を伺った。この工区は下越地区で国道が市街地を抜けている。そのため待避所が少なく、作業対象区間が長いことが特徴だ。また交通量も多く、このエリアではスピード重視の作業を要求される。笛田社長は「この仕事に50年従事しているが、重機レベルが向上する一方で、残念ながら一般の自動車運転者などのマナーは低下している。除雪がなければ交通がストップして生活にも多大な影響をきたすことを学校が教育するなどして、除雪のありがたみが伝わると良い」と説く。
 最後に仕事の楽しさを高村氏に聞いたところ、「人々の生活や物流を途切れさせないことを目標に仕事をしている」と語った上で、「家族の支えや理解がなければ現場代理人はやっていけないと常々思う」とこぼした。
 高村氏のように、見えない所で自分を支えている人へのありがたみを忘れない心掛けを、地域住民のみならず、全国の人々が少しでも持つようになれば、除雪に従事する地域の防人たる建設業者の苦労も報われるのではないかと強く感じた。

【ひとこと/当たり前のために特別なことを】

 現役メジャーリーガーのイチロー氏の言葉に「特別なことをするために特別なことをするのではない、特別なことをするために普段どおりの当たり前のことをする」というものがある。文明屋の大野社長は「冬場でも住民が普段どおりに生活できることを目指して除雪をしている」と語ってくれた。前述の言葉を引用するなら、「普段どおりの当たり前のことをするために特別なことをする」ということだ。除雪に従事する人々はこの「除雪という雪国特有な特別なこと」を、使命感をもって日々当たり前のこととして取り組んでいる。人が知ろうが、知るまいが…。きょうも越後湯沢は雪かもしれない。北海道も。名も知れぬ地域の防人の努力に心から感謝。
(日本建設情報総合センター顧問・佐藤直良)
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