2016/11/02

【JIA建築家大会2016大阪】豊かな地域性、多様性を受容した街づくりに建築家が果たす役割とは


 大阪の街が育んできた人情や文化、そして近代建築遺産などを手がかりに、均質化した社会から抜け出し、地域性豊かな、多様性を受容した街づくりを進めていくために建築家が果たす役割とは何か。10月27日から29日まで大阪市で開催された日本建築家協会(JIA、六鹿正治会長)の「JIA建築家大会2016大阪」は、全国から参集した建築家が社会と向き合いながら、その「本質=職能」を改めて考察し問いかける場となった。「文化都市の復権」「社会の改革」「生きる街」をそれぞれ主題とし、幅広い分野で活躍する多彩なパネリストを交えて展開した3日連続シンポジウムを紹介する。写真はシンポジウムII「社会の改革」より

◆シンポジウムI 文化都市の復権 大阪から全国へ
 シンポジウムIでは建築史家の倉方俊輔大阪市立大大学院准教授をファシリテーターに、上方芸能評論家の木津川計氏と建築家で東大名誉教授の香山壽夫氏が討論した。


 まず木津川氏が「大阪はいま困難を2つ抱えている。1つは文化としての都市格が低下していること。もう1つは経済としての都市力が衰弱している。これをどう解決していくかが課題だ」と問題提起。
 香山氏は「都市や教育も一様化し、スター主義、ブランド偏向といった単一化、経済、流通の大規模化と、すべてが均質化、均一化を推し進めている」という日本の現状に対し、「建築で社会を変えることはほとんど不可能。1つの建築で社会革命を起こすような大きな力はない」と断言。 一方で「建築にできることはたくさんある。日常の中で小さな仕事を積み重ねていくこと。1つの大きな力ではなく、建築のいろいろな働きを重ね、つないでいくこと。地域の人々と一緒にやること。伝統を掘り起こすこと。場所の特性をとらえることを、ゆっくり着実にやっていくことが社会の多様化、都市の個性化に向かうためのポイントではないか」とした。
 また「建築の面白さは多様なものを引き受けるところにある」とも指摘。木津川氏も「建築家は小さな仕事を重ねながら、むら、まち、都市を変えるのと同時に守りもする」と述べ、かつて大阪の近代建築遺産を守った「中之島を守る会」の運動にも言及した。

◆シンポジウムII 社会の改革 ソーシャルイノベーターとしての建築家
 シンポジウムIIでは、ウェブマガジン「greenz・jp」元編集長の兼松佳宏氏をモデレーターに招き、社会的弱者の支援に取り組む20、30代の若いソーシャルイノベーターのプレゼンテーションや吉村洋文大阪市長のコメントも交えて、伊東豊雄氏、工藤和美氏、竹原義二氏の3人に建築家の仕事の本質とは何かを問いかけ、その答えをもとにディスカッションした。
 この中で兼松氏はソーシャルデザインの本質について、「新しい関係性が生まれることで新しい価値を発見していくこと」だとした上で、「本質的な活動をしている人が多い」と評価する“大阪流ソーシャルイノベーター”と建築家の出会いがもたらすものに期待を寄せた。
 「リーダーとなりものごとをまとめる力」「多くのものごとについて意思決定すること」「場所の力を見抜く力」「生み出しつくり上げることに集中すること」「人がほっとする建築をつくる」--。3人の建築家が提示した「建築家の仕事の本質」からは、立場や背景の異なる多様な主体がかかわる中で「大きなまとめをする人、方向性を示せる人が必要」(竹原氏)、「みんなが分かるようにアウトプットしていく。意思決定することは通訳していくということでもある」(工藤氏)といった統括者としての役割や、「鍵の場所をちょっと変えるだけで使い方は変わる。閉じるのではなく、開きながら最後の最後まで考えていきたい」(工藤氏)、「最初に投げかけたイメージに対して出てくる声に耳を傾ける。できるだけ人の力を借りて変えていくことに最大のクリエイティビリティーがある」(伊東氏)などと常に最善を尽くす姿勢が浮かび上がり、若い起業家の共感を誘った。
 「ほっとする建築」「小さな居場所をつくる」も関心を集め、「ほっとできる場所でやり直しの機会が与えられれば前向きにとらえられるのではないか」といった声も上がった。

◆シンポジウムIII 生きる街 市民が担うまちづくり


 シンポジウムIIIには、ものづくりの町、東大阪での人工衛星「まいど一号」打ち上げ計画の中心人物となった青木豊彦アオキ会長、倉田哲郎大阪府箕面市長、関西テレビアナウンサーの関純子さん、それに建築家で早大教授の古谷誠章氏がパネリストとして参加。千葉大建築学科卒の落語家、桂歌之助氏の軽妙なリードで古典落語の世界観を手がかりにこれからのまちづくりに必要な視点を探った。
 「人寄り場所(人が集まる場)」「隣近所との人づきあい」「ものの価値を決めるものは何か」など、落語の演目から導かれる話題に当意即妙に応じるパネリストの面々に、「これだけ分野の違う人が共通の話ができる。分野連携することが街の力、社会の自力をつけると感じた」とプロの噺(はなし)家も感服していた。

◆エピローグ これからの街 やり続けること


 古谷氏と竹原氏、木村博昭氏の3人の建築家が「これからの街」のあり様を論じたエピローグの中で古谷氏は「俯瞰(ふかん)して見えるものではないところに関西の魅力がある。水平に見た時の通りの魅力、ムシの目で見た魅力をもう一度考えて再構築すべきではないか」と提起。木村氏は「大通りから中に入ったところに人の営みがある。ほっとする場所の積み重ねが都市をいい都市にしていく」と指摘した。竹原氏は「これから建築家の職能も少しずつ移動していく。知恵を使って古いものを生かす視点に変わってきている」と述べた。
 さらに古谷氏は「古いものを都市や社会の新しい価値に置き換えることができれば産業の一部になって雇用も生じる。オーナーや事業者が残すことでお金にもなるという価値を見い出せるかが重要だ」とし、「これだけ価値観が多様化し1つのものに時間をかけて取り組むことが求められる中で、張り付いてやり続ける建築家が全国にもっともっと必要だ。良心と力量のある建築家が津々浦々まで育ってほしい」との考えを示した。
 竹原氏は「資産としての建築をどこにどう残しながら生かしていくのか、単発的にはあっても連続した議論はなかった。大会の3日間だけ考えても社会は変わっていかない。これをどうやって日々の中で生かすことができるか。建築家の立ち位置を真剣に見直すことも1つ意味のあることだ。まちがどう変わっていくか常に考えていく必要がある。知らない間に変わっていくのだけは避けよう」と呼び掛けた。
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