2012/07/15

集中連載! 震災で変わった発注者の意識(下) 自治体も企業育成の視点へ転換

 東京都が地域の核となる建設企業を維持しようとする姿勢を鮮明にする中、都内の基礎自治体でも優良企業への入札契約制度上のインセンティブ(優遇措置)付与など、企業育成の視点に立った施策展開を図るケースが散見され始めている。地域の安全を守る上で地元企業の健全な発展を促すことが必要だという意識が発注者に浸透しつつあるとも言える。一方、こうした動きに業界団体からは「震災を契機に地元重視の傾向が強まるのでないか」(東京都中小建設業協会)との期待が高まる。

◇災害リスク見据え地域貢献度評価

 地元重視の姿勢を明確に打ち出した代表的な事例が江戸川区が採用する「社会的要請型総合評価方式」だ。
 2009年3月に20年程度をかけて区内の小中学校71校を改築する方針を示した同区では、総額2000億円超の一大プロジェクトを「地域社会の発展や地域産業の活性化につながる改築事業にする」というスタンスのもとで事業着手した。
 その実現方策の一つでもある社会的要請型総合評価方式は、同区が10年4月に施行した「公共調達基本条例」に基づき特定公共事業に指定したものを対象に適用する。
 同方式は災害などの緊急時対応や教育活動への協力、区内の下請業者を活用するといった地域貢献度を評価する社会的要請点と、入札価格による価格点を50対50の割合で評価。加算方式により合計点数が最も高い企業を落札者とする。
 同区では、区との災害協定の締結実績に加え、仮に請け負った施設が地震などで被災した場合に、どのくらいの時間で駆けつけられるかといったことなど災害リスクをも見据えた評価を実施している。区の担当者も「単に点数を稼ぐための提案ではなく、発注工事を請け負うことで地域の建設企業が地元のことを思うきっかけになれば」と話す。
 現在は学校改築のみに限定して採用しているが、将来的には他の大規模工事に適用する可能性もあるという。

◇台東区で入札制度改革始まる

 また、台東区でも12年度から入札契約制度における建設業の維持・確保策に一歩踏み込んだ取り組みをスタートさせる。ことし4月に施行した「施工能力審査型総合評価方式の試行に関する要綱」がそれだ。
 施工能力審査型総合評価方式は、過去の工事成績評定や配置予定技術者の資格、実績といった企業の施工能力を評価する類型となるが、同区では評価項目には営業拠点の所在地や災害協定の締結実績といった地域への貢献度を盛り込んだ。
 特に営業拠点の所在地では区内に本店がある場合は最高点となる2点が加点されるほか、災害協定点では区との災害協定締結実績がある場合などに加点するなど、区として地域への貢献度を適切に評価しようという姿勢が示されている。
 同区は直接的に防災対応をにらんだ措置とはしていないが、中長期的にみれば発注工事の品質確保とともに建設企業の経営の向上にもつながることを期待しているという。
 公共事業が地域経済に及ぼす影響はいまなお大きい。その調達に当たっては単に手続きの透明性や公平性にとどまらず、地域社会の発展と住民の福祉にどう寄与させるのかといった視点も行政には問われている。

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