2015/08/23

【素材NOW】ファサードにきらめくレースを表現するYKKグループの「Yバー」  YKK80ビル

まるでレースのカーテンに包まれているよう。10日に入居が始まったYKK80ビル(東京都千代田区)の西面ファサードを彩るのは、アルミ押出形材が連なる巨大なスクリーン。設計を担当した日建設計の中村晃子設計部長は「大迫力でありながらも、繊細な表情を表現できた」と手応えを口にする。設計者の思いを、YKKAPの技術力が下支えした。たどり着いたのはYKKグループにとって欠かせない“Y”のカタチだった。

 JR秋葉原駅から徒歩2分の建設地は、西側に首都高速道路が走る。設計前に現地を訪れた中村部長は「周辺の街並みの個性が強いだけに、主張し過ぎないレースのスクリーンのようなファサードが合う」と直感した。YKKグループの顔として、アルミ素材を使ったファサードデザインを行うことは決まっていたが、「レースのイメージをどう表現するか」がポイントになった。

日建設計の中村晃子設計部長(右から2番目)とYKKAPの担当者
室内から外を眺めた時、圧迫させないようにするには、既製品の形材では太すぎてしまい、細くシャープな線を表現しにくい。「どこからでも同じ角度の見え方ができるように」と、その形を追求していく中で矢羽型の“Y”にたどり着いた。「われわれが提案した後、YKKグループにとって意味のある形と知り、運命を感じた」
 YKK80ビルの西側ファサードは、矢羽型のアルミ格子材を矢羽型のアルミつなぎ材で固定し、それを組み合わせることで間口60m、高さ36mの巨大なアルミスクリーンを形成している。中村部長は「3本の矢として連結していくアイデアがYKKAPから提案され、基本設計段階から実物大形材を使って念入りに検証を進めることができた」と振り返る。

矢羽型の格子材を同じ矢羽型のつなぎ材でつなぎ合わせる
そもそも矢羽型アルミ押出形材は、YKKグループが「Yバー」の呼び名でファスナー製造の基材として日ごろから使っているカタチだ。これはファスニング事業の生産合理化を実現した立役者でもあった。YKKAPビル建材第一事業部の須藤亮プロジェクト管理部長は「グループのキーテクノロジーであるYバーをファサードに組み合わせた意義は大きい」と強調する。
 通常、基本設計段階から詳細なファサードの検証に乗り出すケースはないが、YKKAPがファサードを担当することが事前に決まっている特殊要因もあり、「最初から金型を作成し、実際の押出形材を使って念入りに検証を進めることができ、プロジェクト関係者の合意形成も迅速にできた」と、ビル建材第一事業部設計部の内藤哲也部長は振り返る。

基本設計段階から実物大モックアップで検証
事前の検証は、施工にも効果を発揮した。格子材とつなぎ材を高さ3850mm、幅1640mmのサイズでユニット化し、それをつなぎ合わせることで巨大なスクリーンにするよう工夫した。同部デザイン&エンジニアリンググループの原田敦統括部長は「固定部分は全体で2、3万カ所にもおよぶ。安全で効率的に組めるよう、部材固定を通常のネジ止めでなく、リベット止めにした」と説明する。

ビル西面を包み込むアルミ格子のファサードは陽の光を浴び、輝きを見せる。「見て分かるようにつなぎ材がキラキラとした色合いを醸し出している」とは日建設計の中村部長。縦の格子材を際立たせるため、つなぎ材は目立たないように高さ50mmに抑えた。「遠くから見ると、これがスクリーンの絶妙なアクセントになっている」。YKK80ビルのファサードには意匠デザインと製品技術の融合効果が息づいている。 
 YKK80ビル(千代田区神田和泉町1番地)はSRC・S・RC造地下2階地上10階建て塔屋2層延べ2万0919㎡。建築主はYKK不動産、設計・監理は日建設計、施工は鹿島・戸田建設・大和ハウス工業JVが担当した。YKKとYKKAPの本社が入居する。
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