2012/07/01

現場リポート 大成建設が進めるボスポラス海峡横断鉄道建設工事


ボスポラス横断トンネルの内部

 アジアとヨーロッパが交差する街、トルコ・イスタンブール市で、国民が150年もの昔から夢見てきた世紀の建設プロジェクトが、待望の完成に向け着々と進行している。大陸を分断するボスポラス海峡の海底に鉄道トンネルを通し、同市の東西を結ぶ。これに挑むのは、世界各地で“地図に残る仕事"を手掛ける大成建設だ。世界有数の海流速を攻略し、夢を実現へと導く。現在の工事進捗率は約80%。土木工事はほぼ完了し、トンネル内部の設備や軌道、駅舎の建築工事など仕上げの段階を迎えつつある。





シールドトンネルと沈埋トンネル(奥)の接合部
◇世界初、海中でシールドと函体をドッキング

 大成建設を筆頭に、地元のガマ社とヌロール社で構成するJVが施工しているのは、通称「マルマライ路線計画」と呼ばれる総延長76・6㌔の国鉄整備事業のうち、最難関ポイントの海底トンネルを含む約13・6㌔の区間だ。建設費は約1023億円。
 ボスポラス海峡下のトンネルは、沈埋工法で構築した。幅15・3m、高さ8・6m、最長135mという巨大なRCの函体を計11個、海底に順次沈め、それぞれを接合していった。最深部は約60mで、これは同工法による世界一の深さだ。
 沈埋函は離れた場所で製作し、現場まで約40㌔の海上を曳航した。ただ、松久保徹郎さん(トルコ・ボスポラス海峡横断鉄道トンネル建設工事長)が「問題は深さではなく、潮流だった」というように、最大4ノットもの速い流れが立ち塞がった。
 そこで、潮流予測システムを新たに開発した。今後48時間以内に海流速が3ノットを超えないことを確認し、万全な体制で作業に当たった。
 「冬場は特に海面が荒れるため、作業を中断せざるを得なかったが、実質約1年で沈埋トンネルの構築を終えることができた」と針尾周吉さん(国際支店管理部事務センター所属)は説明する。
 沈埋トンネルの施工手順は、大まかに言えば、まず設置場所の海底を掘って溝をつくり、そこに基礎を築く。基礎の上に函体を設置した後、埋戻し工、被覆防護工を施す。
 函体同士の接着をより強固にするため、隣り合う函体間に溜まった海水を抜き、外側からだけ水圧(約8100t)がかかるようにする「水圧接合」を駆使した。
 沈埋トンネル区間以外は主にシールドトンネルで、両トンネルの接続にも高度な技術を要した。陸地と沈埋函の隙間を人工地盤で埋め立て、シールドマシンが通過できるようにした。許容誤差数はわずか数cm。陸地からのシールドマシンを海中で接続するのは、世界初の試みだった。



現場で発見された遺跡(写真提供:大成建設)
◇1万年前の「遺跡」続々発見 工事はストップ

 4つの駅舎建築を含め、これらの現場では「遺跡」というキーワードを語らずにはいられない。紀元前8000年の集落跡が発見されるなど、人類文明の発祥地と称されるトルコ。掘削を進めると、至るところから東ローマ帝国、オスマン帝国時代などの遺跡や人骨が見つかった。そのたびに工事はストップし、遺跡調査が行われる。着工は2004年8月で、当初は09年4月(工期56カ月)に竣工予定だったが、現時点では13年10月(同110カ月)まで延長されている。現在も遺跡調査は実施中だが、間もなく完了し、いよいよ具体的な完成時期が見えてくるという。
 完成後は、イスタンブールにおける旅客輸送の鉄道シェアが4%から28%に大幅に伸び、慢性的な交通渋滞を緩和できる。この仕事が、「トルコの成長を支えることになる」と上田徹さん(イスタンブール連絡所長)は胸を張る。

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1 件のコメント :

  1. 素晴らしい、元土木技術者の1人として誇らしく感じる。 (75歳・行政)

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