2014/10/06

【インタビュー】女性初の広域派遣 北陸TEC-FORCEの2人に聞く

ことし8月に発生した広島の土石流災害で、国土交通省は全国の地方整備局からTEC-FORCE(テックフォース、緊急災害対策派遣隊)を被災地に派遣したが、その中には女性隊員の姿があった。広域派遣に女性職員が加わるのは今回が初めてだという。女性技術者の登用促進が政策的に大きく動き出す中、否が応でも注目が集まるが、全国の先陣を切って現地に乗り込んだ北陸地方整備局の梅田ハルミ、浅野未来両隊員は口をそろえて「職務を全うするという点で性別は関係ない」ときっぱり。最前線に立つ女性技術者が今何を感じ、どこを見据えているのか、2人に聞いた。

第1陣の現場
北陸地整の河川計画課調査第2係に籍を置く浅野さんは学生時代に経験した中越地震がきっかけで「災害時に役立てる仕事に就く」ことを決意。「より広域かつ高度な支援を展開したかった」との思いから国交省に入省した。それだけに、今回の派遣は胸に期するものがあったという。広島派遣では発災直後の第1陣に加わった。北陸地整は渓流を中心とする被害状況調査を担当したが、現地では2次災害の危険がつきまとい、行方不明者の捜索も一時中止を余儀なくされていた。捜索再開に当たっては、2次災害防止の観点から専門家の判断が必要とされ、浅野さんら北陸地整のTEC-FORCEは国土技術政策総合研究所とともに、捜索範囲上流の渓流(広島市安佐南区八木3丁目地先)の安全性確認(再開判定)も担った。さらにその後も捜索が難航することを見込み、作業再開の判定基準とする手作りのマニュアル作成に携わった。これが土石流センサーが設置されるまでの間、捜索活動を大きく支えた。「本来の(渓流調査)業務に加え、他の機関の活動にも寄与でき、国交省としての使命を十分に果たせたと思っている」と胸を張る。

第2陣現場
第2陣の派遣メンバーとなった梅田さんは、同じく河川計画課に所属し、土砂災害警戒避難対策係長の要職にある。第1陣と入れ替わる形で、8月26日から現地に入った。大学時代は砂防学を専攻。入省後も砂防畑が長く、知識も経験も豊富な砂防のエキスパートだ。それでも先発隊から引き継いだ渓流調査の対象地区(同市安佐北区可部地先)に足を踏み入れた時は、「被害の甚大さを目の当たりにした瞬間、普段(の業務)とは違う緊張感が走った」という。
 厳しい状況だからこそ「隊員全員で団結し、安全を確保したので不安はなかった。むしろ、地元に貢献したい気持ちが強くなった」と思い返す。そして、何より支えになったのが「住民の方々からいただいた『ありがとう』『頑張って』の励ましの言葉だった」と目を細める。調査業務への協力も非常に積極的だったと謝意を表す。
 同局のTEC-FORCE(第1、2陣)は、9月1日までの派遣期間内に渓流調査の1、2次点検結果をまとめ、広島県、中部地方整備局にそれぞれ報告している。
 2人は、女性技術者としてTEC-FORCEに参加したことについて、「学生時代から周りは男性ばかりなので、そういった環境には慣れている」とした上で、「職務を全うするという点で性別は関係ない」と強調する。トイレなど就労環境の整備の必要性に水を向けると「災害時なので多くは望まない」ときっぱり。一方、「現場に身を置くことで、『どうすればこの災害を防げたのだろう』と常に自問自答し、非常に勉強になった。今回はさまざまな条件が合致し(女性として)参加できたので、この経験を他の後輩職員に伝えていきたい」と口をそろえる。
 逆に適切に業務を遂行する上で見えてきたこともある。現地では宿泊場所の手配に苦慮し、「男性が相部屋なのに対して、女性は一人部屋になるので、確保する部屋数が増えてしまう」と口惜しさを残す。ただ、宿に戻るのが夜遅くになることも少なくない中で、「万全の体調で業務をこなすには男性であろうと、女性であろうと、一人に近い状態で休んだ方がいいのではないか」と指摘する。

*     *
 切迫する有事の現場で「使命感を持って任務を遂行すること」に性別は関係ない。決して声を大にするわけではないが、2人の思いは共通している。とはいえ、女性の視線を業務のシステム全般に組み込むことによって、女性の活躍する場を広げるだけでなく、性別に関係なく業務の効率性や環境の改善につなげていくことこそが、担い手対策としては求められているはずであり、2人が見据えているものではないだろうか。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

0 コメント :

コメントを投稿