前田建設は、シールドトンネル工事などの排泥から効率的に自然由来ヒ素を分離処理する技術の実用化にめどを付けた。遠心分離と磁性分離の2段階で効率的に減容・処理を行うシステムで、これまで実際にヒ素を含んだ土壌を使って実証試験を進めてきた。試験では設備をコンパクトに抑えながら、泥水を減容化してヒ素を効率的に処理できる手応えを得ている。6月末、実証試験の現場を取材した。
大深度地下などを掘進するシールド工事では、自然由来のヒ素が発生するケースがある。こうしたヒ素の処理をめぐってはゼネコン各社が各様の技術を展開しているが、同社は排泥の大量・連続処理を前提に、設備の小型化や効率性、コストを追求して今回の2段階処理にたどり着いた。実際の現場では、急速施工に伴い泥水が大量に発生する上、敷地条件やコストといったさまざまな制約があるためだ。処分場のひっ迫という社会的な背景もある。
この技術は、鉄粉が大きなかぎを握っている。鉄粉にヒ素を吸着させて磁石で回収する既存技術をベースとしているが、従来に比べ粒径が6倍大きい鉄粉を採用した。この鉄粉を顕微鏡で見るとスポンジ状になっており、表面積を稼いだことでヒ素の吸着能力も高い。
しかし、大径の鉄粉を採用した最大の目的は、吸着能力の高さではない。遠心分離を可能にするためだ。磁性分離の前工程として遠心分離を組み込んだのがこの技術の特徴だが、小径の鉄粉では遠心分離が難しい。
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回収した鉄粉 |
大径鉄粉による遠心分離の効果は大きい。ヒ素は全体の2-3割程度に凝縮・減容化され、残りの7-8割は無害な汚泥として処理できる。この結果、次工程の磁性分離設備を小型化でき、従来の5分の1程度のスペースで設置できるようになった。初期工程に負荷を掛けて後工程を軽くする“フロントローディング”の発想だが、コスト低減効果は大きい。一方、鉄粉も10回以上の繰り返し使用が可能だ。
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棒磁石に付いた鉄粉 |
5月上旬からスタートした実証試験では、環境基準の3-6倍程度のヒ素を含んだ土を使ったが、「非常に良い結果が出た。実用化にめどがついた」(土木事業本部の三輪俊彦土木技術部長)と手応えは十分。
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遠心分離で減容化する |
遠心分離後の磁性分離は、永久磁石を仕込んだドラムを回転させ、そこに遠心分離後の凝縮物を流し込んで鉄粉を回収する。一般的なドラム型磁選機で十分な回収能力を持つが、さらに高い要求水準にも対応できるよう、次工程として取り残しを回収するフィルター型磁選機型磁性分離も用意している。フィルター型磁選機には電磁石を使うが、「エネルギー消費を少なくするため、ガウス数を抑えて運転する」(土木技術部の芝本真尚環境技術グループ長)という配慮も織り込んでいる。
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クラッシャーで粉砕した粘土塊 |
実際の現場では、実証プラントと違って敷地上の制約を受ける。このため、「どこに何を設置するのが有利になるのかを検討し、差別化につなげていきたい」(環境技術グループの山本達生チーム長)。一方、現場ではさまざまな土が排出されることから、粘土塊などを砕くクラッシャーも備える。新技術の優位性を余すことなく発揮したい考えだ。
今後は実用化を急ぐ。「シールド部門や現場なども交え、早い段階で実機設計に取り組みたい」(三輪土木技術部長)。あわせてブラッシュアップも進める方針で、ヒ素以外の物質への適用可能性も探っていく。
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