2016/04/24

【岩崎電気】まるでダイビング中! LED化進む水槽照明、海中の自然な光を演出


 東日本大震災以降、省エネ意識の高まりから照明器具のLED(発光ダイオード)化が急速に進み、日本は世界にもまれな「LED大国」となった。メタルハライド(HID)ランプが中心だった水族館の照明も、急速にLED照明に置き換えられつつある。照明は迫力ある水槽を演出するための大切な要素だが、水族館の照明に特化したメーカーがあるわけではない。照明メーカーが経験と配光技術を駆使して発注者や設計者の理想のイメージを具現化している。写真はマリンピア日本海の「サンゴ礁水槽」。

 水族館の照明取り付けの現場では、施主や設計者と協議しながら屋外向け照明器具を配置し、実際に水槽内の魚や疑岩の見え方を検証しながら、手探りで配置を決めていく。新潟市の水族館『マリンピア日本海』では老朽化に伴う改修工事の際に「省エネに配慮したい」という市の意向を受け、ほぼすべての照明をLEDに置き換えた。担当したのは老舗メーカーの岩崎電気。HIDランプの時代には、『サンシャイン水族館』(東京都豊島区)のリニューアルを手掛けた経験があり、十分な水槽照明のノウハウを持っている。
 LED照明は直進性が強く、反射鏡などで光の広がりを制御しなければならないが、一方で細かな波にも光がよく反射するため、水面(みなも)に自然光が差し込んでいるような美しいきらめきのある水面をつくることができる。「イメージどおりの演出ができなければ別の照明を運び入れた。現場は試行錯誤の連続だった」。技術アドバイザーとしてマリンピア日本海に通った同社社会システム部広域開発営業課の清水真悟主査は振り返る。
 同社には水中の配光シミュレーション技術はあるが、水槽という環境下で塩水の中を光がどう進むかは完全に予測することができなかった。「海の色に合わせて青色LED照明をつけてみた途端、水中に青いもやがかかる」という問題も生じた。

水槽の深さによって照明の種類や配置を変える

 マリンピア日本海は、生態系や海の豊かさを表現するため、テーマによって水槽のサイズもそれぞれ。深さや演出によって照明装置の種類も配置も変わる。サンゴ礁水槽では底が浅く、光あふれる海を表現するため配光角度の大きい照明を横並びにし、底の砂に均等に光が当たるように調整している。
 日本海大水槽では深い海に太陽光がにじみ出るような情景を表現しなければならなかったが、水深5m、水量800tでは、底まで光を届かせるだけでも難しい。配光角度が小さい高出力形LED投光器を束のように配置して、海中をリアルに再現した。
 光の色を表現する色温度も重要な演出要素の1つ。光の赤さや青さの指標により、砂の上に住むオオトカゲやカメといったは虫類の展示には太陽光よりも赤みがかった色の照明を使う。特殊な自然環境を表現するとき以外は、不自然さを避けるために水槽の色温度を合わせた。「より美しく演出するために青い照明が求められていると思ったが、実際には太陽光に近い、自然な光が好まれた」とは清水主査。海中を透き通った光が通り、ダイビング中に魚を観察しているような「自然の美しさ」を生かす演出が求められたという。
 こうした要求に応えたのが、高演色LED照明だ。太陽光で見るのと近い色を再現できるように、技術を進歩させた。太陽光を100とする平均演色評価数(Ra)は、従来品で70程度だったが、高演色製品では80-90に上がった。正確な色表現を必要とする商品宣伝の看板向け照明シリーズなどに活用されている。
 メーカー各社はHIDランプからLEDへの交換用ラインアップを整え、開発フェーズはより細かい顧客の要求に応える段階に移ってきた。同社は『仙台うみの杜水族館』(仙台市)で色温度が6600ケルビンの製品を特注で開発し、通常のラインアップに組み込んだ。今後は技術提案力の強化が受注のかぎを握ると読む。国内の水族館で老朽化対応ニーズが広がる中で、各社の受注競争は一層激しさを増してきそうだ。
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