2016/04/07

【教育】異なる建築文化、相互研鑽で〝強み〟自覚 デンマークと日本の共同学生WS


 「『ゆとり』から何が生まれるのかを伝えたい」。そんな思いから、デンマークと日本の学生による短期留学プログラムを主催する矢野拓洋さん。日本とは全く異なる建築生産プロセスと建築文化を持つデンマークを日本の「鏡」にすることで、新しい建築生産の姿が生まれると力強く語る。「失敗とされたかつての『ゆとり教育』が目指したものが北欧にある。それを伝えることで、日本の建築設計事務所を取り巻く環境を変えたい」という。1980年代末に生まれ、自らを「ゆとり世代」と語る矢野氏にプログラムにかける思いを聞いた。

 2015年8月に実施した短期留学プログラムでは日本人学生が20日間にわたってデンマークに滞在し、現地の学生と合同チームを組んで建築プロジェクトに参加した。「国際化が進もうとしている今、海外との比較をすることで日本の持つ個性や強みを自覚してほしい」と考え、学生間の交流を中心としたプログラムを構成した。

両国の学生が共同でデザインプログラムに取り組んだ

 デザインプロジェクトでは両国の学生がいくつかの合同チームに別れ、NGO団体の所有する敷地に建築を提案した。完成したアイデアは最終的に参加者やNGO職員らが投票して評価したが、重視したのは「デザインの結果よりもプロセス」だったと強調する。「お互いの違いを知ることでより良いものが生まれる。日本人らしさ、デンマークらしさを意識し、その違いを可視化することでデザインプロセスを比較しやすくなる」という。
 留学中は「学生に海外で働くということを具体的にイメージしてほしい」という思いから大手建築設計事務所「BIG」や「COBE」への訪問、建築見学、レクチャーなどを通じて、現地の文化や仕事の進め方についても学んでもらった。「ヨーロッパを中心に国境を越えた共同事業が増加し、そこから新たな発想や人材の流動化が起こっているが、日本では国際化への対応や海外への道が限られているように感じる」と指摘する。

デンマークと日本の学生たち

 現在、デンマークの民間シンクタンク「北欧研究所」で働く矢野氏も、常に異文化との交流の場に身を置いてきた。英国の大学院で建築を学んだ後、デンマークの建築設計事務所に就職した。福祉大国と呼ばれる国の働き方は驚きの連続だった。「建築設計事務所も午後5時を過ぎれば所員が誰もいなくなる。あらゆる仕事がスピーディーに進んでいた」という。
 ただ、デンマークで働く中で、その労働環境が抱える問題点にも気付かされた。「日本型のディスカッションはディテールが整い品質も高いが、時間を要し、個人の負担も大きい。デンマーク型のディスカッションは早さがあるが、ディテールの甘さが残り、作品への愛着も薄かった」と分析する。その上で「それぞれに欠点があり、見習うべきところとがある」と異文化交流を通じて自文化を知る重要性を強調する。
 ことしも短期留学プログラムを実施する予定だが、課題になるのはやはり資金面だ。昨年は学生の参加費と協力者の「友情価格」によってなんとか実現できたものの、中長期的な展開は困難な状況にある。それでも「日本と異なる労働環境を知れば、きっと日本の労働環境も変わる。日本の建築設計を取り巻く環境を変えたいと願う仲間を増やしていきたい」とその意気込みは衰えない。
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