2015/12/30

【記者座談会】東北の2015年 震災から4年9カ月、復興・創生期間へ


 2015年も残すところわずかとなった。東日本大震災の発生から4年9カ月が過ぎ、来年3月には集中復興期間が終了、4月からは新たに復興・創生期間がスタートする。この1年、震災からの復興はどれだけ進んだのか、新たな課題は何か。また、ことしは改正品確法(公共工事品質確保促進法)の“運用元年”とも言われたが、受発注者の意識はどのように変化したのか。恒例の年末記者座談会を通じてこの1年を振り返る。写真はJR石巻線の全線開通を祝しての女川町のまちびらき。

 司会 集中復興期間も残り約3カ月となった。震災からの復旧・復興はどれだけ進んだのか。
 記者A 道路や鉄道などの基幹インフラの復旧・復興は大きく進んだと思う。3月1日に全線開通した常磐自動車道は、予定路線決定からほぼ半世紀にして、首都圏と仙台市を結んだ。特に福島の復興・再生に大いに寄与するはずだ。企業立地も進んでいると聞くし、今後もストック効果が発揮されると思う。
 記者B 復興道路・復興支援道路に位置付けられた三陸沿岸道路「吉浜道路」や東北横断自動車道釜石秋田線「遠野~宮守」も開通した。ともに地域産業や観光産業の復興支援、救急搬送の迅速性確保などが期待される。
 記者C トンネルの貫通や本格着工も相次いだ。事業化からまだ4年だから、異例のスピードと言っていい。東北地方整備局が導入した事業促進PPPの効果が大きい。現在の業務は、川上分野から川下分野の施工管理へとシフトしているが、必要不可欠な存在となっているようだ。
 記者D 鉄道関係は、運休となっていたJR石巻線の浦宿駅~女川駅間や同仙石線の高城町駅~陸前小野駅間の運転が再開され、ともに全線がつながった。地域住民にとっては、日常生活を支える鉄道の復活は極めて大きく、記念式典も盛大だった。
 司会 基幹インフラの復旧は順調なようだが、住宅や復興まちづくりの方はどうか。
 記者B 当初計画に比べれば多少遅れている地域もあるが、災害公営住宅の整備は着々と進んでいると思う。岩手、宮城両県では“まち開き”も相次いだ。
 記者A 復興道路などのスピードアップは事業促進PPPの効果が大きいという話だったが、住宅・まちづくりに関しては都市再生機構によるアットリスク型CM(コンストラクション・マネジメント)方式を活用した面的整備が功を奏していると言えるのではないか。
 記者D 事業促進PPPやアットリスクCMは、ともに全国初の試みだが、今後の公共事業推進の試金石になりそうだね。
 記者C 復旧・復興は全体的には順調だが、地域間の差が大きくなっている。特に福島は、復興・創生期間からが本当の意味でのスタートになる。岩手と宮城でも被災自治体の事業はまだまだ残っているし、予算確保も約束されたわけではないから楽観視できる状況ではない。震災の風化をくい止めるためにも、積極的な情報発信が必要と言える。
 記者B 確かにそのとおり。19日に開かれた第6回復興加速化会議では、復興係数などを16年度も継続適用することが決まった。村井嘉浩宮城県知事らの強い要望を受けたものだが、石井啓一国交相も、その必要性を強調していた。
 司会 ほかに大きなイベントや新たな施設の完成などはあったかな。
 記者C 3月に第3回国連防災世界会議が仙台市などで開かれた。「防災の主流化」や「ビルド・バック・ベター(より良い復興)」などの考え方が盛り込まれた『仙台枠組み』が採択された。約190カ国から参集した防災担当者らに被災地の現状や復興状況を見てもらう良い機会になったと思う。
 記者A 仙台水族館開発が整備を進めていた「仙台うみの杜水族館」が7月にオープンし、約4カ月で入館者が100万人に達した。今後も多くの来場者が見込まれており、仙台市の復興のシンボルにふさわしい。
 
震災を乗り越え開業した地下鉄東西線

 記者D 仙台の話題が続くけど、地下鉄東西線が12月6日に開業した。工事が始まった時は、ダンピング(過度な安値受注)問題が大きくクローズアップされたが、震災による工事の一時中止や資材価格の高騰、人手不足といった困難を乗り越えて目標どおりのタイミングで開業にこぎ着けた。今後、人や車の流れが大きく変わり、“杜の都・仙台”の発展にも貢献するだろう。 
 記者C 11月には東北地方整備局の二日町、花京院両庁舎が、新庁舎に引っ越した。特に二日町庁舎は、用地取得から104年間、東北地方の社会資本整備や災害対応の中核施設としての役割を果たした。閉庁式の当日、正面玄関に集まった職員やOBの感慨深げな顔が印象に残っている。
 記者A 9月には関東・東北豪雨災害が発生し、甚大な被害をもたらした。特に宮城県内では県管理の渋井川(大崎市)の堤防破堤を始め、各地で水害が発生したため、地元建設企業が中心となって対応に当り、地域の“町医者”としての使命を果たした。
 司会 建設業の担い手確保・育成、女性の活躍推進の動きはどうか。
 
104年の歴史に幕を下ろした東北地方整備局の二日町庁舎

 記者B 1月に改正品確法の運用指針が策定され、4月から本格的なスタートを切った。東北地方整備局を中心に発注者協議会などを開き、発注者の責務遂行に向けた取り組みが行われている。その成果の一つとして、今年度中に東北の市町村から“歩切り”が全廃される見通しとなった。今後もいかに市町村に改正品確法・運用指針を浸透させるかがかぎとなるだろう。
 記者D 女性の活躍に関しては、他地域に比べて人口減少の進展スピードが速い東北にとって避けて通れない課題だが、「言うは易く行うは難し」というのが実態だろう。それでも青森県など、県レベルでは女性の活躍推進に向けた萌芽が見え始めている。日本建設業連合会が名付けた“けんせつ小町”にも注目が集まっているが、官民挙げた取り組みが重要だ。
 記者A 担い手確保にもつながるが、コンサルタント業務の表彰制度創設も各県で進んだ。技術者のモチベーションを向上させる効果があると思う。
 司会 東日本大震災の発生から間もなく5年になるが、復興は道半ばと言える。来年4月から突入する復興の第2ステージでの事業推進や、各地で頻発している豪雨災害への対応、担い手確保など、建設業界が果たすべき役割は非常に大きい。来年がこれら課題の解決に向けた1年となることを期待したい。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

0 コメント :

コメントを投稿