2015/12/16

【復興特別版】地域の“なりわい”生かし学ぶ「森の学校プロジェクト」 風見正三・宮城大学事業構想学部副学部長に聞く


 宮城県東松島市が進める、被災した野蒜小学校の統合高台移転事業となる“森の学校プロジェクト”は、地域の重要な資源である森を生かし自然に学ぶ学校を、地域の“社会的共通資本”ととらえ、地域全体で科学的・民主的に再構築していく新たな学校づくりとして注目されている。同市学校教育復興計画検討委員会のメンバーとして構想・計画づくりから携わる風見正三宮城大学事業構想学部副学部長=写真=は「豊かな地域資源を戦略的に連携させることで、持続可能な地域創造にアプローチしていきたい」と力を込める。

 風見氏は、日大大学院理工学研究科博士課程前期修了後、日本ダム協会で地域振興計画の調査研究業務に従事。その後、大成建設で都市開発や環境デザイン、まちづくりに携わった。留学先のロンドン大大学院では都市地域計画学と経営学の修士を取得。1991年に現地で開かれた地球サミットに参加し、そこで初めて示された“持続可能な発展”の概念に触れ、都市開発から一転して自らの原風景でもある「コミュニティーを主体とする持続可能な地域創造」を研究テーマに、東工大で博士号を取得した。
 理想に掲げるのはイギリスの学者エベネザー・ハワードが提唱した都市と農村の利点が統合し、共生する“田園都市”だ。「都市の持続可能性や適正規模をコントロールするため、環境・社会・経済をどのように統合していこうかと考えていた時に出会ったのが、社会的共通資本という考え方だった」と振り返る。

◆ 社会的共通資本という考え方
 世界的経済学者の宇沢弘文氏が提唱した社会的共通資本は、地域に住むすべての人が豊かな経済生活と優れた文化、魅力ある社会を継続的かつ安定的に維持できる社会的装置を意味し、森林・河川などの“自然環境”と、道路・交通・水道・ガスなどの“社会インフラ”、教育・医療・金融などの“制度資本”で構成する。 

風見氏が描いた森の学校のスケッチ

 宇沢氏の指導を受け、「これまでの経験を生かして社会的共通資本を実在のまちでつくることが自分の使命だ。具現化には地域が自らガバナンス(統治)する仕組みが必要」と考えるようになった。地域の特性を生かした計画を住民主体で策定していくエコロジカルプランニング(地域環境管理計画手法)を取り入れるとともに、“なりわい”となるコミュニティービジネスを両立させる持続可能な地域づくりに取り組んできた時に震災が起きた。
 風見氏は、被災した沿岸部を見て「これまで都市をつくってきた立場から忸怩(じくじ)たる思いもあった。みんなが希望を持てるような新たなビジョンを提示したかった」と復興に掛ける思いを語る。

◆「教育」が重要な位置を占める―森の恵を共有できるプログラム
 東松島市とは震災前から協働のまちづくりに取り組んできた縁があり、アースデイを通じて親交があった作家のC・W・ニコル氏が30年近くにわたり再生に取り組んできた「アファンの森」(長野県信濃町)に、被災した子どもたちとともに訪れた。「そこで子どもを癒した森の力と、自然の再生力を改めて確認し、東北の森も再生させようと考えた」と森の学校の着想を振り返る。
 社会的共通資本を構成する制度資本の中でも教育は重要な位置を占める。風見氏も「教育はまちづくりの原点であり重要なテーマだ。今回の震災経験で最初に伝えるべきことは、自然に立脚した暮らしと、それを支える仕組みの重要性だ」と強調する。
 復興まちづくりの過程で“環境未来都市”を宣言した東松島市にとって、森は重要な資源だ。「森の文化を継承し、多様な人材が参画する地域協働の学校として、森の恵みを地域全体で共有できる教育プログラムを考えている」と、森の学校を地域の社会的共通資本に位置付ける。

先行整備したツリーハウス

 配置計画では、移転先となる丘陵地の地形を可能な限り残すことで、学校敷地の背後に広がる森全体を“学びの場”に設定。C・W・ニコル・アファンの森財団とともに、子どもたちや教員、保護者、地域住民らとワークショップを重ね、建設計画や教育プログラムをまとめ、森を切り開いていった。13年6月に先行整備したツリーハウスは「子どもたちとともに取り組んできた象徴」であり、ここを活用した出前授業などの取り組みも始まっている。

◆学校周辺にさらなる施設、コミュニティービジネス
 学校周辺には、福祉公共施設や森林セラピーを主体とする病院などが整備される予定だ。さらに地域の新たな産業となる林業では、山から切り出した木材を馬で搬出する伝統的な“馬搬(ばはん)”の技術を岩手県遠野市の第一人者に学ぶなど、森を中心とする新たなコミュニティービジネスの創出が進められている。
 森の学校の理想は「地域に根付いた地元建築家による設計と、住民中心のセルフビルドにより、地域に愛され、ともに育っていく学校だ」という。
 人口減少時代にあって地域に根差し、その持続可能性を実現する社会的共通資本の核となる新たな学校。「東松島市では森だったが、それぞれの地域で、共通資源を生かし、自然に学ぶ学校をつくることができる。スキームをつくるとともに、これを具体化できる人材も育てていきたい」とその先を見据える。

◆野蒜小学校災害復旧工事=〈規模〉木造平屋一部2階建て延べ4035㎡〈工期〉2016年11月30日まで〈施工〉住友林業(建築)、ユアテック(電気)、山下設備工業(設備)〈設計〉松下設計(基本設計)、盛総合設計(実施設計)〈基本構想・計画〉宮城大学〈建設地〉宮城県東松島市野蒜北部丘陵被災市街地復興土地区画整理事業区域内
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