2015/12/31

【2015年を振り返る】担い手確保・育成への取り組み元年 品質確保と信頼回復への対応


 2015年は、担い手3法の運用指針策定により、建設産業界にとって本格的な担い手確保・育成への取り組み元年の年だった。また、女性活躍推進、重点整備計画など新たなキーワードに基づく多様な人材活用や地域づくりが本格的に始まった年でもあった。ただ一方で、免震ゴムの性能や杭データ偽装といった、建築物の信頼を損なう問題も浮上、建設産業界にとって品質確保と信頼回復へ向けた対応が求められた1年でもあった。この1年の出来事を、重大ニュースとして振り返る。

■担い手3法 運用指針共通ルール正式決定 「運用元年」に期待
 改正公共工事品質確保促進法に基づく発注関係事務の共通ルールである「運用指針」が1月30日に「公共工事の品質確保の促進に関する関係省庁連絡会議」で正式決定され、4月から本格運用を開始した。発注者が必ず取り組む事項と多様な入札契約方式など努力事項を明示。発注者がやってはいけないことが明確になり、品確法の「運用元年」として建設業界・国土交通省が改善を促しやすくなった。歩切り撤廃など確実に取り組みが進んでいる取り組みも出ている。
 国交省関東地方整備局が指針に合わせた「設計変更ガイドライン」も作成し、普及に業界が期待を集めている。

■社保加入促進 業界挙げての取り組みに加入率高まる
 建設産業界挙げての社会保険加入促進の取り組みが効果を上げてきた。公共事業労務費調査に基づく加入状況や建設業許可更新時の加入確認などからは、加入率が高まっていることが分かる。法定福利費を含めた公共工事設計労務単価の再三にわたる引き上げ、国土交通省直轄工事を皮切りとした未加入業者排除措置の広がり、元下間での加入徹底に向けた取り組みの本格化などが奏功したと言える。
 ただ、17年度までに加入率を企業単位で100%、労働者単位で製造業並みの90%相当にするという目標達成に向けては、民間工事における取り組みがカギを握っている。

■i-Con 生産性を飛躍的向上 全プロセスにICT
 建設業界が抱える最重要課題「担い手の確保・育成」が、新たなステージに入った。国土交通省は、労務単価の引き上げや社会保険の加入促進など、これまでに行ってきた技能労働者の処遇改善策に加え、建設現場の生産性を飛躍的に高める「i-Construction(アイ・コンストラクション)」を打ち出した。調査・設計から施工、維持管理に至るまでの全プロセスにICT(情報通信技術)を全面的に導入するほか、コンクリート工の規格標準化や施工時期の平準化を推進する。生産性向上は一見すると、省人化やコスト縮減が狙いと思われがちだが、企業の利益を増やして働き手の賃金水準を上げるという処遇改善が主眼だ。

■就労履歴システム 技能者情報を蓄積 官民共通で利用

 国土交通省は、就労履歴蓄積システムを構築するため、官民コンソーシアムを8月に設立した。技能者個人に業界共通で活用できる番号(ID)を付与して、社会保険加入状況や現場経験、保有資格などの情報を登録する。2015年度中に中間まとめ、16年度前半に全体設計、後半から試行運用、17年度から本格運用を実施する。
 日本建設業連合会も同システム推進本部を設置、官民コンソーシアムに先だって7月に初会合を開いた。日建連は、労務管理から処遇改善に色彩を強めるため、名称を「建設キャリアシステム」に変更するよう提案した。

■女性活躍推進 公共調達時に加点評価検討
 女性活躍推進法が成立し、従業員301人以上の企業に行動計画の策定・公表が義務化されることになった。2016年4月から同法に基づく企業の認定がスタートすることから、政府は公共工事の業者選定時に女性活躍推進の企業を加点する評価制度の導入も始める予定。ワークライフバランス(WLB)推進を柱としたダイバーシティ経営に乗り出す企業も急増。経済産業省はなでしこ銘柄を拡大、企業投資の観点からも女性活躍推進を重要視した。国土交通省は工事現場への女性進出を見据え、現場トイレの環境整備改善にも乗り出した。

■拡大する海外事業 国際競争に挑む機運が高まる
 2020年東京五輪の後、建築分野を中心に市場規模が縮小していくとの見方は根強い。落ち込みを補うため、各社とも海外事業の拡大に向けた備えを進めている。主戦場の東南アジアでは、日系企業の工場建設需要に一服感が出てきたことから、各社とも非日系案件の受注拡大を目論む。こうした中、政府が力を入れるインフラ海外輸出は大きな追い風であり、官民双方で国際競争に挑む機運が高まっている。
 しかし、一朝一夕に拡大できないのが海外事業だ。国際情勢は時々刻々と変化を続ける。さまざまな意味で、従来以上に高度なリスクマネジメントが求められている。

■積算大系改定 土木設計・測量・調査の一般管理費引上げ
 国土交通省は、土木設計と測量、地質調査各業務の積算基準を改定し、業務価格に占める一般管理費率の構成比率を高めた。また、各業務の共通仕様書を改め、担当技術者の登録可能枠を現行の最大3人から8人に拡大した。4月1日から適用を開始した。
 設計業務は、一律で設定している一般管理費等率を「30%」から「35%」に引き上げた。測量と地質は一般管理費率に該当する諸経費率を改定した。金額によって率は変動するが、測量は現行の「44.9%-87.8%」を「51.7%-91.2%」、地質は「28.0%-47.1%」を「32.8%-52.0%」に高めた。

■転換期の官公需法 創業10年未満を新規中小企業者に
 ことし7月、創業間もない中小企業の受注機会を拡大するための中小企業需要創生法が可決された。このうち官公需法の改正では、創業10年未満の中小企業を「新規中小企業者」と定義し、国などの契約の相手方として活用するように配慮しなければならないことなどを規定した。
 文部科学省や国土交通省は、過去の実績を過度に求めないように配慮することや、下位等級であっても入札に参加できるような、参加資格を弾力的に運用することなどを明記した。また、いずれも今後3年間で新規中小企業の契約実績を14年度比で倍増という目標を設定した。

■処遇改善 ゼネコン、下請でも 優良技能者認定制度、対象外職種まで拡大
 優秀な技能労働者の確保に向けて、ゼネコン各社による優良技能者認定制度の改善・拡充する動きが活発化した。認定した優秀な職長に対する日当の引き上げに加え、これまで対象外だった職種や年齢の枠を拡大しているのが大きな特徴で、中長期的な供給力の確保・維持に向けた協力会社の囲い込みに力を注いでいる。
 優秀な若手技能労働者にも手当を支給し、その育成を行う協力会社に助成金を支給する制度を構築するゼネコンも複数あり、下請けの中には、社員の技能資格に応じて自ら手当を支給するところも現れ、元下双方で職人の量の確保と質の向上に取り組み出した。

■リニア着工 南アルプストンネルが本格着工
 東海旅客鉄道(JR東海)は、2027年開業を目指すリニア中央新幹線(品川~名古屋間)の南アルプストンネル(山梨工区)の建設に着手した。
 全線初の本格着工で、全長約25㎞の南アルプストンネルのうち山梨県内約7.7㎞を大成建設・佐藤工業・錢高組JVが施工する。18日には現地で安全祈願祭を開いた。
 このほか、品川駅の北工区は清水建設・名工建設・三井住友建設JV、南工区を大林組・東亜建設工業・熊谷組JVの施工で工事を進める。
 工事発注はこれから本格化。建設各社の技術力を結集し、長大山岳トンネルや大規模地下ターミナル駅の工事に挑む。

■相次ぐ品質確保問題 信頼回復へプロ意識徹底
 建築用免震積層ゴムの性能データ改ざんや基礎杭の施工データ流用は、社会に大きな不安を与えた。ユーザーのうかがい知れない部分での不正は、業界全体の信頼を大きく揺るがした。市場環境の好転により、ゼネコン各社は軒並み好業績を上げているが、建設現場では人手不足も手伝い社員や作業員にかかる負荷が増している。
 労働人口の減少を見据え、生産性向上が業界全体の大きなテーマとなっているが、業務効率化の裏側には油断や怠慢というリスクも潜む。効率優先による倫理の欠如はあってはならない。信頼回復に向けてはプロ意識の徹底が求められている。

■新国立競技場 公共建築設計のプロセス変化も
 建設費の高騰が原因となり、ザハ・ハディドが設計した新国立競技場の設計案が5月に白紙撤回となり、国民全体を巻き込む議論と混乱が生じた1年間だった。2度目のコンペには隈研吾氏と伊東豊雄氏が参加し、両氏とも木材を多用して日本らしさを表現した作品を示した。評価は拮抗したが、最終的にはコスト・工期の点から隈氏の案が選定された。
 今回の混乱を契機として、建築プロジェクトの情報公開を求める国民の声は大きくなった。今後、公共建築の企画・設計はこれまで以上に透明性を重視したプロセスになることは間違いない。

■参院選挙、業界が足立氏を推薦 地方事情に明るく建設業に理解深い
 来夏の参議院議員通常選挙(比例代表)の自民党公認候補である足立敏之元国土交通技監を、建設業職域代表として業界団体が相次いで推薦している。日本建設業連合会、全国建設業協会など全国団体を始め、地方業界でも推薦する動きが一気に広がった。四国、中部で地方整備局長の経験があり、地方の事情に明るい。技監としても公共工事品質確保促進法改正に携わり建設業全体への理解が深いため期待は大きい。
 国政選挙への投票率が低下する中、来夏の参院選から選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き下がるため、これまで以上に若者の取り込みも重要になる。

■社会資本整備重点計画 戦略的インフラマネジメント構築

 9月に社会資本整備重点計画(第4次計画)が閣議決定された。ポイントは機能性・生産性を高める戦略的インフラマネジメントの構築だ。厳しい財政制約の中で、既存ストックに対する戦略的メンテナンスと有効活用(賢く使う)によってキーワードとなる「ストック効果」の最大化を狙う。
 計画期間は2020年度までのおおむね5年間。50年までの長期ビジョンとなる「国土のグランドデザイン」や、8月に閣議決定した「国土形成計画」の実現に向けて、これまでのフロー重視の姿勢から「ストック効果」重視へと大きな戦略の転換を打ち出した形となる。

■頻発する自然災害 豪雨で鬼怒川決壊 建設業の役割再確認
 9月の関東・東北豪雨は各地に甚大な被害をもたらし、茨城県常総市での浸水被害は1万1000棟に及んだ。決壊した鬼怒川では鹿島、大成建設が昼夜を問わず急ピッチで堤防の応急復旧工事を進めたほか、地元建設業界も迅速な復旧作業に尽力。災害時に建設業が果たす役割の大きさを改めて示した。
 国土交通省は「鬼怒川緊急対策プロジェクト」として、国と沿川自治体が連携して総額600億円を投入し集中的な治水対策に取り組むことを決定、年明けから本格的に着手する。さらに20年度までの5年間を対象期間とする「水防災意識社会再構築ビジョン」を策定。今回の被害も踏まえ、ハード対策に約8000億円を集中投資するとともに、ソフト対策も一体的に推進していく。

■新社長
 ことしも多くの新社長が誕生した。
 1月には旭硝子の島村琢哉氏、日建設計の亀井忠夫氏、大京グループのオリックス・ファシリティーズの三宅恒治氏、日本アジア・アセット・マネジメントの熊谷明彦氏、教育施設研究所の高宗吉伸氏、昭和設計の千種幹雄氏が就いた。
 2月に協和コンサルタンツの山本満氏、3月には積水化学工業の高下貞二氏、オーヴ・アラップ・アンド・パートナーズ・ジャパン・リミテッドの小栗新氏、SGホールディングスの町田公志氏、美樹工業の岡田尚一郎氏、日本電気硝子の松本元春氏、コクヨの黒田英邦氏、イトーキの平井嘉朗氏が就任した。
 新年度を迎えた4月は、リオンの清水健一氏、大成建設の村田誉之氏、東洋エンジニアリングの中尾清氏、森組の吉田裕司氏、三機工業の長谷川勉氏、大成温調の水谷憲一氏、フジタの奥村洋治氏、日本ペイントホールディングスの田堂哲志氏、三井住友建設の新井英雄氏、東急不動産ホールディングスの大隈郁仁氏、宇部興産の山本謙氏、ナカノフドー建設の竹谷紀之氏、テクノ菱和の黒田英彦氏、住友建機販売の下村真司氏、三井不動産リアルティの山代裕彦氏、日本板硝子の森重樹氏、野村不動産の宮嶋誠一氏、大成ユーレックの小林敬明氏、日立プラントコンストラクションの赤穂敏之氏、富士通ネットワークソリューションズの岡平司氏、東京鉄骨橋梁の坂本眞氏、中部川崎の竹内雄吉氏、三菱マテリアルの竹内章氏、JFEホールディングスの林田英治氏、JFEスチールの柿木厚司氏、三井住建道路の松井降幸氏、東急設計コンサルタントの大野浩司氏、東洋バルヴの小田仁志氏、双星設計の中村武嗣氏、東急不動産の植村仁氏が新社長に。
 5月には日土地建設の重松伸幸氏、乃村工藝社の榎本修次氏、ドーコンの佐藤謙二氏、総合地所の関岡桂二郎氏が就いた。
 株主総会が集中する6月には北新建設の高畠茂氏、オリエンタルコンサルタンツグローバルの米澤栄二氏、レンタルのニッケンの村山雅彦氏、マネジメントシステム評価センターの藤井信二氏、丸彦渡辺建設の藤城英樹氏、SYSKENの福元秀典氏、大日本土木の上坂光男氏、中部国際空港の友添雅直氏、ジェイアール東日本コンサルタンツの栗田敏寿氏、鹿島の押味至一氏、仙建工業の内田浩二氏、首都圏新都市鉄道の柚木浩一氏、大成建設ハウジングの平島信一氏。
 中間貯蔵・環境安全事業の谷津龍太郎氏、北陸電気工事の三鍋光昭氏、四電工の家高順一氏、ニチレキの小幡学氏、水道機工の角川政信氏、前田道路の今枝良三氏、若築建設の五百蔵良平氏、日本コンクリート工業の土田伸治氏、イチケンの長谷川博之氏、日本電設工業の土屋忠巳氏、省電舎の鵜澤利雄氏、日本ヒュームの大川内稔氏、矢作建設工業の高柳充広氏、旭コンクリート工業の清水和久氏。
 日本電子認証の杉山正朗氏、日本コンサルタンツの山崎降司氏、アール・アイ・エーの岩永裕人氏、テノックスの菱山保氏、中部電力の勝野哲氏、名古屋鉄道の安藤隆司氏、野村不動産ホールディングスの沓掛英二氏、東北電力の原田宏哉氏、新日鉄住金エンジニアリングの藤原真一氏と、数多くのトップが誕生した。
 7月は古久根建設の鈴木眞一氏、8月にはERIホールディングスの増田明世氏、日本ERIの馬野俊彦氏が就いた。
 9月にはアクセンチュアの江川昌史氏、佐藤工業の宮本雅文氏が就任。
 10月はシンドラーエレベータのレネ・クンツ氏、URリンケージの渡邊輝明氏、横河ブリッジの名取暢氏、南武の知念辰浩氏、大盛工業の和田明彦氏、また、大和小田急建設と合併した新生フジタの社長に奥村洋治氏、11月は日総建の木内啓氏、12月には城口研究所の萩原秀樹氏、川岸工業の金本秀雄氏が新社長に就いた。
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