2015/12/10

【東大T-ADS×竹中工務店】機械と職人は不可分になれるか 「手書き」構造体が導く“デジタルファブリケーション”


 東京大学大学院工学研究科建築学専攻(T-ADS)と竹中工務店は、「人が地面から建築を描き上げる3Dペン」をテーマに、3Dペンを使って建設したパビリオン「TOCA」=写真=を、東京都文京区の工学部に14日まで展示している。5日に東大で開かれたシンポジウムには小渕祐介氏(東大准教授)らが参加し、建築と機械が融合したデジタルファブリケーションによるパビリオン建設が生み出す建築生産の新たな可能性を紹介した。

 デジタルファブリケーションとは、3Dプリンターやレーザーカッターなどコンピューターと連動した技術を使ったものづくりの総称だ。次世代を担うものづくりの新しい手法で、T-ADSは建設会社と協力した産学協働プロジェクトとしてデジタルファブリケーション技術を使ったパビリオン建設に毎年取り組んでいる。

建材を絞り出す3Dペン

 ことしのパビリオンでは、硬質発泡ウレタンとメッシュ素材を組み合わせた「建材」を絞り出す3Dペンを開発し、学生が「手書き」で構造体を完成させた。「あらかじめ形状がデザインされていながら人間的なゆらぎを柔軟に取り込み、実際の施工によって初めてユニークに形状が確定する建設システムだ」と小渕准教授は指摘する。
 手仕事によって生じる設計との誤差は、施工途中から常に構造最適化を繰り返して対応した。構造設計を担当した荒木美香氏(東大佐藤淳研究室特任研究員)は、「施工済み部分の層を(現場で)スキャンし、その結果に基づいて未施工の層を最適化して次のステップの形状へフィードバックした」と振り返る。
 施工性を高めるため、建設に携わる作業員の腕の動きを事前にカメラで撮影し、デジタル化した動かし方から共通するパターンを抽出して設計を検討した。

メッシュ素材をウレタンで包み込んだ建材

 人と機械のかかわり方を研究している五十嵐健夫氏(東大教授)は、これまでのパビリオン建設は人間に無理な動きを強いるデザインになっていたと指摘する。「(違う人間でも)体の動かし方は非常に似ている。人間の動きやすいパターンを組み合わせて施工の指示を出せば、より効率的かつ安全に工事を進められる」と身体性を取り入れた建築計画の重要性を語る。
 「これまで利用者の身体性を考慮する建築はあったが、施工する人間の身体性は無視されてきた。つくる人の動き方まで考えた無理のない設計により、建築生産にさまざまな可能性が生まれる」という。
 こうしたデジタルファブリケーションを使った建築づくりは以前から「単なる新奇的な形の追求に陥る」「デジタル化によってものづくり能力が低下する」といった批判にさらされてきた。これに対し慶應義塾大学の池田靖史教授は、「デジタルツールの統合的な理解が未来のデザイナーの重要な能力だ」と強調する。「アーキテクトの能力を育てるためには総合的な能力が重要になる」のだと。

機械・人間・建築をテーマにシンポジウム開催

 東京藝大准教授の金田充弘氏は「なぜ人間と機械がすみ分ける必要があるのか」と提起し、「台中オペラハウス」や「ぎふメディアコスモス」といった最先端の構造設計が熟練の職人の手仕事によって実現した事例を紹介。両者が互いに不可分となっていると指摘し、「ツールがデジタル化するほどローカルなものづくりに回帰していく。デジタルファブリケーションはデジタル化したデザインと人間の手仕事との境界をさらに曖昧にし、両者を近づけていくだろう」と語った。
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