芝浦工業大学は2017年4月、次世代の建築教育を展開する「建築学部」を開設する。「社会に学び、社会に貢献する技術者の育成」を建学の精神に掲げる同大学の伝統的な建築教育「シバウラのケンチク」をどう未来につなげていくのか。初代学部長に就任予定の堀越英嗣工学部建築学科教授に新学部開設の意義と今後の目指すべき人材育成のあり方などを聞いた。
いまなぜ建築学部なのか--。「価値観が多様化し、より総合的かつ複雑な時代に対応するため、逆に建築の原点とは何かというところに戻ろうと考えた」とその狙いを説明する。
戦後の高度成長期は「ある明確な目標があり、造るものが決まっていて、それに対してきちんと答えを出す、つくり手の主導していく時代の建築のあり方だった」とする。いま21世紀に入り「つくり手の時代から使い手の時代に完全にシフトしている」と指摘。「先行モデルがなく、どこに向かっていくかを使い手と一緒に考えなければいけない時代。むしろわたしたち自身も使い手のプロになることが要請されている」と語る。
◆誰の何のためか、価値観を再検証
「工学的、技術的なことももちろん大事だが、何のためにつくるのか、誰のためにこれがあるのかということを常に考えるような人材を育てていきたい。使い手から見た時にどういう価値があるのか、ものの価値を再検証するという能力も学生には期待したい」とも。
その上で「もう一回“建築って何”という原点に戻る。与えられた価値観で並べるのではなく、世の中にあるばらばらなものをどうやって自分で集めて秩序付けていくか。その能力こそが建築の力であり、その原点に戻ることでもある」と力を込める。
新学部は、工学部建築学科と建築工学科、デザイン工学部デザイン工学科(建築・空間デザイン領域)の2学科1領域を統合・再編してリスタートする。「約30人もの多様な教員が既に学内に存在している。この貴重なリソースを生かすことで、より専門特化しつつ分野を広げることができるのではないか」という。
◆専門化しつつ拡大、学びと実践を融合
従来からの特色ある少人数制教育は、「空間・建築デザインコース」(SAコース)、「都市・建築デザインコース」(UAコース)、「先進的プロジェクトデザインコース」(APコース)の3つのコースを設けることで引き継いでいく。「1人の人間がエンジニアリングから意匠まで、総合的にインテグレーションされた人材を育てることが基本。その中で身の回りの空間から都市空間まで、スケールである領域を分ける、あるいは建築を超えた多様な動きに対する興味への受け皿となる」
使い手の時代だからこそ「女性の視点もより重要になる。身の回りからというスケール感もまさに使い手のイメージ」だとも。
具体的な教育方針については、「よりプロジェクトベースを充実させていきたい」と語る。文部科学省の「スーパーグローバル大学創成支援」採択校であることも強みだ。海外との連携を「建築の分野でも加速させていく」と意気込む。「学ぶことと実践することがより近くなるような方向性」を目指している。
◆身の回りを豊かに、若い感性に可能性
「いま建築には静かな革命が起きているのではないか」とも感じている。「それは日本がもともと持っていた使い手の美学によってつくられた文化に戻ろうとする、揺り戻しかもしれない」とも。その中で「使い手としてのレベルは若い人の方が高いのではないか」と若い世代の感性に建築の可能性を見いだす。
だからこそ、「純粋にどうやって人の役に立つのかを考え、それを実現した時に喜びを覚えるような情熱を持った人間を育てたい」とし、これから建築を志す若者に「普通の人が日常の中で豊かになれることを手伝うのが建築の一番のベースであって、それが少しずつバトンタッチされて広がっていくことでまちづくりになり都市づくりになっていく。そのためにもまず身の回りのことに関心を持ち、それを少しでも豊かにしようと思っている人であれば歓迎したい」とエールを送る。
(ほりこし・ひでつぐ)1976年東京芸術大学建築学科卒、78年同大学院修了後、同年丹下健三・都市・建築設計研究所入所、86年アーキテクトファイブ設立・共同主宰、2005年堀越英嗣ARCHITECT5代表。04年から芝浦工業大学工学部建築学科教授。主な受賞歴は日本建築学会賞(業績)、BCS賞、日本建築学会作品選奨、土木学会デザイン賞最優秀賞、グッドデザイン大賞等共同受賞など。東京都出身、53年生まれ。
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