多くの工場が建ち並ぶ京浜臨海部。こうした工場にある煙突の解体工法として大成建設が開発した「テコレップ・スタック」は、本社、支店、現場が知恵と力を出し合って生まれた。高い安全性と大幅な工期短縮を実現する同工法で、新たな需要の掘り起こしにも期待がかかる。
一般的に煙突の解体工事現場では、煙突を足場で囲み、周囲に防音シートを掛け、ブレーカーでコンクリートをはつりながら撤去する。昭和電工横浜事業所の煙突解体工事を担当した横浜支店の丸山高志塩浜土木工事作業所長は「煙突と周囲の既存工場の離隔は2mで、使用可能な通路は幅6mの構内道路のみ、工場を稼働したまま解体」という課題に直面した。通常工法は、足場の組み立て・解体に時間がかかる上、足場材の搬出入が多く、構内道路を頻繁に制限しなければならない。足場に堆積・散乱したガラの落下という危険性もあった。
そこで目を付けたのが、2本のマストに設置した四角形の足場が昇降する移動式足場「スカンクライマー」だ。煙突とマストを支持棒でつなぐことでマストが2本ですみ、狭い現場条件にぴったりだった。煙突全体を足場で囲う必要がなく、頂上部からの下降も計6分で可能で、風による作業中断も短くて済む。従来工法で1カ月半かかる組み立ても、10日程度に短縮した。フィンランドのメーカーの製品で、煙突解体での使用実績はないものの、メーカーに足を運び、実物の昇降確認と安全性検証も実施した。
コンクリートブロックの押し倒し |
次なる問題は、稼働中の工場へのガラの落下防止だ。そこで円形の煙突をブロック型に分割して煙突内部に落とすという方法を考え出した。「ワイヤーソーで切断すると、切断時にブロック状のガラが足場側に倒れ込むという不安があった」(丸山所長)ため、ブレーカーで鉄筋を残してコンクリートをはつり、鉄筋があらわになった時点でコンクリートブロックを煙突内側に押し、主鉄筋を切って落とすことにした。
ところが、どうしても小さなガラが足場と煙突のすき間から外側に落ちる。「地味だが重要なポイントだった」(丸山所長)。そこで、エレックスシート管内にラッシングベルトを通し、足場と煙突のすき間に巻き付け、シートをかぶせた。移動時の付け替えも簡単という優れもので、特許も出願した。検討に携わった同支店の小林敏彦土木部技術室長は「材料がシンプルなほど作業は簡単になる。作業員からも好評だ」と話す。
ただ、大型のガラの落下による振動が問題になった。そこで、煙突の底に砕石とガラを敷き詰めてクッション代わりにすることを思い付いた。物体落下時の振動を計算で正確に算出するのは難しいため、「発注者の立ち会いのもと、実験で体感してもらうことにした」(小林室長)。発注者の要求振動は20ガル以下だったが、あえて6ガルを目標に設定。結果は最大でも3ガルと目標を大きく下回った。
テコレップ・スタックの開発に携わった丸山高志所長(右)と小林敏彦室長 |
煙突内部に落としたコンクリートガラの撤去方法も課題で、煙突下部の小さな管理用出入り口をコンクリートで補強した上で、開口部を広げた。足場、ガラ、振動、開口部と、次々に湧き起こる課題を一つひとつ解決していった結果が、新工法の誕生につながった。本社の清水正巳土木本部土木技術部部長(技術担当)兼インフラ・海洋技術室長は「工夫と検討を組み合わせることが苦労でもあるが、強みでもある」と笑顔を見せる。
既存の化学工場や石油精製工場などにある煙突は老朽化しているものが多い。実は、今回の現場作業中にも近隣から煙突解体の相談が丸山所長に寄せられた。煙突解体だけでなく、「煙突の補修、鉄塔の塗り替えなどメンテナンス市場でも需要はあり、ニーズに応じて応用できる」(清水部長)。移動式足場も「スカンクライマー」に限らず、国産メーカー製品も含め、現場条件にあわせて工夫すれば、工法の可能性は大きく広がっていく。
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