2016/07/10

【担い手】“奥深い業種”知って! 中小企業と未経験者つなぐ世田谷区のマッチング事業


 「御社が求めているのはどんな人材ですか」。建設業界未経験の求職者から地元の中小建設企業に積極的な質問の声が挙がったのは、東京都世田谷区が実施する「建設業人材確保支援事業」での1コマだ=写真。人材不足に悩む中小建設企業と世田谷区内での就職を希望する若年者を結びつける事業で、6月29日に2016年度初回の座談会を開いた。事業を担当する川村健一郎工業・雇用促進課長は「都内の自治体では唯一の建設業に特化した人材確保の取り組みだ。マッチングだけでなく、採用後の定着や研修についても積極的に取り組んでいきたい」と話す。

 事業のきっかけは区内工事での人手不足だった。保育園をはじめとする建設工事が予定どおり進まないことに危機感を抱き、15年度から区内の中小建設企業と若年者とのマッチング支援をスタートした。15年度は現場見学やガイダンス、体験実習、面接会などを実施し8人の就職が決まったが、「目標値に届くものではない」(川村課長)と、16年度は事業を強化。区がこれまで実施してきた他産業でのマッチング事業と複合化することで、若者への就職支援と建設人材の確保を一挙に目指す。

◆社員にとってもモチベーション
 事業に参加するのは、区内の社員数人から数百人程度の中小建設企業約30社だ。参加者の大橋エアシステム東京本店の若菜慎介課長は「一般的な採用ツールは大手人材広告企業に限られているので、無料で求職者とマッチングできる機会がもらえるのは中小企業にとってはありがたい」と話す。同社では15年度の建設人材確保事業がきっかけで2人が入社した。「現場の見学会なども実施しているので、学生や求職者に見てもらえることで、社員にとってもモチベーションにつながる」と評価する。
 16年度から事業に参加した森建設の森栄社長は「建設業の経験がある求職者は少なかったが、興味をもって話を聞いてもらえてよかった。特に女性が目立っていた」と話す。同社では若年者の人材不足によりおととしごろから積極的に採用活動に取り組んでいる。「女性でも適性があれば、現場に配置したい」と女性技術者の活用にも意欲的だ。

◆建設業界知らない層をターゲットに
 座談会に参加したのは区内での就職を希望する20代-30代の男女14人。卸売業の勤務経験のある女性は「建設業は3Kだからと敬遠されがちだが、特にそういった印象はなく、座談会などを通して具体的なイメージが湧いてきた。面接を受けてみたい企業もある」と前向きだ。美術系の大学に通う男性からは「周りに建設業に勤めている知り合いが一切おらず、内容を知りたくて参加した。聞いてみると、奥の深い業種だと感じたし、就職する際の候補として考えたい」との声もあった。

特設ウェブサイトを開設し、広く人材を募集する

 事業を支援するパソナ(東京都千代田区)の黒木啓博プロジェクト長は「住所などで制限せず、40代までの幅広い人材をマッチングさせていきたい」と話す。求職者を募集するに当たって、競争倍率の高い工業高校の生徒よりむしろ、普通科の高校生や大学生など、建設業界を知らない層をターゲットにする。「参加している建設企業は丁寧な研修をしている会社が多く、現代の若者の就職先としてはマッチしている」と分析する。
 7月21、26、27日、8月2、3日の計5日間には、夏休みに入った高校生も対象に都内での現場見学と体験会も予定している。川村課長は「他産業と合同で就職説明会をしても、建設業にはなかなか人が集まりにくかった。若い人が食わず嫌いにならないように、現場を知って仕事を体験してもらえるようにしたい」と、事業への期待を語る。
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