2012/01/12

連載・コンピューティショナル・デザイン-4-

今回から2回にわたって、英国設計事務所Foster+Partnersの横松宗彦さんに、パラメトリック・デザインの考え方についての寄稿を掲載します。

・要素の幾何学的関係構築

Foster+Partners 横松宗彦さん
 パラメトリック・デザインは、構成要素同士の幾何学的関係を構築することによって全体を統合する設計手法だ。ソフトウエアの中では、点から線、線から面、面から立体といったように、各オブジェクトの間にインプットとアウトプットのルールを設定することにより、最終形態がひとつながりのネットワークとして表記される。
 最終的な形態が定義された後でも、それぞれのオブジェクトにアクセスすることが可能で、あるオブジェクトを定義するパラメータを変更すると、そのオブジェクト以降に生み出されたすべてのオブジェクトが変更に応じて自動的に更新される。
 例えば、タワーの外形を、各階平面のアウトラインを縦方向につなぐことで定義した場合、階平面のアウトラインを変更すると、タワー全体の外形がそれに応じて変更される。これは、実務において、一定のルールに基づいた形態のバリエーションを検討したり、あるいは設計段階の修正を行うときに大きな力を発揮する。
 もう一つの大きな特徴は、リストとループ(繰り返し)という概念、手法だ。例えば、無数の三角形のガラスパネルからなる大屋根の割り付け、ガラスフレームを設計する場合を考える。まず、大屋根の元となる大きな曲面を三角形に細分化し、それらの三角形を一つのリストとして定義する。ここで、それぞれの三角形はすべて異なる形状をしていても、一つの三角形から三方のフレーム形状を導く共通の幾何学的ルールを記述し、リストに繰り返し適用することにより、それぞれ寸法の異なる個々のフレームを自動的に生成することができる。

・新しい建築のかたち
 実際、現在私が担当しているプロジェクトにおいても、7000枚以上のガラスパネルには一つとして同じ形状はない。もちろんこれはプロジェクトの予算、製造、施工技術に一定の水準を要求するが、CNC(コンピューター数値制御)を始めとした、コンピューターデータを直接扱うことのできる製造機械は建設分野でもすでに一般化してきている。
 コンピューターの進化を基盤とした設計、製造、施工過程の技術の発達は、設計の初期条件として扱うことのできるデータの量を飛躍的に拡大させ、建築形態にも大きな変化を及ぼす。
 設計条件としての日射を例に挙げると、これまで東西南北の4方向に単純化することによって決定していた開口部の配置や形状は、日の出から日の入り、季節に応じて刻々と変化する太陽の方角をインプットとすることで、多様でありながら、全体として一定のルールを内包したパターンあるいはグラデーションとして立ち現れるはずである。
 抽象化、単純化、規格化から解放された建物は、自然界に見られる有機物に似た、柔らかい形態へと変化していく。モダニズム建築が、新しい材料の大量生産という技術的背景を前提に成立し、世界中に浸透していったように、日々発達するコンピューター技術を前提としたパラメトリック・デザインは、さらに一般化し、大きな建築潮流となることが予感される。

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