本書が取り上げるのは、伊東豊雄建築設計事務所が手掛けてきた『多摩美術大学図書館(八王子キャンパス)』『座・高円寺』『台湾大学社会科学部棟』の3プロジェクトだ。設計初期から工事中、完成に至るまでの経緯を豊富なスケッチと模型で紹介し、そのデザイン、構造、施工を伊東氏を含む関係者が対談形式で振り返る。
その過程で明らかになるのは「調停者」としての伊東事務所の実力だ。住民やスタッフと協議を重ねながらプロジェクトを進める姿は理想的な設計プロセスであると同時に、思考やデザインの核を喪失する可能性を秘めた行為でもある。伊東事務所がこの課題を設立以来蓄積したノウハウで乗り越える様は、他の事務所には真似のできない芸当だろう。
本書の白眉はそうした「調停者」の限界を吐露するインタビューだ。東日本大震災以降、社会活動として「みんなの家」に携わった伊東氏はコンペに勝てなくなる。「住民サイド、利用者サイドの人たちの気持ちに、余りにも入り込み過ぎた」結果だった。しかし、新しい設計のあり方を実現するために「そこに踏み込んだ上で、そこから切り開いていかないといけない」と力強く語る姿には、「調停者」を超えようとする伊東氏の強い覚悟が垣間見える。
(ADAエディタトーキョー・2500円+税)
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
その過程で明らかになるのは「調停者」としての伊東事務所の実力だ。住民やスタッフと協議を重ねながらプロジェクトを進める姿は理想的な設計プロセスであると同時に、思考やデザインの核を喪失する可能性を秘めた行為でもある。伊東事務所がこの課題を設立以来蓄積したノウハウで乗り越える様は、他の事務所には真似のできない芸当だろう。
本書の白眉はそうした「調停者」の限界を吐露するインタビューだ。東日本大震災以降、社会活動として「みんなの家」に携わった伊東氏はコンペに勝てなくなる。「住民サイド、利用者サイドの人たちの気持ちに、余りにも入り込み過ぎた」結果だった。しかし、新しい設計のあり方を実現するために「そこに踏み込んだ上で、そこから切り開いていかないといけない」と力強く語る姿には、「調停者」を超えようとする伊東氏の強い覚悟が垣間見える。
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