工事費の高騰と技術者不足が深刻化する状況にあって、官民問わず建築工事におけるプロジェクト・マネジメント(PM)、コンストラクション・マネジメント(CM)の重要性は高まっている。こうした中、東京都足立区が初めて単独業務として採用し、PM業務を本格的に進めた加平小学校・本木小学校の建て替え事業が完了し、4月に開校を迎えた。実例から見えてきた公共建築工事においてPMに期待される役割、可能性について、同事業でPM会社を務めた山下ピー・エム・コンサルタンツ(山下PMC)と足立区の担当者に聞いた。
◆職員負担を軽減するために
「PM手法導入の背景には、技術系の職員不足があった」。そう語るのは、足立区学校施設課の新井清春係長だ。区には100校以上の小学校があり、その多くが昭和30年代から40年代にかけて整備された。1年当たり2校のペースで建て替え事業を進める必要があったため「設計者、施工者、発注者の間にプロジェクトマネジャーを入れることで職員の負担を減らす目的があった」と語る。
PM業務を受注した山下PMCは2010年からプロジェクトにかかわり、条件整理やマスタープラン立案、設計者選定、分離発注支援などを担当。今後の学校施設更新事業の標準仕様や機能、契約フォーマットなどをデータベース化した「ADACHI-MODEL」の作成にも携わった。
◆PM会社・行政間の強い信頼と連携が必要
本格的なPM業務の取り組みは同区として初めての試みであり、プロジェクトの進行にあたっては技術者との役割分担についての検討を重ねた。山下PMC事業創造部の村田達志部長は今回のPM業務について「工事段階においては、プロジェクト全体の進行管理をしっかりやってほしいというのが今回の事業でわれわれに任せられた役割だった。資材、労務の確保を施工者と丁寧に調整して工期内に納めたことが大きな成果だった」と振り返る。
「技術職員の代替として業務を丸投げし、急激なコストダウンを実現するようなものではなかった」というのは、発注者である区の率直な感想だ。地元対応や都との協議など技術職員でなければ対応できない課題も多く「行政側にプロジェクトマネジャーと協力する体制を構築する必要があった」(足立区・山中寛学校改築担当課長)からだ。初期から建て替え事業に携わってきた山下PMCの佐藤哲之プロジェクトマネージャーも「公共建築のPM業務においては、最終責任を公共が負う状況でどれだけ民間に任せられるかが重要になる。これは今後の発注者支援における課題と感じている」と指摘。公共工事にPM業務を導入する上で、PM会社・行政間の強い信頼と連携の重要性を強調する。
◆「区内業者の育成」というメリット
一方で、今回のCM業務には最先端の知見の導入による「区内業者の育成」という面で大きなメリットがあった。民間の建築工事で培われた新しい工法、素材、設備についての知見やノウハウを公共建築に生かすことで「地元の施工業者の技術力の育成に大きく貢献した。今後の成長につながった」と新井係長は評価する。佐藤プロジェクトマネージャーは「公共建築のPM業務においては地元の施工者が入った時に喜んでもらえる仕組み作りが重要になる。技術的に中立的な立場として、発注者にも設計者にも施工者にも役に立つことが重要」と語る。
足立区は技術系職員の採用を増加させているのに加え、建設費高騰により事業量が減少し今後、PM業務の必要性は少ないという。しかし「複数の事業を同時に動かす際や特殊な現場であれば、PM会社の裁量が増し仕事量と職員のバランスが崩れた際にはコスト削減の有効な手段になる」(山中課長)と活用の可能性について示唆言及した。山下PMCの村田部長も「足立区ではマネジメントや技術支援といった質的な補完を行ったが、技術者の少ない自治体であったり、技術者を抱えていても突発的に大きなプロジェクトが発生した際には技術者を量的に補完する方法もある」と語り、公共工事においてPM会社が活躍する余地は大きいと強調した。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)
◆職員負担を軽減するために
「PM手法導入の背景には、技術系の職員不足があった」。そう語るのは、足立区学校施設課の新井清春係長だ。区には100校以上の小学校があり、その多くが昭和30年代から40年代にかけて整備された。1年当たり2校のペースで建て替え事業を進める必要があったため「設計者、施工者、発注者の間にプロジェクトマネジャーを入れることで職員の負担を減らす目的があった」と語る。
PM業務を受注した山下PMCは2010年からプロジェクトにかかわり、条件整理やマスタープラン立案、設計者選定、分離発注支援などを担当。今後の学校施設更新事業の標準仕様や機能、契約フォーマットなどをデータベース化した「ADACHI-MODEL」の作成にも携わった。
今後の学校施設更新事業の標準仕様や機能、契約フォーマットなどのデータベース「ADACHI-MODEL」 |
◆PM会社・行政間の強い信頼と連携が必要
本格的なPM業務の取り組みは同区として初めての試みであり、プロジェクトの進行にあたっては技術者との役割分担についての検討を重ねた。山下PMC事業創造部の村田達志部長は今回のPM業務について「工事段階においては、プロジェクト全体の進行管理をしっかりやってほしいというのが今回の事業でわれわれに任せられた役割だった。資材、労務の確保を施工者と丁寧に調整して工期内に納めたことが大きな成果だった」と振り返る。
「技術職員の代替として業務を丸投げし、急激なコストダウンを実現するようなものではなかった」というのは、発注者である区の率直な感想だ。地元対応や都との協議など技術職員でなければ対応できない課題も多く「行政側にプロジェクトマネジャーと協力する体制を構築する必要があった」(足立区・山中寛学校改築担当課長)からだ。初期から建て替え事業に携わってきた山下PMCの佐藤哲之プロジェクトマネージャーも「公共建築のPM業務においては、最終責任を公共が負う状況でどれだけ民間に任せられるかが重要になる。これは今後の発注者支援における課題と感じている」と指摘。公共工事にPM業務を導入する上で、PM会社・行政間の強い信頼と連携の重要性を強調する。
◆「区内業者の育成」というメリット
一方で、今回のCM業務には最先端の知見の導入による「区内業者の育成」という面で大きなメリットがあった。民間の建築工事で培われた新しい工法、素材、設備についての知見やノウハウを公共建築に生かすことで「地元の施工業者の技術力の育成に大きく貢献した。今後の成長につながった」と新井係長は評価する。佐藤プロジェクトマネージャーは「公共建築のPM業務においては地元の施工者が入った時に喜んでもらえる仕組み作りが重要になる。技術的に中立的な立場として、発注者にも設計者にも施工者にも役に立つことが重要」と語る。
足立区は技術系職員の採用を増加させているのに加え、建設費高騰により事業量が減少し今後、PM業務の必要性は少ないという。しかし「複数の事業を同時に動かす際や特殊な現場であれば、PM会社の裁量が増し仕事量と職員のバランスが崩れた際にはコスト削減の有効な手段になる」(山中課長)と活用の可能性について示唆言及した。山下PMCの村田部長も「足立区ではマネジメントや技術支援といった質的な補完を行ったが、技術者の少ない自治体であったり、技術者を抱えていても突発的に大きなプロジェクトが発生した際には技術者を量的に補完する方法もある」と語り、公共工事においてPM会社が活躍する余地は大きいと強調した。
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