岩手県三陸沿岸の複雑な海岸線を縫うように走る三陸鉄道は、発災から10カ月を経た今も路線の約3分の2が不通区間だ。その1日も早い全線運行再開は被災地域の生活を支え、産業振興や地域活性化に直結する。復旧工事は第三セクターの三陸鉄道(岩手県宮古市、望月正彦社長)から要請を受け、鉄道建設・運輸施設整備支援機構が全面的に支援する。その最前線基地である三陸鉄道復興鉄道建設所の進藤良則所長は「復旧工事を精力的に実施することが、三陸地方全体の復興への弾みとなる」と語る。
鉄道・運輸機構は、震災直後から現地入りし被災調査や復旧工法などを指導した。2011年11月1日には同鉄道の北・南リアス線復旧工事の施行協定を締結し、同3日から復旧工事に着手している。
岩手県久慈市の市役所分庁舎内に鉄道建設本部東京支社の三陸鉄道復興鉄道建設所を設置したのは同24日。当初は進藤所長を含め6人体制でスタートし、今月1日に1人増員した。今後も工事の進捗状況に応じて適切な執行体制を整えていくという。
津波で流出した盛土や線路、通信ケーブル、駅や橋梁などの復旧工事の発注は東京支社が担当し、建設所は工事監督と、工事にかかわる関係機関との協議などを担う。土木構造物の設計は三陸鉄道で担当している。
工事は3段階で進める。まず4月末までに北リアス線・陸中野田~田野畑駅間24・3㌔の運行を再開させ、既供用区間を含め久慈~田野畑駅間35・4㌔をつなげる。南リアス線の盛~吉浜駅間21・6㌔は13年4月に運行を再開。第3段階として北リアス線の小本~田野畑駅間10・5㌔と南リアス線の吉浜~釜石駅間14・9㌔を復旧し、14年4月には北リアス線71・0㌔と南リアス線36・5㌔の全線で運行を再開させる。
被災区間は主に明かり部でトンネルは被害がほとんどないためルートの変更はない。盛り土区間は法面をコンクリートで補強する。橋梁は桁が橋脚と剛結していない単純桁が流出したことを考慮し、支承のないラーメン橋にする予定だ。
また、津波による横圧力や揚圧力を低減するために、桁高を低く抑えた構造にすることも検討している。流出した橋梁は3カ所で、うち1カ所を盛り土構造に変更し、2カ所を再構築する。
現在は、陸中野田~野田玉川駅間の復旧工事を急ピッチで進めている。進藤所長は「復旧完了時期が決まっていることから、工期は非常に厳しい状況にある。特に沿岸部のため冬季は強風の日が多く、天候に左右されることも配慮しなければならない」と課題を挙げ、これを克服するために「工種ごとの工程を少しでも短縮できるように施工方法の効率化に取り組んでいる」と語る。
具体的には強度の発現が早いコンクリートを採用するほか、打設のサイクルを増やす工夫などで対応している。施工会社に対しては「作業員が不足する中、工事の進捗率を伸ばす努力をしていただいている」と謝意を示しつつ、「厳しい状況は十分承知しているが、1日も早い全線での運行再開を果たすため、さらなる工期短縮に力を注ぐことをお願いしたい」とも。
「沿線住民の生活の足であり、地域活性化の役割を担う三陸鉄道を1日も早く復旧し、住民や観光などで訪れる人たちに末永く愛される鉄道として復活できるように努力したい」--こうした鉄道技術者の熱い思いが復興現場を支えている。