2016/06/07

【建築】四国霊場70番札所・本山寺五重塔の大修理 世界トップクラスが集結、次の100年に伝承


 四国霊場70番札所の本山寺(香川県三豊市)の五重塔で、平成大修理が進められている。四国霊場に4基しかない五重塔のうちの1つであり、明治期に建立された五重塔として、建築的・文化的に価値の高い木造建築物として知られている。建築界から世界でもトップクラスともいえるメンバーが集結し、整備委員会を構成、調査と議論を重ねがら大規模な解体・保存修理を進め、その価値を次の100年に伝えようと奮闘している。

 4日には檀家や学生を対象とした内覧会、5日には一般市民向けの見学会が整備委員会主催で、それぞれ開かれ、合わせて900人が参加、関係者に熱心に質問していた。
 内覧会の終了後、整備委員会委員長の建築家・多田善昭氏と、顧問を務める岡田恒男氏(日本建築防災協会理事長・東大名誉教授)が日刊建設通信新聞社のインタビューに応じ、平成大修理の意義や想いを語った。

整備委員会委員長の建築家・多田善昭氏

 多田氏は「解体し、調査を進めると、江戸時代から伝わる技術と明治期の技術が融合された建築物であることが分かった」とし、「文化的・建築的な価値を損なわずに、伝統的な在来構法の延長上で、保存修理・耐震改修に取り組む」と平成大修理の方針を示す。岡田氏は「中学・高校時代を本山寺の近くで過ごした。思いが詰まっている五重塔の大修理にかかわることができ、感慨深い。世界クラスのメンバーによる五重塔の修理の先進的事例としたい」と語る。
 調査では、中央で上から吊られた心柱の底に経石が詰まった「重量箱」が取り付けられていることが分かった。「古文書を調べると、心柱は高野山のマキが使われていることが推測される。調査は学術的、宗教的にも貴重なものだ」(多田氏)。岡田氏は「心柱におもり(重量箱)を付けていることは、他で例はないと思う。本来の相輪を留める役割だけでなく、耐震性を高める意図もあったと想像される」とし、「調査の結果、耐震性の効果はほとんどない。重量箱を重くすることなど、今後の補強方法を検討したい」という。

顧問の岡田恒男氏(日本建築防災協会理事長・東大名誉教授)

 五重塔は、1910(明治43年)に完成し、三豊市の有形文化財に指定された。江戸期の塔婆建築と明治期の建築技術を組み合わせた貴重な寺院建築となっている。大修理に伴う調査で、文化的建築的にも貴重な発見が続いている。大修理は2018年内に終える予定だ。
 整備委員会には、多田氏のほか、太田勤氏(堀江建築工学研究所取締役所長)、秋元孝之氏(芝浦工大教授)、楠浩一氏(東大地震研究所准教授)、後藤治氏(工学院大学教授・元文化庁文化財調査官)、藤田香織氏(東大大学院准教授)、山田憲明氏(山田憲明構造設計事務所社長)が参加している。顧問は岡田氏のほか、坂本功氏(東大名誉教授)、清水真一氏(徳島文理大教授・元文化庁文化財調査官)が務めている。
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