「折り紙」を応用することで、構造的な固さと折り畳みや展開する柔らかさを両立した新しい構造物が誕生した。折り目を持つ立体構造を組み合わせることで、折り紙を応用した従来の構造物より100倍の強度を発揮できるという。開発した東大大学院の舘知宏助教は「これまでの折り紙構造物は折り畳む柔軟性と構造物としての強さを異なる研究領域として取り扱ってきた。今回の研究は両分野を車輪の両輪としてつなぐものになるだろう」と語る。
「モノのつくり方が変わる時代には新しいイノベーションが生まれる。ベースとなるアイデアは完成したため、建築とのコラボレーションを含め具体的な応用方法を探りたい。日本から世界に面白いモノを提案していきたいと思う」と舘助教は今後への期待を語る。
折り紙を利用した構造体 |
折り紙を利用した構造物は以前から研究が進んできたが、そのいずれも展開時に構造的な固さが得られないという制限があった。強度を増すには厚みのある剛性パネルと蝶番の利用が不可欠だが、それにより構造物全体の重量が増えてしまうため、建物に大きな荷重がかかる可動式屋根や建築には活用できなかった。構造物全体の体積も増加するため、折り紙構造物の特性であるコンパクトな収納もできない状態だった。
舘助教が米国イリノイ大学アーバナシャンペーン校工学部大学院生のエフゲニ・フィリポフ氏、ジョージア工科大学のグラウシオ・ポーリー教授と共同で開発した構造物「ジッパーカップルドチューブ」が剛性と柔軟性を両立させるかぎとなったのは「ミウラ折り」と呼ばれる折り紙の手法だ。
紙を小さく折り畳んで持ち運んで必要に応じて展開できることから、これまでにも地図や宇宙衛星の太陽光パネルに活用されている。今回は、そのミウラ折りを筒状に組み合わせることで構造的な固さと展開の柔らかさを実現した。
従来の折り紙を応用した筒型構造と比較して展開と収納に必要な力はほぼ変わらない。一方で、意図しない変形に対する剛性は大幅に向上した。薄く容易に曲がるシートで構築しても、展開時には従来のおよそ100倍の固さを持つ。端部に力を加えて駆動すると全体形状がいっせいに変形する特性を持ち、展開時に生じていたパネルの歪みや曲げ変形を最小限に抑える構造体になっている。
柔軟性と固さを両立した |
規模の大小を問わず、この特性を持つため、巨大な宇宙構造物からマイクロスケールで収縮・膨張して固さを自在にコントロールする材料などにも応用できるという。折り紙の分野におけるまさに「革命的な構造」だ。
以前から折り紙の幾何やアルゴリズムを取り扱う「コンピュテーショナル・オリガミ」の研究に携わってきた舘助教は、「面の歪みや破壊の起こらない組み合わせを検討していくうちに最初のアイデアをすぐに思いついた」と振り返る。アイデアが決まってからは新しい折り紙構造物の性質を固有値解析によって明らかにする作業を行った。
「設計図と素材が同じひとつになっている」というのが折り紙の大きな特徴だ。
「面」と「折り」という基礎的な要素の組み合わせだけで構造物を完成できるため、施工に必要な道具や手間も少ない。このため、可動式屋根や建築だけでなく、ロケットの限られたスペースで宇宙に運搬しなければならない航空宇宙分野の展開構造物への応用のほか、自然災害の被災地における仮設建築物への応用も想定している。全体に均一な力を掛けられるため、精密な動きが求められるロボットの稼働方法にも活用できる可能性があると話す。「折り紙は複数の研究分野を横断できる考え方だ。近年注目を集める3Dプリンターやデジタルファブリケーションとの相性も良く、可能性は広がっている」という。
「これまでのものづくりはパーツを組み合わせるという考え方だった。今回の開発により、『折る』というパーツ同士の組み合わせにとどまらない新しいものづくりの姿を示せたのではないか。今後は積極的に実用化の可能性を探りたい」と力を込める。
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