2014/10/09

【新国立競技場】槇、内藤、青井氏らが参加した建築学会シンポが開かれる

日本建築学会は1日、シンポジウム「新国立競技場の議論から東京を考える」を東京都港区の建築会館で開いた。多角的な視点から議論を展開するため、建築家の槇文彦氏と内藤廣氏、建築史家の青井哲人氏、建築家でインテリアデザイナーの浅子佳英氏ら、新国立競技場への立場を異にする識者が登壇し、これまでに提起された新国立競技場が抱える問題を議論した。
 槇氏はプログラムの内容、建設・修繕コスト、機能性などの点からザハ・ハディド案の抱える問題点を分析した。「(計画当初の)プログラムがひどいと設計者にツケがまわる。コストの採算が取れないだけでなく、複合化したことでどんな用途にも使いづらい建築になった」とし、「事前にこの地域にふさわしい建築を議論をする必要があった」と振り返った。技術的に困難な新国立競技場の建設に向けた国内の設計事務所の姿勢にも言及し、「ゼネコンの技術提案に頼ろうとする意識があるのではないか」と苦言を呈した。
 コンペで審査員を務めた内藤氏は情報公開の方法、国際コンペの参加資格などの問題点を指摘し、客観的なデータに基づく公平な議論の必要性を強調した。ただ、「設計の密度や質を高めるには時間が必要であり、議論の時間は限られている」とし、「巨大な二流の建物はいらない。建設を中止しないのならば、設計に時間をかけることで世界に誇れる競技場を建設するべき」と述べた。
 挑戦的で技術的にも困難な建築を残り少ない時間で実現するのは至難の技であり、今後、何らかの具体的な対応を取るのであれば、早急に建築界としての意見を一本化して行動する必要があるとの考えも示した。
 浅子氏は、「建築家がコンペ案への反対運動を続けている状況に違和感がある」と語り、建築家によってコンペ案が批判される状況そのものへの批判を展開した。具体的には、「コンペで選んだ建築を同業者である建築家が反対運動をするということは、未来のコンペを実施すること自体を困難にするのではないか」とした。

国家プロジェクトがテーマとあって多くの聴講者が詰め掛けた
青井氏はコンペの歴史の観点から意思決定のあり方について発言した。「そもそも施設を整備しようとする政治的意思があり、それを実現するために有識者会議や基本設計がある。コンペで選ばれたザハ案への批判は筋違い」とし、「建築の責任とは限定的であり、建築家がすべてを決めることはできない。建築や建築家が担うべき責任を限定して話さなければ、単なる建築界の党派的な議論になる」と述べた。
 コメンテーターとして出席した建築評論家の五十嵐太郎氏は「デザインの問題に矮小(わいしょう)化するのではなく、建築のプログラムや意思決定のあり方にまで話しを広げる必要がある」とした。その上で「かつての東京五輪は国家がすべての計画を決定した。もし今回の五輪で市民を含めた議論を通じてプログラムを変えることができたならば、それは真の意味で戦後初となる民主主義の五輪になるだろう」と期待を語った。
建設通信新聞の見本紙をご希望の方はこちら

0 コメント :

コメントを投稿