今回訪ねたのは宮古盛岡道路の刈屋建設腹帯(はらたい)作業所。国土交通省東北地方整備局三陸国道事務所が実施している宮古盛岡横断道路の一部をつくっている。この現場は、復興支援道路であるととともに、地域建設業として情報化施工を全面的に導入・活用している。現場は、使命感にあふれ、復興の槌音が鳴り響いていた。
◆鞭牛以来、3回目の改築
現在、岩手県の権限代行で東北地方整備局三陸国道事務所が国道106号線の改築を行っている。
標高750mある区界の峠部分では5㎞の長大トンネルも計画されている。道路全体の7割がトンネル構造となる。
この宮古盛岡横断道路の整備により、長さ100㎞、車で2時間ほどかかる道のりを90分で結ぶ。東日本大震災では、県の緊急支援物資物流拠点であった岩手県滝沢市から、宮古市へ人や物資を届けるために106号線が活躍した。このとき果たした役割が大きく、宮古盛岡横断道路を復興支援道路として整備することになった。
この道路は、1710年に新里村で生まれた牧庵鞭牛(ぼくあんべんぎゅう)という僧侶が開削した。昭和40年代になって、国の事業として全線を2車線化したのが第2世代。そして今回の改築事業で第3世代として生まれ変わろうとしている。
◆チャレンジ業者1号
現場は、刈屋建設(本社・宮古市、向井田岳社長)が建設している「腹帯地区道路改良工事」で、GNSS(衛生測位システム)マシンコントロール(MC)ブルドーザー、GNSSマシンガイダンス(MG)バックホウ、TS(トータル・ステーション)によるMGバックホウ、タイヤローラーの転圧管理システムを導入している。
刈屋建設のオペレーターが直接バックホウやブルドーザーを運転する。これまで情報化施工の経験はなかったが、日本建設機械施工協会(JCMA)本部の「情報化施工委員会復興支援ワーキンググループ(WG)」が、導入を全面的にバックアップする「チャレンジ業者」となった。
WGメンバーは、重機、測器、レンタル、システムなどの民間会社が有志で組織し、チャレンジ業者には、WGメンバーがデータ作成から重機への機器取り付け、運用支援まで無償でサポートする。刈屋建設はその第1号となった。
◆自らの意志で導入
刈屋建設の向井田岳社長は、岩手県建設業協会の副会長であると同時に、広報IT委員会の委員長でもあり、筆者とは何度かお会いした仲で、本当の「建設人」である。
委員会では、情報化施工の勉強会も行われていて、「自分で実際に使ってみて、情報化施工がどういうものか、皆に知らせようと思った」のだという。
岩手県内でCクラスの県内業者が情報化施工に大規模に取り組むのは初めてだ。
社長が自らの意志で、情報化施工に取り組むという姿勢は特筆に値するものである。
向井田社長は今回の導入について、「会社規模に比べて導入には金額的な負担も大きいが、JCMAの復興支援WGに、技術指導を含めて丁寧に対応してもらった」という。
JCMAでは、復興地域の地元建設会社に情報化施工を役立ててほしいと、「チャレンジ業者」の募集を始めていたが、盛岡で開いたセミナーのアンケートに、前向きな回答を寄せてくれた刈屋建設に直接アプローチし、今回のチャレンジ業者第1号の決定に至ったという。
JCMAでは1年半ほど前から、30回を超えるワーキングを開催したり、昨年5月には宮城県岩沼市で大規模な地元向けセミナーを開くなど、東北地域での利用拡大に向けた取り組みを進めていた。
相良幸雄WG長は「刈屋建設は、もともと情報化施工への取り組みも進めていて、理解があったうえに、こちらの意図と合致した。申し分ないマッチングだった」と話す。また、鈴木勇治情報化施工技術委員長も幾度となく現場に通い、刈屋建設へのアドバイスを続けている。
◆現場管理の時間減る
刈屋建設の杉枝武雄作業所長は、「情報化施工への興味は以前からあり、いろいろな講習会にも赴いた。チャレンジ業者の話は盛岡のセミナーで聞いたが、すべてが無償というわけでなく費用の面で心配もあった。その後、社長からJCMAの話が来た。設計データ作成の手間や段取り、金銭に見合う効果などもあるが、今後使えるものかどうかを見極めてほしいという社長の言葉でチャレンジを決めた」と話す。
実際に工事に入ってからは、復興支援WGのサポートもあり、「現場管理の頻度が減ったことにまず驚いた」。しかし最初はやはり心配があり、丁張りを今までどおり設置した。しばらくすると次第に丁張りが必要なくなってきた。現場管理にかける時間が減ってきて、ほかのことに没頭できるのが大きな効果として現れた。
◆120%使いこなす
今回話を聞いたオペレーターは、ブルの岩間清貴さん、バックホウの山口勝義さん、転圧の中村雅和さん。岩間さんは、「初めは意味がわからなかったが、運転してようやく意味がわかってきて2倍、3倍の効率が得られている」と感じている。
杉枝所長は「ブルの仕事量が上がったが、それに見合う土運搬の体制が間に合わないこと」にも驚いた。
ベテランの岩間さんの語る「いかに自分が楽をして早く終わらせるかを考える。そのために情報化施工を120%使いこなすという考え方が重要」という言葉には大きく共感した。
現在、ベテランとビギナーの差を検証しているが、ビギナーは機械に使われがちだが、ベテランは、マシンコントロールを常に使うわけでなく、仕上げなどの精度の段階で使っている。
30代の新人オペレーターである中村さんは、情報化機器のパソコンや転圧管理システムの操作にはすぐに慣れたようだ。
初めて情報化施工を導入する場合にハードルと思われがちな設計データの作成については、「新設の場合、平面線形に縦断図を入力すれば、横断図から展開できる。横断図がしっかりしていれば、それほど手間でなくデータ作成はできる」(杉枝所長)。
現場の皆さんは、情報化施工の本質を十分に理解し、新たなチャレンジに目を輝かせていたのが印象的であった。
◆ひとこと・本当によい仕事
この現場では、向井田社長はもとより働くオペレーターの方々に至る刈屋建設の皆さん、JCMAの方々のひたむきな姿勢に熱いものを感じた。「現場は働く人が大事。人が機械を使いこなす」のは当たり前ではあるが、これこそが建設の原点であると再認識した。施工者が施工図を描き、現場でさまざまな工夫を重ねている。取材当日には、東北地方整備局から鹿野安彦施工企画課長と、戸嶋守三陸国道事務所副所長ら数名の方が出向いて説明してくれた。
皆さんの姿勢に改めて敬意を表したい。今後は情報化施工をさらに進化させ、工事中のさまざまなデータを管理者、発注者とも共有する時代がすぐそこまで来ている。
さらに建設業界の担い手という面でも「良い会社だから入社すべき」という考え方は重要だ。情報化施工を先んじて導入するような気概を持つ会社に、若い世代が希望を抱きそれに続く。こうした輪廻が業界の発展にもつながる、と確信している。
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◆鞭牛以来、3回目の改築
現在、岩手県の権限代行で東北地方整備局三陸国道事務所が国道106号線の改築を行っている。
標高750mある区界の峠部分では5㎞の長大トンネルも計画されている。道路全体の7割がトンネル構造となる。
この宮古盛岡横断道路の整備により、長さ100㎞、車で2時間ほどかかる道のりを90分で結ぶ。東日本大震災では、県の緊急支援物資物流拠点であった岩手県滝沢市から、宮古市へ人や物資を届けるために106号線が活躍した。このとき果たした役割が大きく、宮古盛岡横断道路を復興支援道路として整備することになった。
この道路は、1710年に新里村で生まれた牧庵鞭牛(ぼくあんべんぎゅう)という僧侶が開削した。昭和40年代になって、国の事業として全線を2車線化したのが第2世代。そして今回の改築事業で第3世代として生まれ変わろうとしている。
◆チャレンジ業者1号
現場は、刈屋建設(本社・宮古市、向井田岳社長)が建設している「腹帯地区道路改良工事」で、GNSS(衛生測位システム)マシンコントロール(MC)ブルドーザー、GNSSマシンガイダンス(MG)バックホウ、TS(トータル・ステーション)によるMGバックホウ、タイヤローラーの転圧管理システムを導入している。
向井田社長 |
WGメンバーは、重機、測器、レンタル、システムなどの民間会社が有志で組織し、チャレンジ業者には、WGメンバーがデータ作成から重機への機器取り付け、運用支援まで無償でサポートする。刈屋建設はその第1号となった。
◆自らの意志で導入
刈屋建設の向井田岳社長は、岩手県建設業協会の副会長であると同時に、広報IT委員会の委員長でもあり、筆者とは何度かお会いした仲で、本当の「建設人」である。
委員会では、情報化施工の勉強会も行われていて、「自分で実際に使ってみて、情報化施工がどういうものか、皆に知らせようと思った」のだという。
岩手県内でCクラスの県内業者が情報化施工に大規模に取り組むのは初めてだ。
社長が自らの意志で、情報化施工に取り組むという姿勢は特筆に値するものである。
向井田社長は今回の導入について、「会社規模に比べて導入には金額的な負担も大きいが、JCMAの復興支援WGに、技術指導を含めて丁寧に対応してもらった」という。
JCMAでは、復興地域の地元建設会社に情報化施工を役立ててほしいと、「チャレンジ業者」の募集を始めていたが、盛岡で開いたセミナーのアンケートに、前向きな回答を寄せてくれた刈屋建設に直接アプローチし、今回のチャレンジ業者第1号の決定に至ったという。
3DMGを搭載したバックホウ |
相良幸雄WG長は「刈屋建設は、もともと情報化施工への取り組みも進めていて、理解があったうえに、こちらの意図と合致した。申し分ないマッチングだった」と話す。また、鈴木勇治情報化施工技術委員長も幾度となく現場に通い、刈屋建設へのアドバイスを続けている。
◆現場管理の時間減る
刈屋建設の杉枝武雄作業所長は、「情報化施工への興味は以前からあり、いろいろな講習会にも赴いた。チャレンジ業者の話は盛岡のセミナーで聞いたが、すべてが無償というわけでなく費用の面で心配もあった。その後、社長からJCMAの話が来た。設計データ作成の手間や段取り、金銭に見合う効果などもあるが、今後使えるものかどうかを見極めてほしいという社長の言葉でチャレンジを決めた」と話す。
杉枝所長 |
◆120%使いこなす
今回話を聞いたオペレーターは、ブルの岩間清貴さん、バックホウの山口勝義さん、転圧の中村雅和さん。岩間さんは、「初めは意味がわからなかったが、運転してようやく意味がわかってきて2倍、3倍の効率が得られている」と感じている。
杉枝所長は「ブルの仕事量が上がったが、それに見合う土運搬の体制が間に合わないこと」にも驚いた。
岩間さん |
山口さん |
中村さん |
初めて情報化施工を導入する場合にハードルと思われがちな設計データの作成については、「新設の場合、平面線形に縦断図を入力すれば、横断図から展開できる。横断図がしっかりしていれば、それほど手間でなくデータ作成はできる」(杉枝所長)。
東北整備局の鹿野課長(左端)と取材に応える現場の皆さん |
◆ひとこと・本当によい仕事
この現場では、向井田社長はもとより働くオペレーターの方々に至る刈屋建設の皆さん、JCMAの方々のひたむきな姿勢に熱いものを感じた。「現場は働く人が大事。人が機械を使いこなす」のは当たり前ではあるが、これこそが建設の原点であると再認識した。施工者が施工図を描き、現場でさまざまな工夫を重ねている。取材当日には、東北地方整備局から鹿野安彦施工企画課長と、戸嶋守三陸国道事務所副所長ら数名の方が出向いて説明してくれた。
相良WG長(左から2番目)らと筆者ら |
さらに建設業界の担い手という面でも「良い会社だから入社すべき」という考え方は重要だ。情報化施工を先んじて導入するような気概を持つ会社に、若い世代が希望を抱きそれに続く。こうした輪廻が業界の発展にもつながる、と確信している。
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