2016/06/03

【記者座談会】建設産業界の今と今後 担い手の確保・育成と生産性向上と市場動向


A 今回は、本紙の1日からの紙面刷新と密接不可分な関係にある、建設産業界の今と今後を議論したい。
B 今の話題と言えば、やはり人口減少と高齢化に伴う産業間の人材確保競争に建設産業界がどう勝つかという担い手の確保・育成と生産性向上だ。個別企業にとっては建設市場の動向が最大関心事だろう。

C 目先の話だけど、地方の支社・支局に在籍する記者から見ると、地方業界は参院選挙後、具体的には今秋以降の補正予算規模と中身の財政出動額が強い関心事になっている。景気の浮揚・維持と腰折れ回避のために政府が号令をかけた、公共事業前倒し発注方針によって、国と地方自治体は一斉に発注を加速させている。だから秋には公共事業発注のための資金が枯渇するという見立てが背景にある。
B 「地域間格差はあっても、農業土木も過去の水準まで回復、公共事業は順調に発注されている」と今を評価する業界関係者が多いのも事実だ。
D 目先の市場が前倒し発注方針によって地方経済にも好影響を与えていることは否定しない。でも地方建設業や全国企業を含め、建設産業はもっと大きなうねりにさらされていることに関心を寄せるべきだと思う。
A 具体的には。
D 地方業界にとっては、経営者の後継者がいない事業承継の問題だ。また全国企業を含めた建設産業全体の課題では、維持管理までのトータルの施設提案を求める発注者側の意識変化がある。さらに技術革新の後押しもあって建設産業界が取り組み始めた生産性向上は、今後の展開次第では設計・コンサルタント、ゼネコン、設備、専門工事業、メーカーという業種・工種の役割と生産システムの中での位置付け、枠組みも劇的に変わる可能性がある。
E 支局記者としても同感だ。事業承継問題は古くて新しい課題だが、担当地域では地場ゼネコンだけでなく、設備でも合併が始まっている。合併は、後継者がいないことが理由だけど県という地域をも越えて現実化している。その場合、現行の経営事項審査で不利益になりかねない課題もあるが、国土交通省はこうした今のトレンドを理解しているから、合併時の経審見直し検討も今後の議論のテーブルに載せたのだと思う。
F 大規模な民間建築工事を手掛ける全国ゼネコンも、民間建築工事で外注する設備工事への対応に強い関心を寄せている。発注者の意識は、工場や商業施設など施設ごとの構想段階から、さまざまな技術を組み合わせ維持・運営・管理まで含めたトータル提案を求めていることが理由だ。その場合、設備は電気・管・空調といった従来の設備工事概念でなく建築物のシステムとしてとらえている。極論すると設備システムには電気工事は云々という過去の業種・工種別意識は存在しない。
G 生産性向上の一環として国交省が掲げるICT(情報通信技術)土工も同様だ。ドローンを使った測量を3次元データに取り込み、施工計画から施工管理を自動化し、建設機械も勘や技能に頼ることなく操作できる統合サービス提供が始まっている。生産性は向上するけど、施工計画を担う技術者育成から現場管理のノウハウまで統合サービス提供企業に集まり、建設業の役割は相対的に低下しかねない。
A 建設産業界は今、過去とは比較できないほどの地殻変動が起きつつある。だからこそ「すべては 建設産業のために」の基本方針に沿って、取材する記者自身が専門的かつ大局的な視野でニュースを提供していくということが、今回の紙面刷新であるということを肝に銘じて取材に当たってほしい。
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