山岳トンネルのNATM施工で掘削断面の支保部材として欠かせない吹付けコンクリート。その性能を十分に発揮する上で吹付け後のコンクリート凝結を早める「急結剤」の存在がある。国内ではリニア中央新幹線や整備新幹線など大規模な山岳トンネルプロジェクトが控えており、NATMの採用拡大に合わせ、急結剤の需要も上向きに転じる可能性がある。2013年に入り、国内メーカーの動きにも慌ただしさが出てきた。
◇国内系2社
国内メーカーは、電気化学工業と太平洋マテリアルの2社。ともに日本でNATMの導入が本格化した1970年代から販売を進めてきた。液体系の急結剤が主流となっている海外と異なり、日本の山岳工事は湧水対策もあり、急結性能が高い粉体が使われている。海外メーカーは液体系に特化していることから、国内市場では長きにわたり、両社がライバル関係で競い合ってきた。
08年9月から急結剤『ショットマスター』の製造・販売を中断していた太平洋マテリアルが事業の再開に踏み切ったのはことし1月。営業本部土木資材グループの早瀬和宏グループリーダーは「販売店を通して再開の声がゼネコンを中心に広がっていた。原料の価格も高値ながら落ち着いてきたこともあり、社として事業の再開にゴーサインが出た」と明かす。
中断した当時は、北京オリンピックの開催を背景に原油価格が高騰し、採算割れの製品供給はストップする苦渋の判断を下していた。再開初年度は関東地域に限定して販売し、供給量は最盛期の10分の1程度に抑える計画で「アイドリングしながら徐々にエリアを拡大し、リニアや整備新幹線の動向を踏まえ、16年度までには全国販売体制を整える」(早瀬氏)。
◇現在の需要は半減
急結剤『デンカナトミック』シリーズを提供する電気化学工業は、施工条件に合わせて使い分けられるように、製品ラインアップの拡充に努めてきた。吹付け時に粉じんの発生を抑えるシステムの開発にも力を入れ、粉じん濃度を1立方㍍当たり1mmグラムまで抑えた工法も開発した。
セメント・特混事業部特殊混和材部の辻(点がひとつ)均部長は「急結剤の国内市場はピーク時よりも半減している。リニアや整備新幹線の建設需要に期待は持てるが、全国的に見れば道路トンネルが減少していることで、市場全体ではそれほど大きくならない」と、冷静にマーケットの動向を分析している。
そもそも新幹線やリニアなど鉄道トンネルは道路トンネルと比べ、断面が小さく、吹付け量も落ちる。急結剤の混入量はセメント量の7%で、コンクリート1m3換算ではセメント使用量約360㎏に対し、急結剤約25㎏が目安になる。施工時にはコンクリートを噴射するまでの間に生コンと混ざり合うように、吹付けノズル先端から3-4mの部分から投入するのが一般的だ。
施工条件によっては、高強度の吹付けコンクリートだけでなく、吹付け後すぐに強度を確保できる瞬結性能を求められるケースもある。電気化学工業の場合、吹付け後10分で3.8ニュートンの強度を出せる製品も開発している。特殊混和材部の白山裕課長は「ゼネコンが軟弱地層対策の技術提案として採用するケースも増えている」と説明する。
◇市場拡大に期待
ゼネコン各社では大規模な山岳トンネルプロジェクトを視野に入れ、施工効率や品質向上を目的としたNATM関連の技術開発が相次いでいる。掘削断面の支保部材を担う吹付けコンクリート部分では、鹿島が2つのノズルで吹付け時間を半減するツインショット工法を開発するなどの動きも出てきた。
急結剤の年間供給量は日本全体で5万tに満たないとも言われている。両社では、復興道路や防災対策工事で「ここ1、2年は短期的だが、一時的に供給量が増える」との期待を持っている。ともに吹付け後に使われる2次覆工のひび割れ対策として膨張剤の販売も行っており、山岳トンネルの需要は混和剤全般の市場拡大に発展しそうだ。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年2月13日 12面
0 コメント :
コメントを投稿