東日本大震災の被災地に近い栃木県佐野市にある山田邸の改修工事の設計に当たり、ア・シード建築設計(埼玉県川口市)の並木秀浩代表は「建築における再生デザインの可能性を示すことで、壊れてしまった町に住み、明日に対して不安を抱く被災地の人たちの元気を取り戻したい」というメッセージを込めたという。築後100年を超え、土台が傾いた古民家の歴史性を継承し面影を残しながら「いま」を生きる形に再生し、住む人に新たなやりがいをもたらすことで、復興のイメージと重ね合わせた。
古民家はかつては米屋であり、通りに面して商店、奥に向かって住空間、米倉、木工作業所という町屋の構成になっていた。倉庫の土台は湿気により腐り崩れてしまっており、寝室から風呂場に行くには暗く寒い中庭を通らなければならず、住人には辛い環境になっていた。
再生に当たり、カギとなったのが米倉だった。天井に換気口を持つ米倉は、「保管する米を乾燥させるために、空気を吸い上げるよう工夫された先人の知恵であり、パッシブデザインの原点」だと直感。それまでの間取りを大胆に変更し、ダイニングキッチンなど主要な居住空間を倉に配置することで、自然換気を活用するパッシブソーラーを最大限に発揮することを可能にした。
倉に面する中庭は和風庭園とし、イタリアンパセリなど観賞に堪え得る野菜を植えるとともに、トイレだった場所を庭先で休める東屋(あずまや)とするなど、自然と庭に出たくなるような楽しい仕掛けを施している。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)2013年2月6日 5面
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