2014/06/02

【インタビュー】道路老朽化に『最後の警告』 家田分科会長/徳山道路局長に聞く

家田道路分科会長(道路分科会道路メンテナンス技術小委員会 三木委員長が同席)より、太田大臣に対して提言が手交された
社会資本整備審議会道路分科会が発表した「道路の老朽化対策の本格実施に関する提言」は、インフラメンテナンスの重要性を改めて社会に広く伝え、既に待ったなしの状況にあることを『最後の警告』として強く訴えた。社整審では2002年以降、修繕への適切な投資を繰り返し求めてきた経緯がある。しかし、長らく吹き荒れた公共事業バッシングなどの結果、本来増やすべき維持管理予算は一律的に削減され、たび重なる警告に逆行した道を歩んできた。12年12月に発生した中央道笹子トンネル事故は、危機が危険に、危険が崩壊に発展しかねないレベルまで達していることを知らしめた。既に警鐘は鳴らされている。提言は「今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ」と強く迫る。われわれは、提言をどう受け止め、どう行動を起こすべきなのか。分科会長を務める家田仁東大大学院・政策研究大学院大学教授、実行の要となる国土交通省の徳山日出男道路局長に聞いた。

【インフラは「生き物」、国民の理解を/東大大学院・政策研究大学院大学教授/家田 仁氏】

「何となく体調は優れないが、日々の忙しさにかまけて結局、病院には行かずじまい。メンテナンスは大事だと分かりつつ、後回しにされてきた。健康診断をちゃんと受け、病気が見つかったら治療をし、場合によっては手術する」。提言はそんな“当たり前”を定着させることが狙いだ。
 直接的な発信先は、国や地方公共団体などの道路管理者だが、「最も伝えたいのは政治家や自治体の首長」だという。「まともで現代的な生活を続けるためには、インフラが健康でないといけない。意思決定権者は、世間的にウケのいいことばかりに予算を使っていてはだめだ」と諭す。
 市民らに望まれた結果として、インフラはこの世に生を受けた。「インフラは、いらなくなったら電源をオフにすればいいロボットペットではなく、生き物だ。生んだら育てるのが義務。豪華な食事はいらない。一汁一菜でいい。せめて、生きていけるだけの食事は与えてくれということだ」
 「国民やユーザーの理解と協力を得ることが最も肝要だ」と指摘し、「管理者は日々の生活がどんなインフラに支えられ、それらがいま、どういう状態にあるかを『見える化』し、どうすべきかを問うているか。市民が関心を持たない要因は、それが分かる資料を公開し、問題の所在を知ってもらおうという努力が足りないからだ」と力説する。
 国に対しては「地方公共団体にどのように維持管理してもらうかを真剣に考え、まったく新しい体制や契約方式をつくり出してもらいたい」と要望する。
 ヒントは「空間的、時間的なまとまり」。点検・診断業務や修繕・更新工事の実施に当たり、「複数の市域をまとめれば効率はよくなり、人材も確保しやすくなる」
 さらに「ことしはA社に発注するが、来年はだれに出すか分からないというようでは、受注する側も少ない仕事量に魅力を感じず、技術開発にも資金を投入しない」との認識を示す。技術者を育成するためには「資格制度も根本から改めなければならない」
 直すエンジニアリングは教育現場でも、建設業の世界でも中心に置かれてないのが現状だが、「当然、脚光を浴びているところに予算や人材は集まる」。メンテナンス産業の成長に期待を込め、「民間こそが技術開発力を持っている。そこに大学や公共機関も加わり、メンテナンス分野の技術開発を最重要課題として、徹底的に取り組んでもらいたい」とメッセージを送る。
 「メンテナンスをやったことのない人は、そんな仕事は面白くないと思うかもしれない。しかし、そうではない。巨大で象徴的なもの以外にも、多様な面白さがあるはずだ」。自身が若いころに手掛けていた新幹線の線路保守現場を振り返り、「自分がメンテナンスした線路の上を毎日、何百本もの新幹線が走っていく。ものすごい緊張感の中に、確かな面白さがあった」と目を細める。

【リスク取り、メンテ産業の開拓者に/国土交通省道路局長/徳山 日出男氏】

「抜き身の真剣を突きつけられたような感じだ」。厳しく、熱い言葉にあふれた提言をこう受け止め、「『最後』ではあるが、いまならまだ間に合う」と背水の陣で今後の舵取りに臨む。
 国交省としては、これまでにも点検義務化への思いはあったが、特に市町村は予算的にも技術的にも遂行できる体制になく、突破口を開くには「支援の問題を同時に解決するしかない」。産学官の予算・人材・技術を投入した『道路メンテナンス総力戦』の全面展開が不可欠で、なかでも「建設業界には非常に大きな期待を寄せている」という。
 道路先進国の米国でも、実際に複数の落橋が起きて世論が初めて反応した。“笹子の警鐘”はあったものの、「そのような事態が発生する前に、ムーブメントを起こせないか」との思いは強い。「政治やメディア、経済界、そして国民への周知に努め、危機感を共有することが大切」と説く。
 「インフラの重要性は、東日本大震災による尊い犠牲があって見直され始めた。このようなことでは申し訳が立たない。老朽化の問題は、災害がなくても落橋などにつながる危険性をはらんでいる」
 7月には、法令に基づく橋梁とトンネルの定期点検の義務化がスタートする。国と地方公共団体の関係を国立病院と町医者に例え、「市町村には、すべて国に頼るのではなく自分でできる診断や治療はやってもらう。ただごとではない症状は国立病院で診る」と役割分担を明確にする。
 予算面については、「これまでは厳しい中で何とかやりくりしてきた。なかなか予防保全的な措置がとれず、痛み出した虫歯にしか手が回らなかった。一斉に痛み出すと対応できなくなる。15年度からは必要な予算を先取りする」と語る。
 財政健全化という政府全体の大方針のもと、公共事業費の大幅な増加は今後も期待できない。新設予算とのバランスが悩ましいが、「維持管理の所要額をしっかり確保しておかないと、トータルで高くつくことになる。メンテナンスをもっと優先する考え方に改める。この部分は義務的経費の色合いが濃く、本来裁量をしてはいけない」
 一連の流れは、メンテナンス産業という新たな市場を生み出し、建設産業界にとってもビジネスチャンスとなる。
 手間が掛かり、コストも合わないなどと敬遠されがちの分野だが、「産業界の話しを聞きながら、われわれも実態に即した発注・契約形態に直していく。追加工事の発生などを考慮し、生産としてとらえて支払えるようにしなければ」と考えを巡らせる。
 そして、「最初は企業側も手探りだろうが、今後は新設以上に大きく、安定的なマーケットになるはず。リスクはアボイド(避ける)ではなく、テイク(取る)するべきもの。ぜひ一歩を踏み出し、メンテナンス分野のパイオニアになっていただきたい」と積極的な参入を呼び掛ける。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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