2014/09/01

【防災の日(2)】リアルな防災教育でリスクを考える 慶応義塾大学准教授 大木聖子氏

慶應義塾大学で地球科学と防災を教えている同大の大木聖子准教授は、関東や東北、西日本などの全国の学校で安全担当の教員を対象にした地震の防災教育研修を展開している。大木氏の開発した防災教育は文部科学省で標準化されているが、実施校はまだ少ない。地震学者として知識を教えるのではなく、命を守る新しい地震学、防災学を目指して、揺れた瞬間にアクションを起こせるトレーニングとなるような、リアルな災害を想定した実践である。

 大木氏は、地震が発生したら机の下に隠れて、その後校庭に集合するというこれまで教育現場で行われてきた画一的な防災教育に異議申し立てする。
 「学校ではまず、地震が起きたという放送が入り、先生が机の下に入りなさいという指示をして、その後校庭に集まる。ここまで何分で完了したかだけを評価する。しかも訓練の日が雨だったら延期をする……。災害はどんな天候の時にでも起きるのに雨で延期にしていいのでしょうか。あるいは、強い揺れで校内が停電するかもしれないのに、放送で校庭に集合を伝える。さらに言うと、建物が構造的にしっかりしていて、火災が発生していなければ中にいる方が安全で、校庭に出る必要はない」
 手厳しい指摘だが、ちょっと考えればすべて当たり前のことで、逆になぜ抜本的な見直しがされてこなかったか不思議な思いにさせられる。
 「震度6や7では、自分の意思で行動できない。揺れた瞬間にどう行動するか、瞬時にどう判断するかというトレーニングが必要になる。的確なアクションを起こせるまでに持っていくのが本来の防災教育でしょう。それは校庭までの集合時間で計れるものではあり得ない」
 大木氏の防災教育は例えば、音楽の授業中に大地震が起きた場合にどうするかなど、リアルな状況を想定する。
 「音楽室で地震が起きたら、あるいは家庭科の調理実習中に地震が発生したらどうするか。そういう議論を本当の地震が起こる前に、少し時間をとってしっかりやろうということを伝えている。形骸化している避難訓練の時間をあてればいいだけです」
 訓練の具体的なやり方も指導する。
 「例えば、6グループに分かれて、そのうちの3グループは見学する。半分のグループがお互いに見ることで行為の良し悪しやリスクを比較することができる。自分たちのリスクをどう管理するべきかを実感できる。音楽室はいろいろな楽器を使って合奏している場面で実施する。そうすると、例えばピアノの下に入るのは安全かなどの議論が出てくる。調理実習では、具体的に何を料理しているかを想定してから実施するなど、現実の状況に即することが重要になる」
 地震学が専門なので、学校側から地震プレートの構造、津波の仕組みなどの教育を期待されることもある。しかし、それは最後に時間がある時に伝える程度にしている。
 「大地震が起きて何もしなければ、死ぬかもしれない。知識があったって死んでしまう。逃げようという姿勢を身につけなければならない。リスクは何か、しっかりと体で感じる。それを一通り終えてから、緊急地震速報はどういう仕組みで流れるかというようなリスク管理に直結するような知識を伝えることにしている」
 こうした防災教育を終えた後、先生の中には「目からウロコ」と言って、ぜひわが校でというところが出てくる一方、新しいことは難しいと反応が今ひとつのところに分かれる。
 「わたしのゼミの学生が講師として出向く学校もある。研究室の学生が地震への備えとか、避難所のあり方などの教育内容も考える。わたしがその教材を使ったこともある。前向きな学校や教育委員会はそうした学生たちを講師として積極的に受け入れてくれる傾向がある」
 大木氏は「地震災害は難病ではなく、生活習慣病である」と言う。
 「わたしがやっていることは、医者で言うと臨床医に近いのだと思う。地震による被害の多くは対策を取ることで軽減できる。直下型の地震では、家具を固定する、耐震性のある家に住む、たったそれだけで9割近くも被害が減るとも言われている。特殊な治療と希少な名医が必要なわけではない。生活習慣を改めるだけであなたと家族の命が助かることを知って、行動を起こしてほしい」
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

Related Posts:

  • 【大規模再開発】銀座、大手町でぞくぞく起工! 五輪もビジネスも「おもてなし」 銀座6丁目10地区再開発の完成パース。都市計画決定から2年半の短期間で着工を迎えた 東京都心で2日、2つの大規模再開発プロジェクトが本格始動した。銀座では「銀座六丁目10地区第一種市街地再開発事業」が都市計画決定からわずか2年半という短期間で着工を迎えた。2016年11月には銀座最大級となる商業施設が誕生する。  再開発のコーディネートを担当し、商業施設の計画と運営に参画する森ビルの辻慎吾社長は同日会見し、「施工から運営まで、世界に誇れる… Read More
  • 【ソースZEB】初のエネルギー収支ゼロ大規模建築 大林組 大林組技術研究所本館テクノステーション 大林組は、東京都清瀬市の技術研究所本館テクノステーションで、国内初となる本格的なソースZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)化工事を完了した=写真。これにより2014年度には、建物単独でエネルギー収支ゼロのソースZEBを達成する見込みだ。 ソースZEB化工事は、空調、給排水、照明機器の制御改善・高効率化、コージェネレーション排熱の有効利用、太陽光発電設備の追加導入で、3月に完了した。今後、省エネ化… Read More
  • 【舞台】笑いと感動の成長〈建設業〉物語!「その旅人は建設マン」 建設業で働く人々にスポットを当て、若者が夢と希望を持って働けるための情報発信をしている「建設マン.com」が発案し総合プロデュースする舞台「その旅人は建設マン」に、日本建設業連合会(中村満義会長)が協賛する。舞台を通じて、建設業の技術・仕事に対する理解を広げ、若者の入職・確保につなげたい考えだ。 舞台「その旅人は建設マン」は、建設マン.comのサイトでナビゲーターを務める柳野玲子さんが扮するCADオペレーターの女性が、山下翔央さんが扮する建… Read More
  • 【セカエレ】安全・安心を世界に届けたい! フジテックが羽田空港に大看板 フジテックは、国際線の発着回数がこれまでの6万回から1.5倍の9万回に増えた羽田空港(東京国際空港)に、「世界のエレベータ・エスカレータ」を略した同社の看板「セカ エレ」を掲出した。「エレベーター・エスカレーターは安全・安心に利用できてこその商品で、『世界中に安全・安心なエレベータ・エスカレータを届けたい』というメッセージを込めた」(同社)もので、同空港国際線ターミナルビル3階チェックインロビー(出発)に縦3m、横5mの看板がお目見えした。… Read More
  • 【デザイン女子】No.1に中間さん(名古屋造形大) 収納ノートカバー「Patan」 左から加茂審査委員長、最優秀賞の中間さん、竹谷学校長 大学や短大などで建築やインテリアなど空間に関するデザインを学んだ女子学生の卒業設計・制作を、全国から募集し、その年の「デザイン女子No.1」を決めるイベントが26、27の両日、名古屋市昭和区のサーウィンストンホテルで開かれた。エントリーされた94作品の中から、1次審査を通過した47作品を会場に展示。26日に行われた公開審査には約260人が出席した。最終8作品を対象にプレゼンテーションや… Read More

0 コメント :

コメントを投稿