構造設計と自然光シミュレーションを担当した「江の島湘南港ヨットハウス」 (設計・ヘルム+オンデザインパートナーズ、2014年4月竣工)写真提供:アラップ |
◆海外の橋渡し役に
アラップグループの日本拠点である同社が誕生したのは1989年5月。当時グループのダイレクターであったマイケル・シアーズ氏が各ボードメンバーに日本進出を要望したことが発足のきっかけとなった。「彼は日本には優れた技術がたくさんあり、アラップにとっては技術的優位性につながる。日本企業の海外進出の後押しもできるはずだと考えていた」(彦根代表)
◆レンゾ氏の関空ターミナル
設立時には、イタリア人建築家レンゾ・ピアノ氏が設計した関西国際空港旅客ターミナルビルの構造設計を手掛けるなど順調なスタートを切った。彦根氏が代表に就任したのは97年。建築家・北川原温氏が手掛けていた福島県産業交流館『ビッグパレットふくしま』が施工段階を迎えたことが記憶に残っているという。「でも当時はまだ東京都内での仕事は少なかった」
構造設計が活動の軸であった同社の業務領域に転機が訪れたのは99年。 都内のオフィスビルに移転を決めた外資系金融機関から設備設計業務を依頼されたことが、そのきっかけとなった。 香港拠点から英国人の設備設計者を移籍させ、そのプロジェクトに対応した。「これがトータルエンジニアリングへの分岐点となった」と振り返る。
構造設計と設備設計をプロポーザル時から担当した「富士山世界遺産センター(仮称)」 (設計・坂茂建築設計、2016年度開業予定)資料提供:坂茂建築設計 |
2002年にはファサードデザインとPPMの機能を追加、現在の所員数は70人までに拡大した。構造、設備、ファサード、 マネジメントの専門技術者だけで50人を超える総合エンジニアリング事務所へと転身を図った。「環境の視点から建築を考えることはとても大切であり、建築のカタチをオーナーに説明する際にも有効な手段になり得る。建築家から構造の仕事を依頼される中で、 設備にも声がかかるケースは着実に増えている。自然空調や採光計画といったように環境を軸に建築を考える時、構造や設備、 そしてファサードとの結びつきは強く、近年はより一体的な対応が求められている」
◆幅広いマネジメント
世界39カ国に90を超える拠点をもつアラップグループ。各拠点とも総合エンジニアリング機能をもつが、いずれも構造を足掛かりに領域拡大を図ってきた。日本拠点としての強みの1つに育ってきたPPM業務では「構造や設備の技術ノウハウがマネジメントの判断材料」になっている。大規模プロジェクトからオフィス移転、さらには全国展開する企業の店舗契約までの幅広い業務実績を誇るまでに成長した。
日本の建設産業界では、成長戦略として海外展開への期待が高まっている。彦根代表は「建設会社だけでなく、建築家の方々も日本の技術力やデザイン力の高さをもっと世界に発信すべき。われわれはそうした海外進出の橋渡し役としても貢献し、ともに歩んでいきたい。これはまさに日本事務所の発足を後押ししてくれたマイケルの思いでもある」と、日本拠点の次なる道筋をしっかりとイメージしている。
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