2014/09/20

【教育】PCが足りない、市販ソフトは高額…3次元CAD実習に課題山積

2013年度から、工業高校の学習指導要領に、3次元CAD実習の必修が加わった。7月24、25日の2日間にわたって開かれた、東日本建築教育研究会茨城大会の「製図分科会」では、必修化以降の教育現場からの実情が報告され、「いかに生徒に興味を持たせるか」といった教育上の創意工夫に加え、実習費に限度があり、フリーソフトを使わざるを得ないこと、生徒数に対してパソコンの台数が少なく、しかも、処理能力が低いため、印刷処理に時間がかかったり、時として動かなくなってしまう(フリーズ)があることが報告された。3次元CADの教育現場で何が起きているか。同研究会製図分科会の吉城守分科会主査(埼玉県立春日部工業高校建築科教諭)に聞いた。

 地方自治体の財政難は、教育現場の実習費にまで影響を与えている。ある工業高校建築科教諭によると「半分の30万円ほどにされてしまった。そのため、実習に使う材料は先生方が集めてこなければならなくなった」という。そうした事情から、全国管工事業協同組合連合会(全管連)では、工業高校設備科に対し、管工事施工管理技術検定受検用に材料を提供している。
 むろん、全管連には管工事施工管理技士になってもらうことで、管工事業界に興味を持ってもらい、入職を促進したいという思いがある。しかし問題は「将来を託したい若者に、十分な実習教育ができない」ということだろう。

■学術的な廉価版を

 東日本建築教育研究会での発表では、「パソコンの台数が生徒数に対して足りない」「OS(オペレーションシステム)が、まだ(マイクロソフトのサポートが終了した)ウインドウズXPで、しかも、処理能力が低いためフリーズする」といった報告に加え、「3次元CADソフトが高額のため、フリーソフトを使っている」という実情が明らかになった。分科会では、11年に開催された夏期研究協議会で、「建築分野の3次元CAD教育において、フリーソフトでどこまでできるか」をテーマに研修会を実施したという経緯がある。市販ソフトの価格の高さが、工業高校への普及を妨げていることへの対応策だ。
 一方で、3次元CAD実習に対して「自治体ごとに、かなり温度差がある」と吉城分科会主査は指摘する。埼玉県は3次元CAD教育に力を入れており、「当校は5、6年前に、パソコンもソフトも全部新しくした。 建築科だけでなく機械科も、今年度は設備を一新して、3次元CADを取り入れた授業に力を入れ始めている」。 建築用3次元CADソフトも「市販のものを使っている」と恵まれた環境にある。 ただ「市販ソフトの機能の半分以上は、教育現場では使わない。機能を削り、もっと低価格な『アカデミック版』 のようなものがあればいいのにとソフトメーカーに言ったら、それは難しいと言われた」とも。

■就職で武器になるか

 実習で3次元CADが使えるようになったとしても、深刻な悩みはある。「今、建築系は施工に力を入れている。各種技能検定や施工管理技術検定などを通じて、施工に関する力をつけて卒業する。それに対し、CADを武器にして就職できるか」という点だ。地元の建築会社では設計を外注するため、CADオペレーターは必要ないというスタンスだ。
 「最近、地元の積算会社は積極的に採用してくれている」ものの、「学校と同じソフトを入れた会社に対し、オペレーターとして採用するよう働き掛けたい」という思いがある。工業高校で3次元CAD実習が行われていることを知らないのも、採用につながらない原因の1つだと見る。そうした中、リフォーム会社から女子生徒に対する求人が来始めた。「3次元CADを使えば、ビフォー・アフターが分かりやすいことに加え、相談はその家の奥さんとすることが多いから、女性が顧客のところに出向いた方が安心だからだろう」と分析、建築分野で女子生徒の活躍の場が広がり始めていることの手応えを感じている。
 「3次元CADは生徒の可能性を広げるツールだ。発想したものを自由に表現でき、相手に伝えられる」と教育の効果を語る。生徒のやる気を引き出すためには、教える側の人材も含め、きちんとした教育環境の整備が不可欠。さらに、その能力を社会に還元するには、受け入れる企業があるかどうかにかかっている。
 製図はものづくりの原点だからこそ、その人づくりを担う教育現場に対する支援を、関連業界は、今こそすべきであろう。
建設通信新聞(見本紙をお送りします!)

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