2014/09/07

【現場最前線】複雑なPC版構造、車両不足、狭小敷地…それでも闘い抜く 喜多方市庁舎

蔵とラーメンで知られる観光都市・福島県喜多方市が建設を進めている新市庁舎。周辺5市町村との合併を象徴する扇形の本庁舎棟という、シンボリックな形状は、建築主と設計者の強いこだわりの証でもある。その具現化にあたっては、着工から現在に至るまで、さまざまな制約との“闘い”が続いている。施工を担当している清水建設・樫内建設工業・唐橋JVの現場を取材した。

 地鎮祭が行われたのは2013年8月上旬。1期工事として、本庁舎棟の施工に着手し、盆休み明けから既存施設の解体工事を行った。その後、12月初旬までに免震装置を設置して基礎工事に入った。清水JVの梅森宏明所長(清水建設)は「床下の基礎が一番難しかった」と振り返る。

弧状型が際立つ屋上での作業
理由はPC版構造の複雑さにある。PCの上に建つ壁を接合するための柱筋を埋め込むとともに、PC版同士を接続するシアーコネクター(金物)をすべてセットで組み込む必要があったためだ。「1枚のPC版を取り付けるために柱用の鉄筋20本の接続とシアーコネクター金物4カ所の埋め込みが必要」という状況にあった。
 しかも、その大きさは大小さまざまで何種類もある上、1枚ずつ交互に組んだり、3枚の上を1枚がまたぐなど、場所によって組み方も異なる。「1パーツごとに微妙に角度がぶれており、同じやり方で組めるところがまったくなかった」という難工事を、3次元の計測器を使いながら丹念な施工で乗り越えた。
 鉄筋全部が垂直になっていなければPC版の継手部分に挿入できないため、同型のテンプレートを2枚製作し、上下で抑え込むなどの対策を実施することで、PC版の位置精度を確保した。
 一方、震災復興に伴う車両の不足も厳しい工期の順守に立ちふさがる壁となった。南北19m、東西57mにもわたる執務室の無柱空間を具現化するため、PC床版とともに採用したST床版。その床は岩手県北上市で製作し、トレーラーで運び入れた。
 建物形状がアール形のため床版にも長短があり、短いものは一般のトレーラーで運搬できたが、長い部材は最長で19mに及び、ポールトレーラーでなければ運搬できない。しかし、その台数を必要なだけ確保することが難しく「1日に4台しか入って来ない」状況で、工程的には非常に厳しかったという。
 制約はまだある。狭小な敷地だ。現場のランドマークともいえる200t級タワークレーンの据え付けでは「置ける場所が限られ、既存の建物間のスペースが狭く、移動場所の制約が大きい」。さらにブームが届くギリギリの半径で組んだが、タワー仕様では最大荷重の問題で23tある最上部の床版が吊れなかった。そのため、斜ブーム仕様へと組み直したが、敷地が狭小なため「ばらして2日、組んで2日と4日間仕事が止まった」という。

堅牢に連なるPC版が無柱の大執務空間を支える
さらに、庁舎棟と2期のホールの間に設置する鉄骨の大庇を取り付けるための金物をすべて埋め込んで、7月中旬には躯体が終了。躯体と並行して5月から進めてきた内装工事は1階から順調に進み、8月中に完了。9月上旬に仮使用の検査を受け、10月6日にプレオープンする予定だ。
 1期工事が終了した時点での進捗率は約82%。2期では五角形のホールという、再び難度の高いシンボリックな建物の施工に挑むことになる。梅森所長は「工期は厳しいが、まずはあせらず慎重に進める。記念碑的建物をつくっているという意識を持って、丁寧に仕事を進めていきたい」と技術者魂を奮い立たせ、2期工事という新たなステージに挑む。
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