2012/01/25

「気配り」に満ちた山本理顕の世界『RIKEN YAMAMOTO 山本理顕の建築』

 山本理顕氏は、自らを「気配り」の建築家であると評している。この建築家の34年間にわたる活動が記録された本書には、延べ68㎡の「山川山荘」(1977年竣工)から延べ27万㎡のチューリッヒ空港関連施設「The Circle」(2017年完成予定)まで、規模も用途も、デザインも素材も異なる29作品が掲載されている。
 一見、ひとりの建築家から生まれたとは思えない。しかし、物語のように本書を読み進めていくうちに、どの建築も、環境、社会、地域、未来、クライアントに対する同氏の気配りを感じるところが一貫していると気づく。 約320ページの大半を、スケッチ、写真、図面に割いているが、論評も興味深い。建築空間は「施設」か、1戸の住宅に1家族が住むというのは絶対か--と、人びとが前提としている思い込みを取り払っていく。震災(おそらく東日本大震災)の被災者に会ったことで、都市に暮らす私たちが当然のように思っている「プライバシー」についても、ある言及をしている。
 社会と人の関わりを大切にした建築、崩壊した地域社会のコミュニティーを回復する住宅を思考する。こうした山本氏の考え、態度や建築を理解するのに絶好の書だ。 新工法と結びついた住民参加型の設計で、22回も平面図を描き直し、実施設計まで完了しながら幻となった「邑楽町役場庁舎」も収録。 amazonへのリンク RIKEN YAMAMOTO 山本理顕の建築

Related Posts:

  • 【本】丹念な取材で浮かび上がる建設業の役割 『地域とともに生きる建設業』 地域の発展、活性化にとって建設業が果たしている役割、存在は大きい。経済の発展や雇用の下支えだけでなく、日常のイベントや災害時の復旧・救助活動など、地域社会を下支えする産業としての側面も持っている。 一方で、これまで公共投資に依存する産業というイメージが強く、大手ゼネコンから零細企業まで一体で論じられることが多いことから、「地域を支えている産業という視点から建設業を体系的に分析されることは少なかった」と筆者は指摘する。  北海道釧路市で長く過… Read More
  • 【本】修士学生たちの感性と思考の記録『トウキョウ建築コレクション2014オフィシャルブック』 3月4日から6日間、東京で開催された「トウキョウ建築コレクション2014」。所属や専攻の壁を越えて集結した修士学生たちが、建築の現在に対し、みずみずしい感性としなやかな思考を発露させたコレクションの全記録集である。  レギュラー企画に加え、新規企画の学生とゲストが共同で取り組む特別企画「即日演習ワークショップ」の模様も余すところなく記録。 進化し続ける「トウコレ」の全体を把握し、建築の未来を探ることのできる1冊である。(建築資料研究社/日建… Read More
  • 【本】こども目線で地球温暖化防止 『やりくりーぜちゃんと地球のまちづくり』 登場人物は、環境について常に考えている中学1年生のやりくりーぜちゃんとクラスメートのけずるくん。二人は地球温暖化を防ぐにはどうすればいいか、CO2の発生の仕組みから効率的にエネルギーを使う工夫、昔ながらの知恵「気化熱利用」などについて話し合いながら理解を深めていく。そして、身近にある川の水や太陽光などを建物に利用することによって、温暖化防止につながることも教えてくれる。  日建設計グループに所属する女性スタッフ4人が制作しただけあって、地球… Read More
  • 【ダム写真集】新ジャンル確立か!? ダム協、愛好家がぞくぞく発刊!! 日本ダム協会がホームページ写真コンテストの応募を始めたのが2003年。以来毎年回を積み重ね、昨年で第11回となった。この間の応募作品は2779点、うち入賞は150点を数える。この入賞作品150点をすべて掲載した『美しい日本のダム』が発刊された。コンテストで審査委員長を務めてきた土木写真家・西山芳一氏は「応募作品が年を経るごとにそのクオリティーを上げている」とし、「“ダム写真”といったジャンルを確立できそうな勢いだ」と講評を寄せている。  一… Read More
  • 【65周年】建設通信より『提言 建設業の担い手育成・確保』刊行!! 「建設通信新聞」創刊65周年記念の一環として『提言 建設業の担い手育成・確保』と題する冊子を刊行しました。内田俊一建設業振興基金理事長の「若者を建設産業に取り戻す-いま問われる決意」と題する講演を収録したほか、昨年10月から本年4月まで、6回シリーズで発行した特集「インフラクライシス突破、真のレジリエンス確立に向けて 人 現場力」および5月30日付特集「担い手確保 人材育成の視座」を再編集しました。  全国の建設系の高校、高専、大学、専門学… Read More

0 コメント :

コメントを投稿