2012/01/10

連載・コンピューティショナル・デザイン-2-

・海外では主流化

ビルバオ・グッゲンハイム美術館
 パラメトリック・デザインを一言で言えば「幾何学的なデザイン」となるが、実際に英国在住でイラク出身の建築家ザハ・ハディド(Zaha Hadid)、オランダのUNスタジオ代表ベン・ファン・ベルケル(Ben van Berkel)らを始め、国際的な建築家が積極的に取り入れている。
 そもそもパラメトリック・デザインは、カナダ・トロント出身の建築家フランク・O・ゲーリー(Frank Owen Gehry)氏が、脱構築主義建築の具現化を果たした「ビルバオ・グッゲンハイム美術館」(1997年)にまでさかのぼることができる。
 平らな面が一切ないといわれるこの建築を、ゲーリー氏がCADシステムを用いて構造計算し、CADの利点をうまく生かしたことが評価されてきた。
 パラメトリック・デザインは、個別の部材の変更が即座に全体へと反映されるなど、まさにコンピューターの利点を最大限生かした設計手法だ。当初は航空機や産業機械の金型製造などで多用されてきたコンピューターが、現在では建築の世界で大きく花開こうとしている。

・無限の比較を可能に
GrassHopperによるパラメトリック・デザイン
 パラメータやスクリプトを使うと、理論上では無限ともいえる形状比較が可能になる。ゲーリー氏らは、コンピューターの性能がいまほどよくないころ、木と紙の模型などを使って自分たちが最良と思える形を模索した。構造などの裏付けは、意匠が固まってから検討していた。しかしその後、航空宇宙分野の設計用ソフト「CATIA」を使い始め、現在では自らが建築向けのCADを「Digital Project」という製品へと昇華させた。この流れは、現在のBIM(ビルディング・インフォメーション・モデリング)という概念へと進んでいく。
 例えば、意匠面で形状比較ができれば、モダニズム建築のような直線的でシンプルなものから、ぐにゃぐにゃした複雑な意匠までを比較して最適解を得ることができる。
 また自然な換気を導入するために、壁面の出窓形状や配置を空力学的データから導き出すこともできる。日照を優先するなら、建設地の緯度と経度から年間の日照到来方向を計算して、最適な太陽電池の配置や屋根の形状をはじき出せる。
 一方、現在ではカーテンウオールや建築部材の製作にもCNC(コンピューター数値制御)の加工が使われるようになり、数百通りの形状を持つ部材を製作することが可能になりつつある。たとえカーテンウオールが数百通りの異なった形になっても、製作ラインでCNC加工機を使えば、以前ほど高いコストは必要なくなりつつある。
 3次元CADは、すでに設計の補助ツールというよりも、あらゆる分野の合理性を実現するためになくてはならないものとなっている。今後はアルゴリズミック・デザインへの融合や、建築だけでなく環境分野への応用なども予想される。

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